<1本の電話>
ある夏の日、家で録画したアニメを見ていたとき、私の携帯電話が鳴った。
かけてきたのは、同じ大学の同じクラスの、しかし、そんなに親しくもない奴。
彼がいうことには、どうも自分の住むマンションの玄関先に、スズメバチが巣を作り始めたらしい。
このままだとどんどん巣が大きくなり、出入りのたびに襲われそうだ。でも、自分で巣をとるのはおっかない。
「お前は虫にくわしいだろうから、どうにかこの巣を取り除いてほしい」
という話だった。
正直、その話を聞いただけでは私は協力する気にはなれなかった。なにしろ危険だし、そんなに親しくもない奴のためにそこまでしてやる理由もない。
ハチ退治の業者にでも頼めばいいだろ、と、私は電話口で彼に告げるつもりだったが、私がそれをいうよりも早く「もし巣を取ってくれたら、メーヤウ(当時、大学のそばにあったカレー屋)の焼き飯を一杯おごるからさぁ。」といわれた。
私は、二つ返事でスズメバチの退治を引き受けた。
<必殺! 豚肉おびきよせ作戦>
その日の夜、さっそく私は彼の住んでいるアパートまで出かけた。
彼の住んでいる部屋は3階。
ドアのチャイムを押して、そいつにハチの巣のありかを聞くまでもなく、ドアのすぐ真上、だいたい高さ3mくらいの天井に巣はあった。
何となく予想はしていたが、コガタスズメバチのものだった。
大きさはサッカーボールより一回り小さいくらいで、私一人でも十分とれそうだった。
コガタは、日本のスズメバチとしてはわりとおとなしめの部類だ。とはいえ、相手はスズメバチ、油断はできない。
さて、これをどうするか。