『妖星ゴラス』『宇宙大怪獣ドゴラ』の2大「SF」大作を大解剖!

『ゴジラ&東宝特撮OFFICIAL MOOK vol.19』は「空想特撮映画」から「SF映画」、そして「SF」×「怪獣」という新たなジャンルに挑戦した2作品!!

テレビマガジン編集部

特技監督/円谷英二、監督/本多猪四郎。

いわずと知れた日本最初の怪獣特撮映画『ゴジラ』(1954年)の生みの親でもあるこの名タッグは、東宝のプロデューサーである田中友幸と共に、数々の特撮作品を世に送り出し、「怪獣映画」というジャンルを確立していきました。

さらなる市場の開拓を狙った東宝は、その後「SF映画」の展開に注力し、その方向性を模索していくことになります。

『地球防衛軍』(1957年)、『宇宙大戦争』(1959年)の公開を経て、大規模な予算と新たな着想をもって製作された「東宝SF映画」第3弾『妖星ゴラス』(1962年)。

そして、『妖星ゴラス』の原作者・丘美丈二郎が「ゴラス」に続くアイデアとしていくつか挙げていたプロットの中から選ばれ、製作された『宇宙大怪獣ドゴラ』(1964年)。

「怪獣路線」と「SF路線」。

1960年代初頭、東宝は異なるジャンルをどのようにシンクロさせ、新たなヒットアイコンの創造を模索したのか。

その変遷を垣間見ることのできる2本の名作をご紹介します。
©TOHO CO.,LTD.
すべての画像を見る(全6枚)

円谷特撮記念すべき50本目は集大成!

『妖星ゴラス』は、円谷英二が特殊技術を担当した50本目の東宝作品で、「構想3年」「製作日数300日」「製作費3億8000万円」と大々的に謳い宣伝されました。

ちなみに、同年公開の『キングコング対ゴジラ』の製作費が公称1億5000万円なので、『妖星ゴラス』にどれほど力を傾けられていたのかが伺い知れます。

宇宙時代を迎えた人類が太陽系に乗り出そうとしていたとき、太陽系外縁部に突如現れ「ゴラス」と命名された黒色矮星。

地球のおよそ6000倍もの質量をもったその赤く燃える妖星は太陽系に侵入し、やがて地球衝突という恐怖となって人類に襲いかかる……。

という、現在ではわりと定番化された感のある「隕石衝突系」作品ですが、迫りくる隕石から人類が生き残る方法として浮かぶのが、①隕石の軌道を変える(『アルマゲドン』[1998年]) ②隕石を破壊する(『メテオ』[1979年]) ③それでもダメなら別の星へ移住する(『地球最後の日』[1951年]) といったところでしょうか。

『妖星ゴラス』は前述の『地球最後の日』から大きな影響を受けて製作されてはいますが、お国柄の違いから隕石に対峙する人々の姿勢はまったく異なり、驚天動地の回避計画が実行されることになるのです。

さて、その方法として選ばれたのは?
ゴラスの引力にのみ込まれる最後の瞬間まで、そのデータを計測して地球へ送ったJX-1隼号と、ゴラス爆破計画のため出動したJX-2鳳号。主人公を筆頭に、鳳号パイロットの面々は青春野郎の集まりである。  ©TOHO CO.,LTD.

トンデモないような南極計画で生まれた至高の2分30秒

A:南極に原子力ロケットを埋め込んで、推力660億メガトンのエネルギーによって公転軌道から地球の離脱を図る。

隕石に対してのアプローチが不可能なのであれば、こっち(地球)が避ければいいじゃない! という、なんという斜め上をいく発想でしょうか。

この「ありえない」と「とんでもない」が重なることで本作は「活劇」として超1級の「娯楽SF」に仕上がっているのです。

一方で、数字的なものはすべて東京大学理学部天文科などに依頼した科学考証やエネルギー試算に従っているというのも、リアルSF路線であることの大事な根拠となっています。

さて、この荒唐無稽な地球移動を実現するための「南極計画」は、本編において2分30秒という長尺のミニチュア特撮によって描かれます。

500坪という広大なステージをフル活用したロングショットから始まり、巧みなミニチュアワークで動く砕氷船団やブルドーザー、ヘリコプター、合間に映し出される大型資材や建造物。

「ボレロ」を彷彿とさせる、石井 歓による重厚なスコアをバックに展開してゆく特撮シーンはまさに白眉。

その後、いかにも大人の事情で急襲してくる巨大なセイウチ型の怪獣トドラ、もといマグマと対峙するVTOL機の活躍を含め、「円谷マジック」がふんだんに盛り込まれた本作は、CG全盛となった現代においても決して褪せることのない最高峰の映像表現として一見の価値有り(!)です。
自国の技術流出への危惧から南極計画に後ろ向きだった世界各国が、やがて障壁を乗り越え一致団結していく展開は純粋にアガる。  ©TOHO CO.,LTD.

明確にアイコン化された東宝初の「宇宙」怪獣

『妖星ゴラス』では大規模な予算を投じてハードなSF路線を見事描ききりましたが、残念ながら興行的に成功したとは言い切れず。

ヒットにおいて重要なのは、優れた物語性や特撮クオリティではなく、観客を引っ張る「強いアイコン」であるという現実が露見したのでした。

その影響からか、一時は企画リストから姿を消していたこの「SF路線」でしたが、「ゴジラ映画」の相変わらずのヒットによって担保された「怪獣路線」とついに融合を果たすときがやってきます。

怪獣の生態表現にまったく新しい感覚を付加することを目指し、東宝初の宇宙怪獣として誕生したのが『宇宙大怪獣ドゴラ』です(東宝宇宙怪獣の代表格「キングギドラ」は、この4ヵ月後にデビュー)。

「重力に反した怪獣」というコンセプトのもと、その形状は未だかつてないビジュアルを得ることに成功。

新素材の活用や各種合成技術の多用により、革新的な「宇宙細胞」の表現に至ったことはすなわち、「特撮映画」そのものが新たなフェーズに入った瞬間でもありました。

しかしながら、この高空を浮遊するだけ(?)の怪獣がドラマを生み出すにはもうひとつ力がなかったようで。

物語の内容はというと、宝石泥棒のギャング団とそれを追う刑事、空手チョップの得意な謎の外国人による三つ巴の「クライムSF」が本筋で、正直「ドゴラ」よりも若林映子演じるギャングの一人「浜子」に気が行ってしまうという、それはそれでイイ感じの仕上がりとなっています。
それはやはり得体の知れないクラゲのお化けよりも、後の「ボンドガール」が勝つのである。  ©TOHO CO.,LTD.
【書籍情報】
『ゴジラ&東宝特撮OFFICIAL MOOK vol.19 妖星ゴラス/宇宙大怪獣ドゴラ』
価格:税込定価 880円
©TOHO CO.,LTD.
ゴジラ&東宝特撮OFFICIAL MOOK vol.19 妖星ゴラス/宇宙大怪獣ドゴラ(税込定価 880円)発売中  ©TOHO CO.,LTD.
この記事の画像をもっと見る(6枚)
てれびまがじんへんしゅうぶ

テレビマガジン編集部

日本初の児童向けテレビ情報誌。1971年11月創刊で、仮面ライダーとともに誕生しました。 記事情報と付録の詳細は、YouTubeの『テレビマガジン 公式動画チャンネル』で配信中。講談社発行の幼年・児童・少年・少女向け雑誌の中では、『なかよし』『たのしい幼稚園』『週刊少年マガジン』『別冊フレンド』に次いで歴史が長い雑誌です。 【SNS】 X(旧Twitter):@tele_maga  Instagram:@tele_maga

日本初の児童向けテレビ情報誌。1971年11月創刊で、仮面ライダーとともに誕生しました。 記事情報と付録の詳細は、YouTubeの『テレビマガジン 公式動画チャンネル』で配信中。講談社発行の幼年・児童・少年・少女向け雑誌の中では、『なかよし』『たのしい幼稚園』『週刊少年マガジン』『別冊フレンド』に次いで歴史が長い雑誌です。 【SNS】 X(旧Twitter):@tele_maga  Instagram:@tele_maga