漫画家・蒼井まもるさんが『あの子の子ども』でこれからの世代に伝えたいこと

漫画家・蒼井まもるさんインタビューVol.1

ライター:小川 聖子

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高校生の妊娠という難しいテーマと真摯に向き合い、丁寧な描写が話題となり、第47回講談社漫画賞・少女部門を受賞した漫画『あの子の子ども』。

Aneひめ.netでは、蒼井まもる先生に2回に分けてインタビュー。前編では、漫画『あの子の子ども』に込めた思いをお伺いします。

子どもの将来を考えたとき、「自分を取り巻いていた環境」に気がついた

──漫画『あの子の子ども』は、高校2年生の福(さち)が、幼なじみの恋人・宝(たから)との子を妊娠するところから始まる物語です。この作品は、蒼井先生ご自身の出産がきっかけで生まれた作品だと伺いました。

蒼井 そうなんです。自分が妊娠・出産を経験したとき、私は今まで、必要な性知識を学ぶ機会が非常に少なかったのだということに気がつきました。

また、出産するまでの私は、自分を取り巻く環境や世の中のあり方をそこまで深く考えることがありませんでした。それが、出産してからはその感覚が大きく変わっていって……。

自分の「今まで」を振り返って、子どもの「これから」を重ねて想像したとき、「こうなってほしくない」「こうしてほしくない」みたいなことがいろいろと浮かんできたんです。

私たちが10代、20代だったころを振り返ってみると、「実はあれは危なかった」とか、「一歩間違えたら巻き込まれていたかも」という危険って、意外とたくさんあったんじゃないかと思うんです。

自分が今こうしてここにいるのは「ただラッキーだったから」だと思い知ったら、急にすごく怖く感じてきて。子どもたちにはそうなってほしくない、自分の子どもだけじゃなく、今の若い世代にもそうなってほしくないし、そのために伝えられることがあるんじゃないかと思うようになりました。

振り返れば、自分たちのときにもそんな危険を教えてくれる上の世代の方もいらっしゃったなと思うんです。

ですが、私自身、「そういえば、何か言ってたな」くらいの、うろ覚えであることも多くて、今となっては申し訳ないような気もしています。

ただ、その方たちが心配していたことや危険というのは実際にとても大切なことなので、自分が大人になった今は繰り返し伝えるべきであると思うし、聡い子はちゃんとその発信をつかんでくれると思っているんです。
──それらを作品に込めようとされたんですね。

蒼井 そうです。また、私は少女漫画家として多くの恋愛作品を描いてきたので、恋愛や性行為の「その先」に触れることも必要なことなのではないかと思いました。

子どもが助けを求められる社会でありたいし、自分もそうありたい

──『あの子の子ども』では、高校生が妊娠したときに直面する、「こんなことが起こる」「こんなことを言ってくる人がいる」という現実的な問題を、なるべくニュートラルに描き出そうとしたと聞いています。

作中には主人公の福(さち)を取り巻くさまざまな人々が出てきます。家族や恋人、その恋人の家族や学校の先生、産婦人科のスタッフや高校のクラスメイトなど……どのキャラクターの人物像もリアクションもとてもリアルで惹きつけられました。


蒼井 これはもう、多くの皆さんにお話をお伺いしたからこそかと思います。特に中高生のお子さんがいるお父さんやお母さんがたには直接ヒアリングさせていただいて、「もしも自分の子が妊娠したら、どうしますか」というお話をたくさんしていただきました。
──そうだったんですね! 蒼井先生はなぜこんなにもリアルに福や宝の親世代の気持ちがわかるのかと思っていました。親世代へのヒアリングでは、どのようなことを感じられましたか。

蒼井 取材というきちんとした形でお伺いした場合もありますし、もっとカジュアルに、普段の会話の中で話題に出してみてお伺いしてみた場合もありましたが、どちらにしても実感は、「しっかり生きている大人の方は、しっかりしたこと言ってくださるな」という印象でした。

実際に、自分の子どもが妊娠するという経験をされた方たちにもお話を伺っていますが、頭ごなしに否定するのではなく、まずは事実を受け入れ、「ではそこから何ができるか」を考え、建設的な意見を出していた方が多かったです。

作品の中にはいろいろな意見をいうキャラクターが出てきますが、むしろそういう意見はSNSなどを参考にしました。現実の世界では、多くの人が前向きというか、きちんと対処する方のほうが圧倒的に多いのだと感じました。

社会を知っている大人には「軌道修正能力」みたいなものがあるんですよね。現状に慌てず、匙を投げず、「じゃあこうすればいいかも」「こういうふうにもできるよ」という対応策を持っている。

予期せぬ妊娠をした子も、そんな人に出会うことができればいいなと思っています。
──「助けてくれる大人」につながることが大切なんですね。

蒼井 はい。10代の妊娠、出産というと、世の中的には驚きや心配の目で見られることもあると思うのですが、それはやっぱり悲しい事件や痛ましい事件のほうが、表に出てきているから。

10代で妊娠や出産を経験していたとしても、きちんと地に足をつけて生活している子たちはたくさんいて。でもそういう子たちはただの「若い家族」になるので、透明化されてなかなか目につかないのかもしれません。

ときどき「『あの子の子ども』は、ファンタジーですね」と言われることがあります。ファンタジーかリアルかというのは個人の主観による感覚で、人によって大きく異なります。

日本には、助けを求めれば手を差し伸べてくれるセーフティネットも整備されていますので、若年妊娠した若い人たちには、悲観しないで助けてくれる大人を探してと伝えたいです。

子どもが助けを求められる社会でありたいし、自分もしっかりせねばとも思っています。少なくとも私はこの物語を「ファンタジー」にはしたくないです。
──蒼井先生は多くの取材を通して、若年妊娠は誰にもいつ起きてもおかしくない、身近に起きている現実であることを知ったともお話しされています。

蒼井 本当にそう思います。『あの子の子ども』は、人によって感想が全然違うんです。みんなこのテーマについては、それぞれが非常に強固な価値観を持っているんだな、ということも強く感じています。

主人公の福に対しては想像以上の批判や反対意見を多くいただきました。私はこの連載を始めるときに、福のような、若年妊娠を経験している子たちを批判にさらすようなことは絶対にしたくないと思っていたのですが、福に投げかけられる誹謗中傷とも取れる過激な意見を見ると、私自身が作品を描くことによってそのヘイトに加担しているんじゃないかと悩むこともありました。

もっと別の描き方があったのかもしれない、ということは毎回考え続けていることです。

今後、子どもが触れていくであろう文化のことは知っておきたい

──少女漫画の仕事をする上でも必要なことかと思いますが、蒼井先生は、中高生など10代の若者たちについてもしっかりとリサーチしていらっしゃいますね。

蒼井 そうですね。仕事柄、若者たちのメディアにはついていかなければと思っているのと、この先子どもが成長したときに触れる文化については、ある程度わかっておきたいという思いがあって……。

何か問題が起こったときに「いや、ママ全然わかんないや」というわけにもいかないかなって。それで、ときどき中高生たちのSNSを見たり、フォローしたりもしています。SNSでの若者のやりとりを見る中で、今の子たちはこんな世界に生きているんだ、改めて怖くなることもありました。

──大人でも対処が難しいようなことが次々起こってくるのが今の時代ですね。それでも人は恋をするし、恋をすればお付き合いをして、もちろん性行為に至ることもあると思います。

蒼井 そうですね。本来はそれぞれが考え、決定していくことで、あまり他人が「どうすべき」と言うことではないと思うんです。

したい人はすればいいし、したくない人はしなくていい。ただ子どもたちにそう言い切れるほど社会は成熟していないのかなと思っています。難しいですね。自分の気持ちを大切にしてねって、そう伝えたいのに自分自身の気持ちがあやふやで断言することができない。

情けないですけどそれが私自身なので、そう認めて、情けないと思っていることもひっくるめて伝えた上で一緒に考えていきたいです。

PROFILE
蒼井まもる


6月6日生まれ。B型。愛知県出身。第458回 BFまんがセミナーでシルバー賞を受賞しデビュー。代表作に『マイ・ボーイフレンド』『さくらと先生』『恋のはじまり』など。2021年より、講談社「別冊フレンド」にて高校生の妊娠をテーマとしたヒューマンドラママンガ『あの子の子ども』を連載、第47回講談社漫画賞・少女部門を受賞する。

同作はアメリカの漫画賞2024年アイズナー賞[ティーン向けベスト出版]最終ノミネート作品となった。2024年6月25日火曜23時よりカンテレ・フジテレビ系全国ネットにて火ドラ★イレブン『あの子の子ども』がドラマ放送スタート。

インタビュー後編はこちら!

蒼井まもるさんが、親子で北海道の十勝清水へ2週間の保育園留学へチャレンジされました! 保育園留学で、どんなことを学ばれたのでしょうか。

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定価:1480円(税込み)
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おがわ せいこ

小川 聖子

Seiko Ogawa
ライター

東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。

東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。