難民の子どもを支える物語を 美術館館長に聞く「サイレント絵本」の魅力

板橋美術館館長 松岡希代子さんがおすすめする文字なし絵本 4選

ライター:山口 真央

松岡さんおすすめのサイレント絵本 4選

「あかいふうせん」 作/イエラ・マリ

「あかいふうせん」写真:恩田亮一
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サイレント絵本の代表的な作品です。デザイナーとしても活動していたイエラ・マリの、洗練されたイラストが魅力。色は赤だけというシンプルな作りなのにもかかわらず、美しい画面が続きます。「あかいふうせん」の変化がわかりやすく、読者がお話を作りやすいように構成されています。

「どうぶつのおやこ」 作・絵/薮内正幸

「どうぶつのおやこ」写真:恩田亮一
以前、オーストリアの編集者に、面白い話を聞きました。「たくさんの人に読まれる絵本をつくりたいなら、主人公はなるべく小さい動物にするべきだ。主人公を人間にすると人種の違いが出るが、動物にすればその心配はない。また子どもたちは、大きいものと小さいものがあった場合、必ず小さい方に感情移入する」と。

この絵本は、まさにその言葉が当てはまるのではないしょうか。どの動物の親子も、どこか人間味のある表情や動きをしていて、読者の想像力を膨らませます。リアルで細やかなタッチで描かれていることも、この絵本の魅力の一つです。

「ぞうのボタン 字のない絵本」 作・絵/うえののりこ

「ぞうのボタン 字のない絵本」写真:恩田亮一
背中のボタンを開けると、中に一まわり小さな動物が入っている。シンプルなつくりですが、クスリと笑ってしまうユニークさがあります。次は何の動物が入っているか、想像しながら読むと面白いでしょう。

「旅の絵本」シリーズ 作/安野光雅

「旅の絵本Ⅴ スペイン編」写真:恩田亮一
旅人がたどり着いた風景や街を、細やかなイラストで描いています。絵のなかにはたくさんの物語が描かれているので、親子や兄弟でお互いが何を見えているのか、話し合ってみるといいでしょう。有名な映画のワンシーンなど、様々な小ネタが盛り込まれているので、大人も楽しめる絵本になっています。
「旅の絵本Ⅵ アメリカ編」の1ページ。中央下をよく見みてみると、「かいじゅうたちのいるところ」(モーリス・センダック)の怪獣が。

サイレント絵本はポジティブに多様性を受け入れるきっかけに

まずは、描いてあるものを確認することが大切です。絵をじっと見たあとに何が見えたのか、お子さんと一緒に話し合ってみましょう。自分では見えなかったものが、他の人の目を通すと見えることがあります。

次に、描かれているものの背景を考えて、想像力を膨らませていきます。例えばりんごの木が描かれていたら、春になると花が咲いて、秋になると実がなります。りんごの実がなったら、近くに人が住むかもしれません。もし生き物が描かれていたら、名前をつけても楽しいでしょう。見えているものから少しずつお話を膨らませると、自分で考えるいい訓練になると思います。

気をつけてほしいのは、こたえが一つではないこと。絵画鑑賞の授業で子どもたちが美術館にきてくれたときは、必ず「みんなと違う表現や感じ方をすることが素晴らしいから、この作品が美術館に飾られているんだよ」と伝えています。サイレント絵本も同じ。子どもたちが感じられたことや表現できたことを大切にし、まずは褒めてあげましょう。

そして「私はこう感じた」と意見を交換し、対話を楽しみましょう集団生活のなかでは人と違うことがネガティブに捉えられがちですが、「違うことが素敵なんだよ」ということを自然かつポジティブに伝えられるのが、サイレント絵本の魅力なのではないでしょうか。
「どうぶつのおやこ」の1ページ。ライオン三兄弟の関係や、父親ライオンの見つめる先にあるものなど、一つの絵でも、読み手によって気になる箇所は違うはず。
松岡 希代子 profile
板橋区立美術館館長。千葉大学大学院卒業後、1986年から学芸員として板橋区立美術館で勤務。1989年より「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」の担当となり、絵本作家の育成に取り組む。美術展としての絵本の可能性に注目し、著名な絵本作家の展覧会を多数開催。国際児童図書評議会国際理事、イラストレーションコンクール審査員などを歴任。一方で、女子美術大学で講師を務め、学生たちに絵本作りを教えている。
板橋区立美術館

たのしい幼稚園6・7月号ではサイレント絵本が2ページで楽しめる「もじの ない ものがたり」が好評連載中!

『たのしい幼稚園6・7月号』
定価:1200円(税込み) 講談社
絵本作家さんやイラストレーターさんに1枚絵のイラストをお願いし、読者が自由に物語を考える企画「もじの ない ものがたり」がスタートしました!

4・5月号では北澤平祐さん、6・7月号では後藤美月さん、8・9・10月号では布川愛子さん、 11・12・1月号では加藤休ミさんと注目の作家さんが続々登場! 松岡希代子さんにはイラストを読み解くポイントを、毎号解説していただいております。ぜひ、誌面でイラストをお楽しみください。
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やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。