難民の子どもを支える物語を 美術館館長に聞く「サイレント絵本」の魅力

板橋美術館館長 松岡希代子さんがおすすめする文字なし絵本 4選

ライター:山口 真央

板橋区立美術館館長の松岡希代子さん。1989年より「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」の担当となり、絵本作家の育成に取り組んでいます。

ロシアとウクライナの戦争が続く昨今、不安定な情勢下においても、子ども達の生活は続いていきます。そんななか、言葉を必要としない絵本「サイレント絵本」の存在が、今注目を集めています。

今回は、絵本の原画展を数多く行われている板橋区立美術館の館長・松岡希代子さんに、世界中でサイレント絵本が読まれている理由と、サイレント絵本を読むことで子どもたちが得られる効果や、読み方のポイントなどをお伺いしました。

ブームの発端はヨーロッパが抱える難民問題

イタリアの小さな島ランペドゥーザ島​には、近年、アフリカからたくさんの難民が流れてきます難民にはもちろん、多くの子どもたちも含まれていることから、国際児童図書評議会のIBBY※が立ち上がり、ランペドゥーザ島に図書館をつくることになりました。

アフリカと一括りに言っても、文化も宗教も言語も様々で、すべての国の人に楽しんでもらえる絵本を準備するのは困難を極めます。そこで注目されたのが、言葉の壁を越えて楽しめるサイレント絵本」です。IBBYは世界中の支部に呼びかけて、サイレント絵本のコンテストを開催し、多くのサイレント絵本がランペドゥーザ島に集まりました。このことがきっかけとなり、ヨーロッパだけでなく、韓国や台湾など、世界中でサイレント絵本が盛り上がりをみせています。

不安定な世界情勢のなかで、今もなお、難民は増え続けています。子ども達の心を守るために、サイレント絵本はさらに広まっていくべきだと、私は考えています。
※IBBY……どんな戦争や災害の渦中にあっても、子どもが一般教育を受ける権利、また直接に情報に接しうる権利を持つことを理念に活動している国際児童図書評議会。IBBYはInternational Board on Books for Young Peopleの略。

イエラ・マリ「あかいふうせん」の1ページ。絵で紡ぐ物語に、言語は必要ありません。

新しい学習指導要領は能動的な「対話」が求められる

日本では絵本の “読み聞かせ文化”が、根強く定着しています。親御さんや保育園・幼稚園の先生が絵本を読み聞かせするのは素晴らしいことですが、一方では読み聞かせる側の都合が、絵本選びに大きく影響しているようです。

例えば読み聞かせのしやすさ、読み聞かせしたときの子どもたちの反応のよさ、大人数の前で読み聞かせたときにわかりやすいイラストであることなど。こういった理由から、読み手に委ねられることが多いサイレント絵本は、日本であまり作られてはきませんでした。

そんななか、令和2年度から小学校学習指導要領が大きく変更されました。各教科の目標及び内容に「育成を目指す資質・能力の三本柱(知能及び技能/思考力・判断力・表現力等/学びに向かう力・人間性等)」を掲げ、「児童生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行う」としています。

つまり知識を身につけるだけでなく、自分で理解し、考えた上で言語化する能力を高めていく方向に、国が舵を切ったということです実際に小学校の図工の授業では、何を考えてつくったのか、仕上がったものをみてどう感じたのかを話す機会が増えているといいます。サイレント絵本を読むことは、こうした日本の新しい教育方針に慣れていくトレーニングとしても、意味があるのではないかと考えています。

日本で刊行されている文字のない絵本。

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