「光る君へ」主人公・紫式部が恋した相手は藤原道長ではない高貴な「あの人」500万部「黒魔女さんが通る!!」作者が大胆推理!

児童書作家・石崎洋司がズバリ! 「源氏物語」光源氏のモデル、清少納言との本当の関係、そして作家・紫式部の素顔とは?

作家:石崎 洋司

清少納言を誰よりも意識していた紫式部

さて、清少納言に対して紫式部は批判的だったことは、よく知られています。実際、紫式部日記には、清少納言に対する辛辣な言葉が書かれています。

けれども、国文学者の吉海直人同志社女子大学名誉教授は、実際は紫式部は清少納言と枕草子をかなり意識していたのではないかといっています。この説、わたしにはとてもおもしろく、また無条件でそうにちがいないと信じているので、紹介させてください(※くわしくはhttps://hitotsubu.dwcla.jp/episode/54/をご参照ください)。

まず、わたしたちは枕草子の「春はあけぼの」を読んで「なるほど、いわれてみればそのとおりだなぁ」と思いますが、当時の人は「???」だっただろうというお話です。

平安時代の人にとって、春といえば梅、ウグイス、桜、霞。そのなかで『当時の一般的な美意識とは異なっていた』あけぼのを出したからこそ、注目を集めたのではないか、その証拠に「あけぼの」は第一段にしか登場しない、というのです。

ところが、その一般ウケしない「あけぼの」を、紫式部は源氏物語に14回も登場させているそうです。

同じようなケースが夕顔です。枕草子の「草の花は……」の段では、さまざまな美しい草花の中に夕顔が入っています。ところが、平安時代には大きな花は美しいものではなく、貴族の庭にも植えられていませんでした。それをあえて美しいといったのも、清少納言流の“逆張り”で、当時の読者は首をかしげたかもしれないというのです。しかし、紫式部は源氏物語の主要キャラクターのひとりに、夕顔と名づけました。その花のようすも、みごとに描写しています。

つまり紫式部は清少納言を単にいじわるで攻撃したのではなく、『むしろ、紫式部が「枕草子」をよく読んで、そこから多くのことを学んでいる。清少納言を意識し、清少納言を乗り越えざるを得ない、そのことの裏返しだ』と、吉海名誉教授はいうのですが、わたしがこの説を無条件に信じるのは、まさにこれこそ「作家あるある」だからです。
 

大嫌いでも、実力を認めざるを得ないこともある

誤解を恐れずにいうと、すぐれた作家は、それまでだれも使わなかったオリジナルな文学表現を生みだすもの、というのは幻想です。むしろ、過去の作品や世の中の言説からすぐれた表現を見出し、積極的に使います。

そして、それはパクりではありません。文をまるまる書き写せば盗作ですが、すぐれた表現を使うのは、すぐれた材料で物を作るのと同じことです。

しかも、有名作家、文豪といわれる人ほど、堂々と、まるで自分が考え出したかのように使います。『よいものはよいに決まっている』し、それを『よいものと認めた自分もすぐれている』と、ゆるぎない信念があるからです。

紫式部が清少納言を毛嫌いしていたとしても、文芸に関しては「しゃくに障るほど」認めていて、その態度はコンテンポラリーな小説家に通じるものだったと私は感じています。

そして、こういう人間関係や感情もあることを、児童書作家として、子ども読者に知ってほしいなとも思うのです。

学園ラブコメで子どもたちが古典好きに!?

児童書の最大の使命は、子どもを読書好きにすることです。“文学性”に名を借りて、子どもを本嫌いにすることだけは、ぜったいにあってはなりません。

ですから『JC紫式部』もまず、タイムスリップもの、ちょっとオカルトっぽいラブコメな学園物語として、楽しく読めることを主眼に書いています。

けれども読んでいるうち、古典の知識が身につくこと、古典はむずかしいものではなく楽しい読み物であると知ること、そして、なにより、そこには自分たちと同じさまざまな感情や人間模様があることを学べるようにもしたつもりです。

子どもたちだけでなく、大人の方々にも読んでいただけたら、これほどうれしいことはありません。
『JC紫式部(2)』作:石崎洋司 絵:阿倍野ちゃこ (講談社青い鳥文庫)
紫も、道長も、みんな平安時代から、街ごとタイムスリップしてきたのだと知らされた彩羽。街ごととじこめられているせいで、道の途中でなにかにぶつかり、先に進めない。その後も「よそ者を、呪え!」とうたうへんな人たちに囲まれるなど、ホラーな出来事が続く。一方、紫が公仁と仲良くしているとカンちがいしたいずみが紫と険悪な雰囲気に……。<すべての漢字にふりがなつき。小学校高学年以上向き>
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いしざき ひろし

石崎 洋司

Hiroshi Ishizaki
児童文学作家

東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、出版社勤務を経て、作家・翻訳家としてデビュー。『世界の果ての魔女学校』(講談社)で第50回野間児童文芸賞、第37回日本児童文芸家協会賞を受賞。「黒魔女さんが通る!!」シリーズ(講談社青い鳥文庫)など多数の人気作品を手がける。伝記には『杉原千畝 命のビザ』、『福沢諭吉 自由を創る』(講談社火の鳥伝記文庫)などがある。

東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、出版社勤務を経て、作家・翻訳家としてデビュー。『世界の果ての魔女学校』(講談社)で第50回野間児童文芸賞、第37回日本児童文芸家協会賞を受賞。「黒魔女さんが通る!!」シリーズ(講談社青い鳥文庫)など多数の人気作品を手がける。伝記には『杉原千畝 命のビザ』、『福沢諭吉 自由を創る』(講談社火の鳥伝記文庫)などがある。