「光る君へ」主人公・紫式部が恋した相手は藤原道長ではない高貴な「あの人」500万部「黒魔女さんが通る!!」作者が大胆推理!
児童書作家・石崎洋司がズバリ! 「源氏物語」光源氏のモデル、清少納言との本当の関係、そして作家・紫式部の素顔とは?
2024.07.06
作家:石崎 洋司
紫式部が実際に恋していた人物は?
「源氏物語」光源氏のモデルは?
清少納言との本当の関係は?
紫式部をはじめ、藤原道長、清少納言たちが平安京ごと現代にタイムスリップしてきた『JC紫式部』を刊行している500万部児童書作家・石崎洋司氏が、大胆推理!
作家だからわかる、紫式部の素顔、そして「作家あるある」とは?
目次
「源氏物語」冒頭でわかる紫式部と藤原道長の関係
国文学者でも歴史学者でもない者が紫式部について語るなど、おこがましいにもほどがありますが、専門家とはちがった視点も、みなさんが大河ドラマや源氏物語、枕草子をより楽しむ助けにもなるかもしれず、どうか、しばらくおつきあいをいただければと思います。
まずは源氏物語の有名な冒頭の一文のことから。前回、『いづれの御時にか』は、これがフィクションであることの宣言だと書きました。が、ほんとうにだいじなポイントは、後に続く『女御、更衣(こうい)あまたさぶらひたまひける中に』にあります。
紫式部が生きた時代、帝の夫人ながら「女御」より位の低い「更衣」はいませんでした。ただ、だからこそ『いづれの御時にか』=今は昔なのだ、ともいえないようなのです。
実は、源氏物語が書かれた時期をさかのぼること五、六十年、一条天皇から数代前の村上天皇にはたくさんの更衣がいました。そして、その村上天皇自らが政治を行っていました。わたしたちが学校で習う「藤原氏による摂関政治」がはじまるのは、村上天皇を支えた聡明な弟・源高明(みなもとの たかあきら)が藤原氏によって失脚させられた後からです。
ということは、源氏物語の書き出しは、“これから語るのはフィクションですが、天皇が藤原氏のいいようにされてはいなかった「いい時代」のお話でございますよ”といってるようなもので、当時の読者もそれはわかったうえで読んでいた——前回ご紹介した『おもしろく源氏を読む―源氏物語講義』(角川書店)で、歴史学者の角田文衛氏はそのような内容を述べています。
だとしたら、紫式部も藤原道長もすごいと思いませんか? なにしろ、紫式部は道長によってひきたてられた女房で、源氏物語を書くための高価な紙も道長に与えられていたのです。そこに天皇親政の「古き良き時代」の物語を書く、しかもその意図を隠すでもなく、といってあからさまにするでもない一文からはじめるなど、紫式部は近現代の世界の文豪たちにも通じる豪胆な批評精神の持ち主といえないでしょうか。
また、道長も、それをわかっていながら「検閲」もせず、むしろ楽しんでいて、大人気の流行小説を書かせているのは自分だと誇りにさえ思っていたのかもしれないとなると、その懐の深さもかなりのものですよね。
この二人、おもしろい! この関係はぜひお話に使いたい! そう思いました。
光源氏のモデルは具平親王?
具平親王の父親は村上天皇であること。兄弟が多いので即位の可能性はほぼなく、反対に「源」姓をもらって臣下の籍に降りる可能性が強かったこと。単に血すじが良いだけでなく、「後中書王(のちの ちゅう しょおう)」と称されるほどの大変な教養人だったこと。これだけでも、キャラ的にとても光源氏っぽいわけですが、さらに興味深いのが式部とのつながりです。
式部の父・藤原為時は、花山帝に式部丞として仕えていましたが、その花山帝は道長の兄・道兼にだまされて出家、退位させられたことから、為時も失職してしまいます。そのシーンは大河ドラマでも描かれましたが、その後、為時が具平親王家の家司(執事のようなもの)の職を得たらしいことは描かれませんでした。これはあくまで「らしい」ということなので、大河ドラマではこの説を採用しなかったということでしょう。
しかし、もしそうだったら?
具平親王が住まう六条千種(ちぐさ)殿には、名だたる漢詩の研究者が集まって、さながら文芸サロンのようでした。とすれば、父・為時と同じように漢籍に通じた紫式部にとって、具平親王があこがれの人だったとしても、おかしくありません。親王のほうも、才気煥発な文学少女をかわいがっていたこともおおいに考えられますよね。
角田氏はまた、道長も具平親王に興味をもっていて、紫式部に情報を求めていた可能性を指摘しています。
藤原氏に権力はあっても、高貴な血すじや教養、人望は欠けています。一方、具平親王はそのすべてを備えている。道長が親王にある種の羨望をおぼえていたとしても、これもまた不思議ではありません。
仮にこのとおりだとすると、紫式部にとっての具平親王は『高貴で教養あふれる、あこがれの年上男性』で『世が世なら(村上帝の時代なら)政権の中枢にいるべき人』ということになります。ところが実際には不遇をかこっている。ならば、物語の世界で……。
文学少女が、高貴で教養あふれる年上の男性にあこがれて……
こうなると、物書きというのは、勝手にキャラ設定を深めたくなってくるものです。
文学少女・紫式部にとって、具平親王は、あこがれの、しかし、あらゆる意味で手の届かない男性、また、道長はその活躍を阻む憎き藤原氏の一員。
一方、若き日の道長は、三男の気楽さと若さゆえの理想主義から、父や兄たちに批判的で、具平親王こそ第二の源高明として政の世界に必要だと思っている。
そして、具平親王は紫式部を妹のように思い、道長の若さ、猛々しさを大人の目で見守っている……。
この絶妙な「三角関係」が、実際に成立するかどうか、3人の年齢差を考えても、なかなかむずかしいかもしれません。
ならば、物語の世界で……。それも、現代の学園を舞台にすれば……。
と、こんなふうに『JC紫式部』へとつながっていったわけです。