「動物の義足やさん」が約3万匹の犬・猫・うさぎ・鳥たちを救った! 「動物専門の義肢装具士」の感動秘話
たった一人で始めた動物の装具作りが一生の仕事に 島田旭緒さん
2024.07.05
作家:沢田 俊子
島田さんが動物の装具や義肢に関心を持ったのは、専門学校生のころ。
しかし、当時、動物専門の装具や義肢を作っている会社はひとつもありませんでした。
社会人になった島田さんは、ある日、動物用の装具に関心を持っている獣医師がいることを知り、その獣医師のもとで修業させてもらおうと決意します。早速、仕事が終わった深夜や休日の時間を使って装具の試作をはじめました。
それから試行錯誤を続けて3年。ようやく獣医師に認められる装具ができました。
島田さんは、勤めていた会社を辞め、「東洋装具医療器具製作所」を立ち上げました。
2007年のことです。
しかし、道のりは決して平坦ではありませんでした。
(*本記事は『動物の義足やさん』〈講談社〉から抜粋し、再構成したものです)
原点は少年時代
祖父は、鉄製品を作る工場を経営していました。ところが作業中、鉄の破片が飛んで左目にささり、失明。義眼をはめていました。その後、プレス機に左手をはさまれ、指を4本失ってしまいました。義手を作ってもらったのですが、ほとんどはめていませんでした。
義手をはめないのは、使いづらいせいだと思った島田少年は、将来は、障害のある人たちのために使いやすい装具を作る人になりたいと思うようになりました。
物づくりが好きだったこともあって、高校を卒業すると、人間の義肢を作るための専門学校に進み、国家資格も取りました。
在学中、動物の装具や義肢の必要性に気づいた島田さんは、獣医師と犬の飼い主に「動物用のコルセットや義肢は必要だと思いますか?」とアンケートを取ってみました。すると、回答者の70パーセント近くが「必要」と答えました。
でも当時、動物の装具や義肢を専門に作る会社はなく、島田さんは卒業後、人間の義肢装具製作会社に就職しました。
装具に関心を持っている獣医師がいた!
よく見ると、それは、コルセットでした。
(動物用の装具を作っている人がいる!)
心がおどったものの、獣医師が作ったというその装具は、ざぶとんに穴をあけたようなもので、人間の装具とは、かけ離れていました。
今、振り返ってみると、そのコルセットは、見栄えは悪いものの、犬の骨格と骨折の治療を考えた、理にかなったすばらしいものでした。
にもかかわらず、当時の島田さんは、
(ぼくなら、もっとうまく、かっこいいものが作れる)
と思いました。そう思うとがまんできなくなり、
「装具を作らせてほしい」
と、その獣医師に申し出ました。が、まったく相手にしてもらえませんでした。
その後、涼しいメッシュ生地やカラフルで見栄えのいい素材を使ったりして改良を重ね、その獣医師のもとに見せに行ったのですが、
「こんなものは使えない」
と拒否され続けました。厳しい言葉をなげつけつつも、獣医師は、そのつど、適切なアドバイスをしてくれました。島田さんは、
(この獣医師のもとで修業させてもらおう)
と心に決め、新しい装具ができると、
「こんどは、どうでしょう」
と、獣医師の意見を聞きに行きました。
獣医師との運命の出会い
何度も足を運んでいるうちに、澤獣医師のほうから連絡がありました。
「ポメラニアンの装具を作ってみないか?」
そのポメラニアンは子犬のときに右の前足を骨折し、ほかの動物病院で何度か手術をしたのですが、橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)の癒合(ゆごう)不全(ふぜん)といって、骨がくっつかなくなっていました。
「癒合不全でも歩けるようなコルセットを作ってください」
というのが依頼内容でした。
獣医学の知識がない島田さんには、すべてが手さぐりです。
チワワやポメラニアン、パピヨン、トイ・プードルなどの小型犬に骨折が多いのは、骨が非常に細いためだということを知りました。
骨折は、生後4ヵ月から1歳前後が多く、これは、骨が十分に成長していないからです。
主な骨折の原因は、
①抱っこから落としてしまう。
②ソファから飛び降りる。
②すべって、転んでしまう。
などがあげられますが、橈骨や尺骨が骨折した場合、強い痛みから、足を地面につけることができなくなり、飼い主が抱っこすることが増えます。するとますます足が弱ってしまいます。
そうならないように、自力で歩くための補助装具を作らなければなりません。
レントゲン写真を見ながら、島田さんは考えました。
・くっつかない骨を保護し、
・歩くときに負担がかからないようにするためには、
・どんな素材を使い、
・どんな形にすればいいのか?
そもそも、どの部分のサイズを測ればいいのか?
澤獣医師は、島田さんが壁にぶつかって相談するたび、適切に指導してくれました。
この経験から、島田さんは、動物の義肢装具士の仕事は、病気やけがを治す獣医師の補佐をすることだと思うようになりました。犬やねこなどに義肢や装具を作るには、まず、獣医師に治療のために必要だと認めてもらわなければならないと気づいたのです。
ポメラニアンの装具は、澤獣医師のアドバイスを受けながら改良を続けていました。
澤獣医師のOKが出るまで2年かかりました。
それだけ時間がかかったのは、勤めから帰った深夜や休日にしか製作の時間が取れなかったからです。
それでも、2004年から2007年までの3年間に、ポメラニアン以外にもいろいろな症例の犬の装具を60例、作りました。