植物学者・野村港二先生が考える、子どもが科学を楽しむヒント

『科学の芽えほん たんたん タンポポの ひみつ』の監修者が教える、科学の楽しさ (2/2) 1ページ目に戻る

川嶋 隆義

失敗は財産になる

──一方で大人の気持ちからすると、経験があってわかっていることがあるから、子どもたちに失敗してほしくないと考えてしまいます。

野村先生:学生たちを見ていると、今の子には失敗したことのない子が多く見られるように思えます。成功にむけて、むだなことをしたことがない子のなかには、正解をつかめるテクニックこそもってはいても、考えていないのではないか、と思われる子が見られます。それは怖いことで、自分からなにかを見いだして考えるには、ときに失敗はおおきな役割をもちます。

失敗があれば次に、ここはさけて通るべきとか、ここは試してみるべきとか、経験からわかるようになります。失敗の可能性をひとつつぶしたと思ったほうがいい。

──この絵本の主人公も一度タンポポを育てるのに失敗しています。

野村先生:そうですね。この子は失敗して次の研究へと進みます。

プロの研究者でも実験をしていくと、ひとつの実験で何回も失敗がおこるものです。研究って失敗するものですから、どれだけ失敗しているかって、財産になるんです。それだけ試していることにもなるし、考えるきっかけになるでしょう。だからぼくは、失敗してごらんっていいたいのです。

それから、研究をしていて思うのは、ぶれないのもだいじですが「ひとつのことに固執しなくていいよ」とも伝えたいです。
まわりの状況はどんどん変わっていくものだから、失敗したって、そのときどきに判断して考えを柔軟に変えていく、流れに任せることも必要です。

「科学の芽」賞の受賞作は、子どもたちが自由な発想で、びっくりするような新しいアプローチや手法を編み出そうとしています。

『科学の芽えほん たんたん タンポポの ひみつ』かんちく たかこ・文 山本 久美子・絵 岩田 くるみ・原案より
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──がんばってみたけど結果が得られないこともありますね。

野村先生:たとえば、学生によっては、論文を提出しなくちゃいけないのに、思ったとおりのデータがとれていないときがあります。手持ちのデータでなんとか作り上げなくちゃいけないときに、データに対して、うそをついちゃいけない。

だから、どんなに小さなことでもいいから「このデータからいえること」はないか考えなさい、といいます。それが論理=ロジックをつくるってことなんだと。

予想外のことが起こっても、そこには必ずなにかがあるはずです。思ったとおりの結果なんて出ないことが多いわけですから、しょげていないで、ちょっとでいいから、あるものから自分の考えを見つけ出してほしいのです。

サイエンスは表現の手段

──先生は科学に興味のある子だったのでしょうか?

野村先生:子どものころに科学者になろうという意識はなかったですが、工作や実験のようなことは大好きでした。図鑑などの本も好きでした。おぼえているのは自動車が好きで、自動車のメカニズムの本をだいじに読んでいました。それは大人向けの本だったと思うのですが、理解はできていなくても、わくわくしました。

──科学者になろうとしたきっかけは?

野村先生:ある日、美術の先生に美術系の学校に進んでみないかといわれてうれしかったのですが、冷静に考えて自分にはむりだなと思ってあきらめたのが、くやしかったのです。

でも、そのとき自分もなにか表現手段をもちたいなと思って、行き着いたのが科学の世界でした。

サイエンスって客観的なものかというと、じつはとても主観的なものです。

「たんたん タンポポの ひみつ」でいうと、数えて得られたのは客観的なデータですよね。その結果から考察して発表するのは自分の考え、主観じゃないですか。主観がなければ論文は書けないのです。仮説を立てて考察するのは自分じゃないとできない。

──科学と表現、意外なようでじつは深い関係のある組み合わせなのですね。

野村先生:だから、理科が好きな子ほど国語を勉強してほしいのです。

気になったことを研究してデータをとって、そこで生まれた自分の考えを表現したいというとき、語彙力と、ちゃんとした文法を使って正しく表現してほしい。そうすることで、はじめて自分の考えは伝わりますし、研究が生きるのです。

国語にかぎらず、カテゴリーの型にはめずに、いろいろな好奇心をのばしてほしいと思います。子どもたちには、広い目をもってもらいたい。たとえば植物や作物のことにしても、研究室のなかで見る植物と、野外や畑で土にまみれて知れることは、ちがいますから。

写真/Taka Kawashima STUDIO PORCUPINE

──絵本と科学、これもカテゴリーの枠をまたいだものといえそうでしょうか?

野村先生:じつはぼくは絵本が大好きなんです。

レオ・レオニとかモーリス・センダックとか、お気に入りの絵本が何冊もあります。

絵本屋さんにもよく行きますよ。

『科学の芽えほん たんたん タンポポの ひみつ』楽しいですね。絵があったかくてかわいいし、主人公のタンポポを見る目線が、しっかりしている。それになんといっても、犬のおかきがいい仕事をしています(笑)

原案の受賞作は、とてもていねいに実験して記録しています。中学生だった岩田さんの実験だと、絵本の対象年齢にしては少しむずかしいし、ぜんぶは入らない。うまく小学生低学年向けになっていると感心しました。むずかしくなく科学の楽しさを伝えている本ですね。

身近なふしぎを、むずかしくない方法で考えることのたいせつさを伝える絵本ですね。こういうのもまた研究というのだと思います。

野村港二(のむら こうじ)

1959年、東京都生まれ。理学博士。筑波大学名誉教授。1984年に東京大学 理学系研究科を修了。1986年に東北大学大学院理学研究科博士課程を修了。研究分野は、植物分子・生理科学、応用分子細胞生物学、細胞生物学、科学教育。

取材・文・撮影/川嶋 隆義(STUDIO PORCUPINE)

科学の芽えほん たんたん タンポポの ひみつ

科学の芽えほん たんたん タンポポの ひみつ

かんちく たかこ(文)  山本 久美子(絵)  岩田 くるみ(原案)

発売日:2026/02/26

価格:定価:本体1900円(税別)

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川嶋 隆義
かわしま たかよし

川嶋 隆義

Takayoshi Kawashima
編集者・カメラマン

「本をとおして人々を自然好きにしてしまうのだ!」を合い言葉に自然科学、生物専門に書籍の企画編集をするスタジオ・ポーキュパインを主宰。 写真撮影、ライティングと制作に深く関わって本作りをする。ポーキュパインは哺乳類ヤマアラシの英名。

「本をとおして人々を自然好きにしてしまうのだ!」を合い言葉に自然科学、生物専門に書籍の企画編集をするスタジオ・ポーキュパインを主宰。 写真撮影、ライティングと制作に深く関わって本作りをする。ポーキュパインは哺乳類ヤマアラシの英名。