「絵本は子どもの“原体験”」『第1回 読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』特別審査員・ つむパパさんインタビュー〔前編〕

子育てをエンタメに変える、つむぱぱの視点

つむぱぱ 現在はいろいろと仕事の幅が広がっていて、一言では説明が難しいのですが、「家族の幸せな時間を1秒でも増やす」ためにできることを、ジャンルを超えてやっていきたいと思っています。そのひとつがSNSの投稿であり、漫画やアニメの制作であり、絵本作りであり、という状態です。

また、来年に向けて大きなフェスも企画しています。コンセプトは「ファミリーで過ごせるフェス」。現状ではまだ、ファミリーでフェスに行くという認識が薄いことや、子どもにとってなかなか過ごしやすいとは言えない環境のフェスも多い中で、親子で手軽に行って楽しめる「日本最大のフェス」を作ろうと、企画しているところです。宣言してしまえば、後に引けなくなりますしね(笑)。

そうやって活動していく中で新しいサービスやブランドが生み出されていく……という感じかと思います。

子育て中の「もー。」な瞬間を集めた、つむぱぱさんの企画展「もー。展」の会場の様子。賑わってます!

──ひとつのジャンルにこだわるというよりも、「家族が楽しめること」というテーマが、仕事の発想の中心になっているんですね! そんな活動のきっかけになったのは、なんだったのでしょうか。

つむぱぱ 原点は「つむぱぱ(@tsumugitopan)」というアカウントで、漫画を描いていたことと言い切れます。結婚前は、家族や家庭に対する関心は薄いほうだったかもしれません。

でも、いざ自分の子どもとの生活が始まるとすごくかわいくて。そこで、家族の日々の言動をなにか書き留めたい、残しておきたいなと思って、2017年にInstagramを始めたんですね。そのうちにフォロワー数がどんどん増えていって、たくさんの方からコメントやDMのメッセージをいただくことが多くなって。その中で、子育ての困りごとを抱えている人が多いんだなと感じたんです。

家族のことは、その家族でしかわからないことが多いですよね。友だちの家族と遊んでいても、あくまで自分たちと遊んでいる時間しか共有できていないので、実状はなかなか知ることができません。少なくとも僕のところに寄せられた声は、ママががんばってワンオペ育児をしているご家庭が多くて。実は僕の家もそういうパターンでした。みんな、辛い思いをしているのかなと感じたのが「育児中、ちょっと心が休まる時間をくれてありがとうございます」という感謝の言葉からだったんですね。

だから、もっとパパとママが幸せであってもいいなって。子育てを楽しんだほうがいいということを、もと広めたいという気持ちが、少しずつ芽生えたのではと思います。

子どもは「絵本」で新しい世界を知る

──“つむぱぱ”が始まったのは、1歳を迎えた“つむぎ”ちゃんの誕生日プレゼントとして描いた、1冊の絵本がきっかけだそうですね。

つむぱぱ そうです。娘の1歳の誕生日に、なにか記念に残るようなものを手作りしたいなと思って。子どもはあっという間に大きくなってしまうので、娘の成長を絵と文で記録するなら「絵本」だなと思いついたんです。

──実際に子育てをしたり仕事をしたりする中で、つむぱぱさんにとって「絵本」はどんな存在ですか?

つむぱぱ 僕にとって絵本は、決しておおげさなものではなく、その人の価値観というか、原体験を作っていくようなものに近いのかなと思っていて。絵本を読む時期は、幼稚園やもっと年齢が低い時期だと思いますが、そのころに読んだ絵本の記憶が、自分でも驚くほど強く印象に残っています。

今でも覚えている絵本は、実家の近くにあった歯医者さんで読んだ、『絵本 地獄』(監修:宮次男/構成:白仁成昭、中村真男/装幀:貝原浩/レイアウト:貝原浩/風濤社)。僕は虫歯が多くて頻繁に歯医者さんに通っていて、歯医者さんの待合室で絵本を読むのが習慣だったんです。そこで出会ったのが、めちゃくちゃ怖い地獄の絵本で、怖いもの見たさに読んでいました。

思い返せば、その絵本で見た地獄の世界が、僕の地獄観みたいなものを作っていて。きっと僕だけでなく、たくさんの子どもたちにとっても、絵本が、現実とは違う世界の体験の始まりだったのではないかと想像すると、「絵本」が人生に与える影響力はとても大きくて重要ではないかと思います。

──絵本の記憶は、断片的になっても残っていることが多いですよね。

つむぱぱ そうなんです。映像として残る感覚があります。絵本はある程度抽象化されたイメージが絵になっているので、人間の記憶に残りやすいのかなと思います。

僕は「NOMON(ノモン)」という似顔絵雑貨・アパレルブランドで、お子さんの似顔絵を描いてグッズにしています。1年間に2000人くらいの依頼があるので、毎日、写真をお預かりしたお子さんの似顔絵を描いているんですが、イベントにご本人がいらっしゃっても、どうしても顔が思い出せなくて。でも、僕が描いた絵のTシャツを見ると「あ、この子を描いた!」と思い出せるんだと実感したことがありました。だから絵本の「絵」はすごいなと思います。

──お子さんのために読んだ絵本で、印象的な作品はなんですか?

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