茂森あゆみさん「毎日泣いた産後うつ。だけど仕事に救われた」

歌手・茂森あゆみさんインタビュー「私の“音育”」#3~育児編~

幼稚園は家族以外とつながる最初の場所 だから大人同士の相性も大切

3人の子どもを通わせたのは近所にある幼稚園。子どもと手をつないで通いたかったことや、近所であれば閉園後に園児同士が遊べるといったことも理由ですが、もう一つ、茂森さんが大切にしていることがありました。それは習い事と同じく“人を見ること”です。

「1学年22人くらいの小さなご近所幼稚園で、園庭もそれほど大きくないです。園長先生が美大卒で、工作や絵描き、音楽などいろいろと経験させてもらえます。その幼稚園を選んだ最大の理由は、私が先生たちを素敵だと思えたこと。『うたのおねえさん』のときにも思ったのは、幼稚園に通う子どもってすでにしっかりしていて、大人の顔色や気の遣い方など大人同士のやり取りよく見ているんですよね。

幼稚園って、子どもが家族以外の大人と繋がる初めての場所なので、私自身が好きだな、と思える人に預けたいし、そうじゃないと子どもたちも先生を好きになれないと思いました。3人ともすでに卒園していますが、卒園生が園児のお世話に足を運んだり、長男と次男がお世話になった先生が結婚されると聞いて会いに行ったりと、今でも親交があります。私もたまにおじゃましてコンサートをさせてもらうなど、すごくファミリー感が強い。私も子どもたちもその幼稚園が大好きだし、通わせて本当に良かったです」

読み聞かせは「歌バージョン」が盛り上がる!

音楽系の習い事にこだわることもなく、幼稚園はご近所。それでも子どもたちが音楽を好きでいるのは、家庭に自然と音楽があったから。それは茂森さんが育った環境に似ています。

「長男はすごく本が好きだったから、寝る前に歳の数だけ読み聞かせをしていました。私がどうしても眠い日には、はしょって読むんですが、バレて読み直させられたことも(笑)。その経験もあり、次男のときは私が眠いと、電気を消して子守唄……、というか私が好き勝手に歌っていました。当時、『クインテット』(NHK Eテレ)という子ども向け音楽番組を担当させていただいていて、そこでの歌を練習することも。

「それまでどんなに怒っても、寝るときは子どもたちにハッピーな気持ちで眠りについてもらうように意識していました。それも、子どもたちが音楽を好きなのにつながっているかもしれません」
写真:内田龍

ちなみに読み聞かせの際は、歌うように読むのがおすすめです。うちの子は『うずらちゃんのかくれんぼ』(作:きもと ももこ著)という本が好きで、単に読み聞かせるのではなく、自分なりにメロディをつけて読むと、子どもはもっと楽しんでくれる。『そらまめくんのベッド』(作・絵:なかや みわ)みたいに物語の中に歌が登場するものだと、特に歌いやすいと思いますよ。あとは子どもに選ばせるのもおすすめ。『ブレーメンの音楽隊』(グリム童話、絵:バーナデット、訳:ささきたづこ)を読むときは、毎回、朗読バージョンと歌バージョンのどちらがいいか子どもたちに選んでもらっていました。『そんなので寝られる?』と思うかもしれませんが、うちの子たちは寝ていましたね」

うずらちゃんとひよこちゃんが楽しくかくれんぼする様子を描いた『うずらちゃんのかくれんぼ』(作:きもと ももこ著/福音館書店)
そらまめくんのベッド(皮)を取り巻く騒動を描いた『そらまめくんのベッド』(作・絵:なかや みわ/福音館書店)
動物たちと泥棒の対決を爽快に描いたグリム童話『ブレーメンの音楽隊』(グリム童話、絵:バーナデット、訳:ささきたづこ/西村書店)

仕事と育児で声も出ず「産後うつ」気味に 助けてくれたのは周囲と仕事だった

事務所の協力もあり、長男を出産してからは仕事をかなりセーブし、子育てをメインにしてきたという茂森さんですが、それでもやはり両立は難しかったそうです。

「出産より前から参加していた『クインテット』のお仕事は続けていたんですが、生まれてからが本当に大変で。全く自分の時間が取れなくて譜読みの時間もない。うちは3人とも完全母乳を選択したので睡眠不足との戦いもありました。そうすると声が出ないし、母乳をあげていると花粉症の薬も飲めない。

『クインテット』ではアリアさんというキャラクターの声と歌を担当していたのですが、困っていたら作家さんが『アリアさんを花粉症にしちゃおう!』って(笑)。そうやって周囲の協力があったけど、それでもやっぱり1秒も目を離せない子どもの存在や練習不足で仕事に臨まなければならない葛藤、初めての育児ということもあり産後うつ気味で毎日のように泣きました」

育児と仕事の両立は多くの人が苦労することであり、茂森さんも「みなさんどうしてらっしゃるのか逆に聞きたい」と苦笑い。そんな彼女の場合は、葛藤の原因となった仕事が逆に、ストレス発散に役立ったかもしれないそうです。

「思い返すと、番組で外に出る機会が無理矢理でもあってよかったなと。あと、長男も次男もオリンピックイヤーに生まれているので、夜中にテレビをつけると選手たちが頑張っているのを見て元気をもらいました。人によっては外出じゃなくてもいいと思います。自分が少しでもリレフッシュできる何かを見つけること。それと1人でなんとかしようとしないで、周囲の人に頼るのが大切だと思います」

衣装/セレクトショップ アプト
ヘア/モリオカ マリン
メイク/モリモト マイ

取材・文/井上良太(シーアール)


※茂森あゆみさんインタビューは全3回です。
【第2回】茂森あゆみさん“絶対に叱らない先生”の導きで「うたのおねえさん」になれた
【第1回】茂森あゆみさん「うたのおねえさん」を育てた“音楽一家”と“本物のステージ” 

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しげもり あゆみ

茂森 あゆみ

歌手・女優・タレント

1971年12月15日生まれ。熊本県出身。歌手、女優、タレント。1993年から6年間、『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)の17代目「うたのおねえさん」として活動する。同番組で発表された「だんご3兄弟」は子ども以外の世代からも支持を集める大ヒットとなり『第50回NHK紅白歌合戦』に出場。現在は3人の子どもの母親として日夜奮闘している。

1971年12月15日生まれ。熊本県出身。歌手、女優、タレント。1993年から6年間、『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)の17代目「うたのおねえさん」として活動する。同番組で発表された「だんご3兄弟」は子ども以外の世代からも支持を集める大ヒットとなり『第50回NHK紅白歌合戦』に出場。現在は3人の子どもの母親として日夜奮闘している。