
体育×算数で「リレーの授業」 デンマーク発 宿題もテストもない驚きの授業とは?
受験も宿題もないのに才能が伸びる! デンマークの教育 #1義務教育編 (2/3) 1ページ目に戻る
2026.07.08
個性も興味も違うのに「比べるなんてナンセンス」
ニールセン北村さんは2001年にデンマークに移住し、言語だけでなく社会背景も含めて読み解く「文化翻訳家」として、両国の橋渡しを担ってきました。
これまで、福祉やデザイン、再生可能エネルギーなど、デンマークのさまざまな面を日本に紹介してきましたが、これらの価値を生み出す根底には「幼少期からの教育」があると実感しています。
「デンマークでは幼児教育から一貫して、他の子どもと『比べない』『競わせない』ことが基本です。その子自身の良いところを見つけ、伸ばしていくのが大人の役割だと認識されています。
人それぞれ持って生まれた個性は違うのだから、比較して『どっちが優れているか』を競うなんて意味がないと思っているんです」(ニールセン北村さん)
日本の小学校にあたる年代まで学校でのテストはなく、成績が出るのは義務教育最後(日本の中学2~3年)の2年間だけ。高校・大学受験もなく(詳細は第2回)、「偏差値」という概念は存在しません。ニールセン北村さんは、「高校や大学は専門性を考慮して選びます。『ランキングの高い学校に入る』という考えは聞いたことがありません」と話します。
デンマークでは、「テストや成績のため」ではなく、自分が興味のあることを、自分に合った方法で学ぶことが重視されているのです。
この教育状況を聞くと、のびのびと過ごせそうではあるものの、その一方で学力は身につくのか、競争がないと経済が停滞するのでは……と心配になる方もいるでしょう。
しかし、デンマークの経済競争力は国際的にもトップクラスを誇り、IMD(国際経営開発研究所)の世界競争力ランキングでは2025年4位(2022年~2023年は1位)、一人当たりGDPは日本の約2倍(デンマークは77,046米ドル、日本は35,973米ドル/ともに2025年)。経済的な豊かさもしっかり実現しています。
「子ども時代は自分の興味や得意なことを知り、進学や仕事はそれらを『最大限、生かす』視点で選びます。その結果、個人が社会で存分に力を発揮することができ、経済が発展する。デンマークにはこうした好循環があります。
それに、学校で比較や序列化された経験がないから、学びは楽しく自分の可能性を広げるものだと思っています。デンマークでは大人でも学び続ける人が多いですが、制度的な支援に加え、こうした『学び観』も影響していると感じます」(ニールセン北村さん)
では、「学ぶことが楽しい」「自分の好きや得意を伸ばす」教育は、具体的にどのように行われているのでしょうか。
小学校低学年から経験する「超実践的」な授業
デンマークの義務教育は「フォルケスコーレ」と呼ばれ、日本の小学校と中学校が一体化したもので、そこで0年生から9年生までの10年間を過ごします。0年生は日本の幼稚園・保育園などの年長にあたり、学校の生活に慣れるための就学前クラスのような位置づけです。
フォルケスコーレでは、子ども自身が「何を、どのように学びたいか」が重視されます。探究やプロジェクト型学習が本格的に始まるのは、小学校高学年から中学生にあたる年代ですが、低学年の授業も日本とは大きく異なります。
たとえば、ニールセン北村さんが教えてくれたのは、体育と算数を組み合わせた「リレーの授業」。実際に息子さんが受けた授業です。
1年生~9年生(日本の小学生~中学生)の子どもたちが参加し、縦割りチームでリレーをします。といっても、単にレースをするだけではなく、次のような流れで算数も同時に学習します。
【教科横断型・リレーの授業】
①各チームでメンバーの50メートル走のタイムを測定
②チームの平均を計算
③すべての走行順を検討(樹形図や確率を用いる)
④チームで勝てる走行順について、仮説を立てる
⑤レースの実施
上級生がチームの学習をリードしつつ、子どもたち同士でわいわい話し合って①~⑤の内容を進めていきます。
「デンマークでは、こうした実践的な学習が学年や教科を問わず行われています。その背景には、『学びは単なる記憶ではない』という教育思想があり、習得した知識を使いこなせるようになることが目標としてあるからでしょう。
子どもたちが『なぜ学ぶのか』『最終的にどう使うのか』までを理解できる、そんな授業が多いのはこのためです」(ニールセン北村さん)
異年齢の子が一緒に学ぶのも珍しくありません。子どもたちが教え合うことで理解が深まり、知識を使いこなす上級生の姿は下級生のモチベーションにもつながります。
「教室で先生の話を聞くだけの時間も限定的です。体を使って学んだほうが定着率が高いというデータもありますし、教室では飽きてしまう子も外なら積極的に参加できます」(ニールセン北村さん)
知識やスキルを具体的に活用する授業が、子どもたちの好奇心や学ぶ楽しさを引き出しています。
クラスメートは競争相手でなく「共創」仲間
デンマークの義務教育では、子ども同士が教え合い、ともに学ぶことも大切にされています。先生が一方的に教える場面は少なく、「わかる子に教えてもらう」「グループで手や体を動かして学ぶ」時間が大半です。
デジタルツールの使用が増加傾向にある近年は、アクションが伴う時間はさらに意識されています。というのも、「リアルな体験」の意義が調査で明らかになり、デジタルに偏りすぎない授業へと舵を切っているからです。
「デンマークでも入学時に一人1台デジタル端末が貸し出され、子どもたちの学習には不可欠となっています。ただ、パソコンで作業する時間が長いと、一人で学んでいる感覚が強くなってしまいます。
デンマークでは、『教室で孤独を感じない』ことも重視されていますから、デジタル空間で完結するのではなく、友だちと対話しながら手を動かし、具体的な作品やアウトプットを生み出す学びが改めて重視されています」(ニールセン北村さん)
クラスメートは競争相手ではなく、ともに学び「共創」する仲間だという考えが教育の根底にあります。デンマークでは、デジタル時代の今だからこそ、「共創」の意義が見直されているのです。

































