「親が必死に生きる姿が教育」作家・斉藤洋が語る、子どもに一生ついてまわる親子の関係性

君に贈る「物語の処方箋」

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「変えられない環境(条件)の中で、なんとかうまく生きていくしかない」

そう語るのは、児童文学作家の斉藤洋さん。

人気作品「おばけずかん」シリーズは累計200万部突破、山崎貴監督がメガホンをとり、新垣結衣さんや神木隆之介さんらが出演、星野源さんの主題歌でも注目された実写映画『ゴーストブック おばけずかん』や、アニメ化でも大きな話題を呼びました。

斉藤さんのもう一つの代表作といえば、黒猫が主人公の「ルドルフとイッパイアッテナ」シリーズです。

デビュー作にして児童文学の金字塔となった本作は、2016年にアニメ映画化されるなど時代を超えて愛され続け、今年2026年、ついに発表から40年という記念すべき節目を迎えました。

ひょんなことから故郷を離れ、東京にたどりついた小さな黒ねこ・ルドルフの物語は、「少年が教養を身につけて成長していく」というドイツの教養小説を骨子としながら、深い人生哲学とユーモアが詰まった児童文学の名作です。

この7月には、ついにイッパイアッテナの本当の過去が明かされるシリーズ最新作『おれのなまえはイッパイアッテナ』を刊行する斉藤洋さんに、物語を書き始めたきっかけや、作家人生で考え続けたこと、今に悩む子どもたち、親たちに向けてのおすすめ作品とメッセージを伺いました。

「おばけずかん」シリーズについて詳しく見る

\「ルドルフ」シリーズ最新刊/
おれのなまえはイッパイアッテナ

作家人生は「なんとかなる」から始まった“撤退戦”

──名作『ルドルフとイッパイアッテナ』は、先生が児童文学作家になられた記念碑的なデビュー作です。当時は大学の非常勤講師をされていたそうですが、それまで物語を書かれた経験はあったのでしょうか。

斉藤洋さん(以下、斉藤):いや、全然ないんですよね。大学院に行けば論文くらいは書くじゃない。でも論文なんていうのは、就職するときに最低3本必要だとか言われるから書くわけで、そういう必要性がなきゃ誰も書かないよね。

物語を書いたのも、深く考えてのことじゃないんです。非常勤講師というのは、2月から4月までの受験シーズンは授業がなくて、ものすごく暇になるの。そしてその時期は収入がなくなって貧乏になるわけ。

そのときに新聞記事で「講談社児童文学新人賞」の募集記事を見つけてね。なんと賞金が30万円だって!

▲創作経験ゼロで応募した新人賞から、児童文学の金字塔となる名作「ルドルフとイッパイアッテナ」が生まれることに。
(左:デビュー作でシリーズ1作目の『ルドルフとイッパイアッテナ』、右:40周年を迎えて刊行されるシリーズ最新作『おれのなまえはイッパイアッテナ』)

斉藤:募集記事に「小説を書くのは大変ですが、児童や少年少女向けの童話や冒険小説なら、何とかなるかも」なんて書いてあって、「そうだ、もうこれしかない!」という思いでやると決めちゃった。ゆっくり深く考えて始めたわけじゃないんだよ。

今、児童文学を真剣にやりたいと思っている人が聞いたら怒るかもしれないけれど、結果的には「なんとかなる」と明るく飛び込んだのが良かったんだろうね。

──それでも執筆にあたっては、書店で児童文学作品を買い、徹底的に研究されたそうですね。

斉藤:
そこが斉藤洋の偉いところ(笑)。「やるからには勝とう!」と思うじゃない。

募集要項には「原稿用紙60枚から500枚」と書いてあったけれど、何枚でもいいなんていうのは大人のウソ。

本当は何枚がいいのかを出版社に電話して聞いても教えてくれないだろうから、売っている本を買ってきて、文字数やページ数を全部数えたんだよ。掛け算と割り算と引き算ができれば、だいたいの適正な枚数(約200枚)は見えてくるからね。

そのとき買った本はものすごくつまらなかったんだけど……でも、「これで賞が取れるんだったら、自分もいけるな」と自信にもなった。

斉藤:「つまらない物語」というのは、お話のなかに「作者は自分でやってみていないんだな」とわかってしまうような部分や、「前提」にウソがあるもの。

お化けがいるとかいないとかいう話ではなくて、「ここから始めます」という部分に、真実でないことや矛盾が含まれていると、すべてがおかしくなってしまう。

ある揺るぎない前提から「それならこうなるかも」「こういう可能性があるかも」と生まれてくる選択肢のひとつを描いていくのが「物語」じゃない? その最初のロジックがおかしいと、全部がウソになってしまうんだよ。

自分で確かめてもいないことを「前提」にしてはダメだよね。

戦艦大和が沈んだとき、船員がどんな気持ちかを本当に知りたいと思ったら、せめて大和の大きな模型やラジコンを作って河口湖で走らせてみる……くらいのことはしなくっちゃ。それくらいでないと、読者はついてこないと思う。

▼迷子の子猫ルドルフと、文字が読める教養豊かなボス猫イッパイアッテナの友情と成長を描いた不朽の名作▼

ルドルフとイッパイアッテナ

ルドルフとイッパイアッテナ

斉藤 洋(作)  杉浦 範茂(絵)

発売日:1987/05/20

価格:定価:本体1300円(税別)

──先生が「猫の視点」を探って、低い目線で近所を歩いてみた、というお話を思い出します。それでも先生の作家としての出発点は、状況によるところが大きかったのですね。

斉藤:
僕の人生は、自分がそうしたいと思って選んだわけじゃなくて、「そこしか出口がない」という状況ばかりだったの。

僕の少年期は、にこにこ笑って話せるようなものじゃないよ。お父さんが何度か結婚と離婚をして、お母さんは何人もいる、そういう複雑な家庭だったのよ。

就職で直面した壁…『僕の人生は「撤退戦」だった』

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