「一人っ子」の中学受験 親の価値観アップデートと子どもの観察が鍵  

進学塾『VAMOS』代表・富永雄輔さん×教育ジャーナリスト・加藤紀子さん対談 #2 一人っ子親の成功体験とわが子の関係性について

進学塾『VAMOS』代表・富永雄輔さん。塾で多くの子どもたちを見てきてきたことから、一人っ子以外にも『女の子の学力の伸ばし方』、『男の子の学力の伸ばし方』(すべてダイヤモンド社)の書籍も話題に。

御三家をはじめ、難関校へ目ざましい合格実績を誇る進学塾『VAMOS』の代表・富永雄輔さんと、教育ジャーナリストとして中学受験や海外留学などを中心に、さまざまな取材をしてきた加藤紀子さんによる、一人っ子をテーマにした対談2回目。

今回は一人っ子の中学受験についてです。2023年の首都圏模試センターの調べによると、中学受験人口は2015年より9年連続で増加中。さらに、2023年は過去25年間で最多となる約5万2,600名が受験しました。

では、一人っ子の中学受験において、成績を伸ばすためのアプローチ法や親が優先すべきことはどんなことでしょうか? 富永さんと加藤さんにお話しいただきました。

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親の価値観のアップデートが中学受験の鍵を握る!?

──中学受験人口は増加の一途をたどっていて、合格争いは年々激化しています。富永さんが代表を務める進学塾VAMOSでは、前回の記事で一人っ子が多いとお話しされていましたが、一人っ子ときょうだいがいる子の中学受験ではどのような違いがあるのでしょうか?

富永雄輔さん(以下、富永さん):まず、今なぜこんなに中学受験がブームかと言うと、かつて中学受験を経験した人が親の世代になり、自分が中学受験をやって良かったから、子どもにもさせたいと思って参入している方が多くいらっしゃいます。やって良かったと思っているということは、親御さん自身の自己肯定感も高い方が多いですね。

だけれども、この「自分の成功体験を歩ませたい」というのは、つい子どもに中学受験を押しつけてしまいがちなんですよね。一人っ子家庭だと、なおさらそうなってしまう傾向があると思います。

加藤紀子さん(以下、加藤さん):「お父さんはこれでうまくいったから」というような、自分の経験値で語るのは危険ですよね。親もアンテナを立てて、価値観をアップデートしていかなくてはいけないのに。

富永さん:いざ現在の中学受験に参戦すると、「渋渋ってどこ?」、「広尾学園ってこんなに偏差値高いの?」、「今の中学受験、難しすぎない?」と、ある程度の親御さんは気づくのですが、でも一定数、気づかない人もなかにはいて。そういう親が、子どもを苦しめているケースをよく見かけます。(※渋渋=渋谷教育学園渋谷中学高等学校)

僕は子どもの勉強法については、子どものタイプ、成績、時代、住んでいる場所、通っている学校や塾、すべてをかけ算したうえで、決めなきゃいけないと思っています。「こうすれば必ず成績が上がる」なんていうものありません。

だから塾の一番の仕事は、「親の価値観のアップデート」だと思っています。特に一人っ子の親は、アップデートが必要です。そこはきょうだい親とは違うところで、きょうだい親は、自然とアップデートされていきますからね。

日本の学校に通いながら世界で使える英語を身につける12の秘訣を書いた加藤さんの新著『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ社)が2023年4月に発売されました。

加藤さん:きょうだいがいると、上の子が犠牲になってしまう部分もありますけどね。大手塾に入れても、塾任せでは無理だとか、成績を上げるのはこんなに大変なんだなど、上の子の経験を通じて気づけることが多くて。こうした一人目での失敗は、二人目以降、親のほうの成長となったりしますよね。

「長男・長女のいいところを見つけてあげよう」とか、「二人目はこうしてあげよう」と学ぶけれど、一人っ子だとそのフィードバックをする機会がないんですよね。

富永さん:そこが一人っ子の子育てのつらいところかもしれないですね。成功も失敗も1分の1で、失敗できないリスクがあるから、どうしても肩の力が入ってしまうんですよね。

その力を入れるなというのは難しいでしょうが、でも力を抜くことは意識してほしいと思います。親御さんたちは当たり前ですが悪意はなくて、時間とお金をかけてがんばって子育てをしているだけですから。

ただ、それが間違っているかもしれないし、もしかしたらここから先は無理だということもあるかもしれない。そこに気づいてはほしいですね。

富永さんの進学塾『VAMOS』は、2023年度は過去最高の合格率となりました。

富永さん:もうひとつ。塾を経営している僕から助言をするならば、一人っ子の中学受験は、早めに志望校を決めたほうがいいですよ。

というのも、きょうだいがいると1人目の経験があるので、勉強の進め方や模試の成績の見方、この時期はカリキュラムが大変だからいったん成績が下がるなどの経験値がありますが、一人っ子の場合は何もわからないところからのスタートになる。

それならゴールをある程度決めておかないと、どこまでやればいいかさえもわからなくなってしまいますから。目標は、偏差値60なのか50なのか。まず初めに決めておくことをおすすめします。

塾選びは子どもを観察してタイプを見極めることから

──適度に肩の力を抜くことが大事だとして、何を意識すればいいのでしょうか?

富永さん:とにかく子どもをよく観察することだと思います。僕は、教育の原点は観察だと思っていますから。

子どもをよく観察することで、その子にとって何が適切かを判断できますし、必要なものを与えてあげられます。それによって、より一層伸びていきます。

僕の塾では、受験のラスト4ヵ月まではできるだけ観察をして、その子の特徴を摑みきってから、最後に指導の仕方を変えていきます。

今の大手塾は、どこも頻繁にクラス替えをして、それに耐え切れる子だけが残るようなシステムになっています。これは、親がわが子を見極める能力がある家庭は成功しますが、それ以外はかなり苦しいのではないでしょうか。

加藤さん:例えば、うちの子は塾の膨大な量の宿題をサクサクこなせるタイプではないと気づいたとします。

けれども、塾に「こんな量はできないし、睡眠時間も確保しなくてはいけない。時間が足りないのでどうしたらいいですか」と相談すれば、減らすなどの対応をしてくれるのに、他の子がこなしているからと無理強いすると、塾で潰される子になっちゃうんですよね。

志望校に合格している子の親は、そこの見極めが上手だと思うんです。

加藤さんの著書『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』(ダイヤモンド社)は17万部を超えるベストセラーとなりました。

富永さん:謙遜でも何でもなく、難関校に合格している家庭は、「何もやっていないんですよ」などと言いますが、それは親が何もしなくても、本人がやれる状態まで作っているということなんです。子どもをよく観察して、どうやって塾と子どもをうまくマッチングさせればいいかをわかっているからです。

今は中学受験がブームになりすぎて、キャパを超える人までもが参入しているので、塾も努力しなくても生徒は来るわけです。だから、どこにわが子を預けるかを保護者はすごく考えなきゃいけない。これは親にしかできないことです。ずっと一緒に過ごして、観察できるのは親だけですから。

そういう意味で一人っ子には親が観察できる時間が取りやすいので、すごく有利だと思います。きょうだいがいると比較対象はあるけれど、一人をゆっくり見る時間がないことが多いですから。

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