「一人っ子」の中学受験を成功させる「自己肯定感の爆上げ」術を専門家が解説

進学塾『VAMOS』代表・富永雄輔さん×教育ジャーナリスト・加藤紀子さん対談 #3 一人っ子の自己肯定感の伸ばし方について

教育ジャーナリスト・加藤紀子さんは、「『You』メッセージで言うのではなく、『I』メッセージにすることも大事」だと話しますが、その理由とは?

進学塾『VAMOS』代表・富永雄輔さんと、教育ジャーナリスト・加藤紀子さんによる、一人っ子をテーマにした対談の3回目。

前回では、中学受験を成功させるために重要なものは「自己肯定感」が大切ということをお話しいただきました。ただ、一人っ子の自己肯定感の育て方は、「きょうだいがいる家庭とは少し違うポイントがあります」とは富永さん。

では、どんな声かけをしたら自己肯定感が上がっていくのでしょうか? 子どものやる気と自信を引き出す方法をお聞きするとともに、中学受験業界でよく言われる「自走できる子が伸びる」という説の是非についてもお二人にお話しいただきました。

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一人っ子の自己肯定感の育み方とは?

──早速ですが、一人っ子の自己肯定感はどのように育てればいいのでしょうか?

富永雄輔さん(以下、富永さん):まず覚えておいてほしいことが2つありまして、「親の理想が先走りがちになりやすいこと」と「子どもにとって親の言葉がダイレクトに響く」ということです。

例えば、テストで30点を取ってきたとしましょう。その場合70点の取れなかったところを直せばいいだけなのですが、親の理想が高すぎて、勝手に「30点」という数字に沈んでいってしまう親御さんが多くいらっしゃいます。

きょうだいがいる2人目の受験だと、「この時期は成績が下がる」とか、「このカリキュラムは難しいから仕方ない」など、気づけることが多いけれど、一人っ子の受験だと、点数だけを見て直球の言葉をかけてしまうんですよね。

加藤紀子さん(以下、加藤さん):きょうだいがいると、親に怒られてもきょうだいが逃げ場になったり、遊んでいるうちになんとなく分散したりしますよね。

富永さん:結果的に親の期待が分散されたり、気が抜ける時間があったりすると、子どもたちも勝手に息抜きできますよね。

進学塾『VAMOS』代表・富永雄輔さん。

加藤さん:あとは、子どもに対して「なんでそんなにゲームばっかりやってるの! 勉強しなさい」と「You」メッセージで言うのではなく、「I」メッセージにすることも大事だと思います。

特に一人っ子は、両親から「You」メッセージで言われっぱなしになると逃げ場がなくなって悪循環になるだけなので、「ゲームばっかりしていると、お母さんはちょっと心配なんだけど……」などと言い換えて言ってみるとか。

富永さん:そう。それにね、今の子どもたちに、上から下へ言うようなメッセージの仕方は適していないと思います。今の子は、服従に慣れていませんから。だから、寄り添うような声のかけ方が必要だと思います。親は好きに過ごしていて、子どもにだけ「勉強しとけ」と言っても聞かないですよ。

加藤さん:「親も一緒に」って、すごく大事ですよね。これは別に親も一緒に勉強しなきゃということではなくて、「お母さんが洗濯物を干している間に、ドリル終わるかな? いくよ! よーい、ドン!」などとすると、子どもはやる気になりますよね。

富永さん:時代は変化しているのに、いまだに教育産業は服従スタイルのまま。塾でハチマキを巻いたり、朝から晩まで授業をすることに社会的な批判は出ませんよね。むしろ、塾からやりきれないくらいの宿題が出ているほうがいいと思いがちですし、「自習室はありますか?」と聞かれることも多い。

でも勉強は服従させれば伸びるわけじゃなく、子どもに合ったスタイルを見極める力が必要だし、やる量を調節する意識を持たないと子どもが潰れてしまいます。

第二子以降だったら、その調節がわかるけれど、第一子にそうする勇気は持てないんですよね。第一子や一人っ子にもそれができたら、いい中学受験になると思いますね。

「中学受験は自走できる子が有利」は本当?

──中学受験は「自走できる子」が有利と言われたりしますが、本当のところはどうなのでしょうか? 一人っ子の場合、親がべったり手をかけることも可能だと思うので、それはそれで危険なのかなと思うのですが。

富永さん:伴走が駄目ということはありません。精神年齢も性格もそれぞれなので、伴走したほうが伸びると思うならサポートすればいいと思います。

ただ、一人っ子の親御さんはのめり込みすぎてしまう傾向はありますね。自分がそうなりそうで不安なら、逆に手をかけられない状況にしてしまうくらいのほうがいいのかもしれません。

例えば、「仕事が忙しくて」とか、「介護が大変で全然子どもの勉強を見てあげられなくて」と悩む保護者の方には、「それくらいでいいんじゃないですか?」と言っていますから。

加藤さん:私も子どもが嫌がらないなら伴走していいと思います。ただ、子どもを自分のアバターにするのは避けましょう。子どもの中学受験が自分のリベンジでもあると設定したりすると、結果的にうまくいかなかった、というケースを多く見てきました。

富永さん:あと、中学受験で伴走していたのに、入学したらいきなり「もう中学生なので、今日から伴走ゼロです!」と手を離すのにも無理があります。そこは徐々に離していかないと。

ただ、親の関わりをポジティブに捉えている学校と、そうじゃない学校があるので、そこは見極めたほうがいいですね。

加藤さん:そうですね。例えば、御三家の男子校だと授業参観がありません。驚かれるかもしれませんが、学校側が子どもたちの自立を促す意味でも、子どもたちの世界をしっかり守っているのだと思います。

富永さん:入学式が立志式みたいな学校もあれば、同じ男子校でも獨協中学のように、「親御さんは寄り添いたいでしょうけど寄り添わなくていいです。代わりに、情報は全部学校から流しますからね」というスタイルの学校もあります。できるだけ伴走したいという親御さんは、そういう学校に入れて、ことあるごとに一緒に走ればいいのではないでしょうか。

加藤さん:最終的には、子どもは勝手に離れていきますからね。親のほうがむしろ子どもから離れられない方が多いんじゃないかな。

富永さん:子どもに尽くす親が讃えられてきた風潮もありますよね。メディアが、何かを成し遂げた方について書くときも、親を取り上げるし、勲章のように語りたがる親御さんも実際います。

でも、親はあくまでも子どもの脇役に徹するべきです。僕は受験に関して「親と塾は脇役、主役は子どもです」と言い切っています。

加藤さん:親も子育て以外に没頭できることがあればいいんですよ。どんなことでも、場所でもいいから、サードプレイスを作ることは必要ですよね。

中学受験の話では、おおいに盛り上がりました。
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