
教科横断型「プロジェクト」とは? 教室がこんなに変わる! 公立小学校教師の革新的取り組み大公開〔茅ヶ崎市発〕
学校の「当たり前」を考える 山田剛輔先生の実践#3 「プロジェクト」で変わる教室
2025.03.15
「嫌だ」と言える教室
学校では当たり前となっている「先生の言うことには無条件に従う」という前提に、強い抵抗を感じるという山田先生。教室が子どもたちにとって「自分の意見を言える場所」であることも、大切にしています。
「僕が『これをやらない?』と問いかけても、やりたくなければ『嫌だ』と言っていいと思っています。
それは必ずしも、『嫌なことはすべてやらなくていい』ということではありませんが、気持ちを話してもらえばその理由を聞き、対話しながら最善の方法を考えることができます」(山田先生)
取材中、山田先生からの提案について、「自分はしたくない」と意思表示した子が数人いました。先生はその子たちの話を聞き、子どもたちが許容できる方向性を探っていました。
「学校、クラス、授業のつくり手は子どもたちです。僕も参加者の一人ですが、中心ではありません。学校生活をよりよくするためにはどうしたらいいのかを、常に子どもたちと一緒に考えることが重要だと思っています」(山田先生)
子どもの「うねり」に向き合う
子どもたちの興味や好奇心を大切に、リアルなテーマで学ぶ山田先生の授業。子どもたちの学習意欲は高いといいますが、いつも順調に進むわけではありません。
「プロジェクトメンバーごとに進めていくための時間をとっても、話が逸れてしまったり、意見がまとまらなかったりすることもあります。でも、そうした経験をすることもまた、学びだと思っています。
前回の話し合いはうまくいかなかった、じゃあ次はどうしたらいいか、など考える材料にしながら、一歩一歩活動を進めています」(山田先生)

2022年から山田先生の授業に伴走する久保寺節子先生(青山学院大学教育人間科学部特任教授)は、「すべての子が朝から午後3時ごろまでずっと集中して取り組むなんて、普通に考えて難しいですよね。しかも、子どもたち全員が同じリズムで、均一的に学ぶということはありえないと思います」と話します。
久保寺先生は、こうした前提を踏まえて山田先生の実践を次のように評価します。
「授業の中である子はすごく前向きに取り組むけれど、気持ちが乗らない子もいます。ですが、子どもの意欲は1時間(日・週)の中でも変化し、気持ちが乗らなかった子が真剣に取り組む姿があります。そのような一人ひとりの気持ちの「うねり」※が、学級の1時間・1日の中で急にぐっと凝縮されたように集中するときがあります。
※佐藤学氏(東京大学名誉教授)は、「学びという経験の時間は、本来、うねりのある個人的で質的な時間であり、可逆的で循環的な時間である」と述べている。佐藤学「学びの対話的実践へ」佐伯胖・藤田英典・佐藤学編『学びへの誘い(シリーズ学びと文化①)』東京大学出版会、1995年、p76
そのときの子どもたちが学びに向かう集中力は、本物です。誰かに指示されたからではなく、一人ひとりの「うねり」が互いに連鎖し、学級全体で響き合う関係から立ち昇ってくるのです。そこで学ぶ心地よさを味わった子どもたちは、次により深く学ぼうとするでしょう。
山田先生は子どもたちの『うねり』を尊重します。積極的になれなかったり、集中できなかったりするときの子どもの声に向き合い、対話しながら一緒に学びをつくっています。
大人の予想をはるかに超えた学びが生まれるのは、そうした山田先生の子どもを心から信頼するまなざしがあるからではないでしょうか」(久保寺先生)
第4回は、「プロジェクト」における評価のあり方、子どもの意欲につながる評価方法を模索する山田先生の取り組みについてうかがいます。
─◆─◆─◆─◆─◆─◆

【山田剛輔 プロフィール】
茅ヶ崎市立香川小学校総括教諭。2005年に教員になり2024年で20年目。2018年から香川小学校に勤務。2024年9月『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版/共著)を出版。神奈川県「第1回いのちの授業大賞」優秀賞受賞。

取材・文 川崎ちづる
【学校の「当たり前」を考える 山田剛輔先生の実践】の連載は、全4回。
第1回を読む。
第2回を読む。
第4回を読む。
※公開日までリンク無効
川崎 ちづる
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。