自由学園・体験型学習を実践した教師が気づいた「今の大人に必要なある視点」

【小学校教育2.0】自由学園の実践#2「体験からはじまる学び(後編)」

ライター:川崎 ちづる

子どもたちの関心が広がり、学園内の苔を採取して観察する授業へと発展しました(2年生)。   写真提供 自由学園初等部

「学びは体験からはじまる」と考え、授業にさまざまな体験を組み込む自由学園初等部(小学校)。

どのような内容の「体験」を選択して学びを展開するかは、その年によって大きく変わります。先生方は、常に目の前の子どもの姿から、興味・関心がどこにあり、どんな支援をすれば充実した学習につながっていくかを考えています。

第2回は、「決められたプログラム」や「手法」からではなく、子どもと向き合って進める具体的な授業実践について、初等部部長(校長)の高橋出(たかはしいずる)先生と、2022年度に4年生の担任をした田嶋健人(たじまけんと)先生にうかがいました。

※全4回の第2回
#1を読む

体験が興味を広げ、新たな学びにつながる

「体験」が子どもたちのさらなる興味を引き出し、新たな学びにつながっていくこともあります。

「ひとつの体験がどんなふうに広がり、どこに着地するかはクラスにいる子ども次第です。

#1で紹介したタケノコについて学習した子どもたちの場合は、タケノコからきのこへ関心がシフトし、そして同じ菌類である苔の学習まで到達しました。

2人はきのこに興味津々です。  写真提供 自由学園初等部

きっかけは、タケノコ観察へ行く途中で生えていたきのこに、数人の子どもたちが興味を持ったことでした。彼らはどんどんのめり込んでいき、休み時間や放課後に、自主的にきのこを観察しに行くようになったんですね。

それを見た担任の先生は、教室にきのこ関連の本や図鑑を置いたり、ポスターを貼ったり、子どもたちの興味をさらに引き出し、深めていく手助けをしていきました。保護者の方も、週末にきのこの展示がある博物館などへ連れていくなど、サポートをしてくださいました。

そして、1年生が終わるころには、クラス全体できのこへの関心が高まり、みんなすっかりきのこに詳しくなっていました。

タケノコときのこ、関係ないようにも見えますが、タケノコをじっくり観察したことで植物に興味が湧き、きのこの存在に気づいた面もあると思います。子どもの興味や好奇心は、意外なところでつながり、広がっていくものです」(高橋先生)

タケノコ観察で竹やぶに通ったことが、キノコへの関心につながりました。  写真提供 自由学園初等部

きのこに関する子どもたちの自主学習は、進級して2年生になっても続きました。

担任の先生は、「子どもたちが自発的にはじめた学びを発展させていきたい」と考え、どのような学びにつなげられるのか、その可能性を検討したといいます。すると、学園の高等科に、苔について研究を行っている生徒がいるとわかりました。

苔もきのこも「菌類」という共通点があったため、その生徒に子どもたちの前で授業をしてほしいと依頼。2022年12月、2年生のクラスで高校生が先生になった苔の授業が実現しました。

学園の敷地内で苔を探す子どもたち。  写真提供 自由学園初等部

「まずは学園内でフィールドワークし、いろいろな種類のコケを教室に持ち帰りました。その後は顕微鏡で観察したり、標本を作ったり。なんと学園の敷地には、70種類ものコケがあるそうで、子どもたちは目を輝かせて授業に取り組んでいましたね」(高橋先生)

この日の学習で、子どもたちは苔にとても詳しくなりました。  写真提供 自由学園初等部

誰かにテーマを与えられたわけではなく、子どもたち自身が興味を持つことではじまったきのこの学習。それを先生が見落とさずにキャッチし、さらに学びが深まりました。

「先生方は、いつも注意深く子どもたちの様子を見ています。子どもたちの興味のフックがどこにあるのかを敏感に察知し、それを拾い上げ、授業や毎日の学校生活に取り入れていきます。

テーマやプログラムありきではなく、子どもたちの興味や関心に向き合って学びを進めるよう、先生たちは常に工夫してくれていますね」(高橋先生)

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