
『どしゃぶりのひに』全ページ無料公開!【「あらしのよるに」全7巻 全ページ試し読み】380万部の国民的ベストセラー 20年ぶり“奇跡“の新シリーズが3月12日スタート!
「あらしのよるに」シリーズより『どしゃぶりのひに』を全ページ無料公開!
2025.03.10

オオカミのガブとヤギのメイが「食う・食われる」の関係を超えて友情を育む物語、『あらしのよるに』。
「ともだちだけど、おいしそう」のキャッチコピーで親しまれる本作は、1994年の初刊行以来、多くの読者に愛され続け、380万部の国民的ベストセラーとなっています。
そしてこのたび、20年ぶりとなる新刊『新あらしのよるにシリーズ(1) あいことばはあらしのよるに』が3月12日(水)に刊行されます!
新刊の発売を記念し、『あらしのよるに』シリーズ全7巻の期間限定無料公開が決定!
本記事では、本シリーズ5作目となる『くものきれまに』を全文公開いたします。
「あらしのよるに」シリーズ第5章『どしゃぶりのひに』

作:きむらゆういち 絵:あべ弘士
※全ページ公開は4月10日(木)をもって、終了いたします。

ゆうぐれどきの おだやかな ひざしが、かれはじめた ヨモギの おかを やさしく てらしている。
そのヨモギを つぎつぎに ふみたおしながら あるいている 一ぴきの ヤギが いた。
ヤギの なまえは メイと いった。
やがて、ちいさな おかの うえは、まるで 一ぽんの せんが えがかれたように なる。
それは、とおく バクバクだにからも みることが できた。

「お、あしたでやんすね。」
一ぴきの オオカミが それを みつけて つぶやくと、
バクバクだにの のはらで、おなじようなことを はじめた。
どうやら それが 二ひきの ひみつの あいずらしい。
オオカミのなまえは ガブと いった。
あらしの よるに、二ひきは まっくらな こやの なかで であった。
くらやみで あいてが だれだか わからないまま、ひみつの ともだちに なってしまったのだ。

ガブが メイに あいずを おくりおわって むれに もどると、こんな はなしごえが きこえてきた。
「どうだい、あしたあたり ヤギでも くいに いかないか。」
「いいねえ、ソヨソヨとうげにでも ヤギがりに いくか。」
ガブは ぎょっとした。
たったいま メイと やくそくした ばしょが、
ソヨソヨとうげだったからである。
「おい、ガブ。おまえも いくよな。」
「ヤギの にくは ガブの だいこうぶつだもんな。」
「も、もちろんす。」
なかまたちに さそわれて、ガブは そう こたえるしか なかった。
でも、ヤギの にくが すきだったのは メイと しりあうまでの はなしだ。
いまでは ひとくちも くちに していない。

あくるひの ソヨソヨとうげは、くもひとつ ない いいてんきに めぐまれた。
オオカミたちは すきっぱらを かかえ、するどい めを ひからせて やってきた。
「おい、ここからは ばらばらに わかれて えものを さがそうぜ。」
「へい、みつけたら すぐに あいずを しやす。」
いちばん としうえの ギロの ことばに、オオカミたちは ちりぢりに
はやしの なかに はいっていった。

ガブは ひっしだった。
だれよりも はやく メイに あって、このとうげから にがさなければ。
はやる きもちを おさえて、さりげなく はやあしで クヌギばやしを ぬける。
やがて、やくそくの キンモクセイの しげみが みえてきた。
「メイ! たいへんなんす。」
「やあ、ガブ、どうしたんです。そんなに……。」
ガブは てばやく せつめいすると、あたりを みまわした。

「さあ、はやく こっちに。」
なかまの すがたが みえないのを たしかめると、ガブは メイに あいずを した。
そうやって 二ひきは、すこしずつ こかげや しげみに かくれながら、
とうげの はずれに むかった。
「もう、だいじょうぶでやんすよ。」
「ありがとう、ガブ。また こんど。」
あしばやに とうげを かけおりていく メイを みおくりながら、ガブは ほっと むねを なでおろした。
しかし、なにごともなくおわったかに みえた このひの できごとは とんでもない
うんめいの はじまりだったのだ。

サワサワやまが かすかな ほしあかりに つつまれる ころ、一ぴきの めすの ヤギが
いのちからがら もどってきた。
「だいじょうぶ? おばさん。」
「どこで やられたの?」
きずだらけの ヤギに なかまが かけよる。
「ふうー、ソヨソヨとうげだよ。
なんびきもの オオカミに おいかけまわされてさ。
もう いきた ここちが しなかったよ。
ほかにも、ヤギが なんびきか きてたみたいだけど、たすかったか どうか……。
あっ、そうそう。」
そのヤギは きゅうに こえを ひそめると こんなことを いいだした。

「にげてる とちゅうでね、あたしゃ、えらいものを みちまったんだよ。」
「え? なにを……。」
「それがね、ヤギと オオカミが たがいに あいずしあいながら、
二ひきで あるいていたのさ。」
「なんだって!」
「そう、それも そのヤギ、どっかで みた おぼえが あると おもったら、メイじゃないか。」
「ま、まさか、あの メイがぁ!?」
「ありゃあ まるで、なかの いい ともだちみたいだったね。」
「そういえば、このところ、よく ひとりで でかけるとは おもってたんだか。」
「うーん、どうなってるんだ。」
「とにかく、ほっとくわけには いかないぞ。」

このはなしは たちまち なかまの あいだに ひろがった。
あさに なって メイが めを さました ころには、もう なかまの ヤギが みんな、
メイの ところに あつまっていた。
「どういうことなんだ、メイ。」
「あの にくたらしい オオカミと なかよく あるいてたんだってな。」
「ちゃんと せつめいしてもらおうか。」
みんなに せまられて、メイは とうとう、おもたい くちを ひらいた。