生返事してませんか? 忙しくても子どもの声にきちんと耳を傾ける方法とは

シリーズ「子どもの声をきく」#1-2  子どもアドボカシー協議会理事長・相澤仁さん~子どもの声の聞き方 家庭での実践法~

NPO法人子どもアドボカシー協議会理事長・大分大学福祉健康科学部教授:相澤 仁

「聞いているけど聞いていない」親たち

「いやいや、私は子どもの話を聞いていますよ」「『あとでね』と言わず、その都度聞いていますよ。ただ、四六時中相手にしていると家事も仕事も一向に進みません!」──そんな方もいるでしょう。

中には、一日中「ねえ、見て」「こっち見て」「聞いてる?」「これどんな意味?」「ねえねえ、クイズだよ~」と話しかけられ、そのたびに対応し、困惑する人もいると聞きます。特に在宅ワークや家事で忙しいパパママにとっては大変ですよね。

ただ、もしかしてその場その場で聞いているつもりでも、生返事になっていることはないでしょうか? 

親は聞いてあげたつもりでも、大切なのは子どもが「ちゃんと聞いてもらった」と思え満たされているのかどうか。

もし頭の中では家事の段取りや仕事のことを考えて子どもの話が右から左に抜けている状態ならば、それは聞いたうちには入りませんし、子どもも「聞いてもらえた」とは実感しづらい。だからこそ、数分おきに「見て見て」「聞いて聞いて」と話しかけてくるのかもしれません。

いっそ、「今お話を聞ける状態じゃないから、この作業が終わった30分後に時間を作るよ。その時間でちゃんと話せるように話をまとめておいてくれる?」などと提案し、改めて時間を取ったほうがいい場合もあるでしょう。

そうすると子どもも意外と満足し、数分おきにエンドレスで話しかけてくることも少なくなるかもしれません。

親は子どもに「許されている」

得てして親は我が子のことよりも家事や仕事、それに大人同士の関係性を優先してしまいがち。そしてそんな親を、実は子どもは黙って許しているもの。

先ほどの話でいえば、「あとでね」と言って、実現しなかったことも子どもは許しているのです。

親は子どもに「噓をつくな」と普段から言っているにもかかわらず、親は「あとでね」と噓をついていることになります。けれど、そんなことをいちいち親に言う子ばかりではないでしょう。

また、本当は「家で好物のハンバーグを作ってほしい」と思っていても、「パパママが一生懸命仕事をしているからおねだりしちゃいけない」といった気持ちをのみ込んで生活してくれている。

子どもは柔軟だから、親に合わせてくれている。だからこそ何となく生活が成り立っているように見える面も、実は結構あると思うんです。

私の考えでは、教育や福祉は、子どもの許容の上に成り立っている。そのことを親が自覚しながら生活していくことも大切だと思います。

最後に大事なことをもう一度。親は子どもを、一人の人格を持った人間として向き合ってあげてほしい。

常日頃から生活の中で、自分の気持ちを声に出し、それをしっかり聞いてもらえていれば、子どもは自然と自分の意見を素直に言えるようになるはずです。

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親が子どもを許しているように、子どもも親を許している──。振り回されているのは親だけでなく、子どもも同じで、実は「お互いさま」。

そう考えると、子どもへの視点や言葉が少しずつ変わってくるかもしれません。次回は、「受け入れがたい子どもの主張」とどう折り合いをつけていくか、相澤先生の考えを聞きます。

相澤 仁(あいざわ・まさし) 
全国子どもアドボカシー協議会理事長。1956年埼玉県生まれ。立教大学大学院文学研究科教育学専攻博士課程後期課程満期退学。国立武蔵野学院長を経て、2016年4月より、大分大学福祉健康科学部教授。専門は、子ども家庭福祉と非行臨床。1982年から約30年間、児童自立支援施設にケアワーカーなどとして勤務。長年子どもたちと寝食をともにする生活を送り、実践研究を重ねてきた。

現在、日本子ども家庭福祉学会会長、厚生労働省社会保障審議会児童部会部会長代理、全国家庭養護推進ネットワーク共同代表、全国子ども家庭養育支援研究会会長も兼任。


取材・文/桜田容子

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あいざわ まさし

相澤 仁

全国子どもアドボカシー協議会理事長

1956年埼玉県生まれ。立教大学大学院文学研究科教育学専攻博士課程後期課程満期退学。国立武蔵野学院長を経て、2016年4月より、大分大学福祉健康科学部教授。専門は、子ども家庭福祉と非行臨床。1982年から約30年間、児童自立支援施設にケアワーカーなどとして勤務。長年子どもたちと寝食をともにする生活を送り、実践研究を重ねてきた。 現在、日本子ども家庭福祉学会会長、厚生労働省社会保障審議会児童部会部会長代理、全国家庭養護推進ネットワーク共同代表、全国子ども家庭養育支援研究会会長も兼任。 『おおいたの子ども家庭福祉──子育て満足度日本一をめざして』(編著:井上登生、河野洋子、相澤仁/明石書店刊2022年)、『みんなで育てる家庭養護シリーズ全5巻』(編集代表、明石書店刊2021年)、『やさしくわかる社会的養護シリーズ全7巻』(編集代表明石書店刊2012~2014年)、『社会的養護Ⅰ』(共編、中央法規刊2019年)など。

1956年埼玉県生まれ。立教大学大学院文学研究科教育学専攻博士課程後期課程満期退学。国立武蔵野学院長を経て、2016年4月より、大分大学福祉健康科学部教授。専門は、子ども家庭福祉と非行臨床。1982年から約30年間、児童自立支援施設にケアワーカーなどとして勤務。長年子どもたちと寝食をともにする生活を送り、実践研究を重ねてきた。 現在、日本子ども家庭福祉学会会長、厚生労働省社会保障審議会児童部会部会長代理、全国家庭養護推進ネットワーク共同代表、全国子ども家庭養育支援研究会会長も兼任。 『おおいたの子ども家庭福祉──子育て満足度日本一をめざして』(編著:井上登生、河野洋子、相澤仁/明石書店刊2022年)、『みんなで育てる家庭養護シリーズ全5巻』(編集代表、明石書店刊2021年)、『やさしくわかる社会的養護シリーズ全7巻』(編集代表明石書店刊2012~2014年)、『社会的養護Ⅰ』(共編、中央法規刊2019年)など。

さくらだ ようこ

桜田 容子

ライター

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。