【発達障害】特別支援学級とインクルーシブ教育の壁…文科省通達で広がる波紋
「それぞれのメリット・デメリットは?」発達障害と特別支援学級#3
2023.03.16
ジャーナリスト、特別支援教育支援員:小山 朝子
文科省の通知で広がる波紋
保護者への取材を進めるなかで「インクルーシブ教育の考え方は賛成できるが、現場では逆行するような動きもある。一定時間以上通常学級で授業を受けると、通常学級に籍を移すよう促されるんです」という意見がありました。
この保護者の発言の背景を探ったところ、文科省による「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」(2022年4月)という通知に辿り着きました。
文科省では一部の自治体を対象とした調査を行い、
「特別支援学級において障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じた指導を十分に受けていない事例」
があることが明らかとなったとし、
「特別支援学級に在籍している児童生徒が、大半の時間を交流及び共同学習として通常の学級で学んでいる場合には、学びの場の変更を検討するべきであること。言い換えれば、特別支援学級に在籍している児童生徒については、原則として週の授業時数の半数以上を目安として特別支援学級において児童生徒の一人一人の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じた授業を行うこと」
としています。
この通知については、障害がある児童を「分離」する差別だとして、大阪府の保護者らが大阪弁護士会に人権救済を申し立てるなど、波紋を呼んでいます。
筆者の個人的な思いとしては、特別支援学級で授業を受けている時間、通常学級で授業を受けている時間と区切ることなく、児童が「居心地がよい空間で、自由に授業を受けられ、行き来ができる環境」が望ましいと感じます。
インクルーシブな社会を実現するために
「交流及び共同学習」とは、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が学校教育の一環として活動をともにすることです。社会における「心のバリアフリー」の実現に資するものとして文科省も推進しています。
筆者が特別支援教育支援員をしている学校でも「交流及び共同学習」が行われていますが、「心の交流」というより「場の共有」という表現のほうが適しているのではないかと感じることもあります。
インクルーシブ教育と似た言葉に、「インテグレーション教育」があります。統合教育とも言い、障害の有無で児童を区別した上で、同じ場所で教育を行うことを指します。
インクルーシブ(inclusive)は、包摂的な、すべてを包み込むという意味の言葉です。
児童が成長すれば「通常学級」か「特別支援学級」かという棲み分けはなくなります。
しかし、障害をもっているか、いないかというレッテルを貼って人を判断するという、目に見えない境界線が社会には未だ存在しているのではないでしょうか。
インクルーシブは教育の場だけで考えるべき課題ではありません。インクルーシブな社会を目指すため、あなたにできることがきっとあるはずです。
【小山朝子氏による「特別支援学級」についての連載は全3回。1回目では「発達障害と特別支援学級の基礎知識」として、特別な支援を必要とする児童の就学先について解説。2回目では、特別支援学級に通う児童と保護者を取材、「特別支援学級をめぐる現状」について解説します。最後の3回目では、「インクルーシブ教育と特別支援学級」について解説します。】
小山 朝子
20代から始めた洋画家の祖母の介護をきっかけに介護ジャーナリストとして活動を展開。その間、高齢者・障害者・児童のケアを行う全国の宅老所なども精力的に取材。2013年より東京都福祉サービス第三者評価認証評価者として、障害者を対象とした「生活介護」、「就労継続支援A型・B型事業所」などで調査・評価活動を多数行ってきた。 著書『世の中の扉 介護というお仕事』(講談社)が2017年度厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財に選ばれる。現在は執筆、講演、コメンテーターの傍ら、ボランティアとして地域の小学校の特別支援教育支援員も担っている。
20代から始めた洋画家の祖母の介護をきっかけに介護ジャーナリストとして活動を展開。その間、高齢者・障害者・児童のケアを行う全国の宅老所なども精力的に取材。2013年より東京都福祉サービス第三者評価認証評価者として、障害者を対象とした「生活介護」、「就労継続支援A型・B型事業所」などで調査・評価活動を多数行ってきた。 著書『世の中の扉 介護というお仕事』(講談社)が2017年度厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財に選ばれる。現在は執筆、講演、コメンテーターの傍ら、ボランティアとして地域の小学校の特別支援教育支援員も担っている。