「読み書き」に困難を抱える児童「ディスレクシア」判断のポイントと診断・支援の受け方

ディスレクシアの子育て #1

木下 千寿

ディスレクシアってどんな状態? 日本にはどれくらいいる? 診断や支援はどうやって受ける?(写真:アフロ)
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ディスレクシアは発達障害の一種で、知的に問題が無く、聴覚・視覚の知覚的機能は正常なのに、読み書きに関しては正確またはスムーズにできない、という学習の困難を示す症状のことを言います。俳優のトム・クルーズさんなど、ディスレクシアであることを明かしている著名人もたくさんいます。

ディスレクシアって具体的にはどんな状態? 日本にはどれくらいディスレクシアの人がいる? 診断や支援はどうやって受ける? ディスレクシアの全ての人が活き活きと暮らせる社会を目指す団体「NPO法人エッジ」代表で、自身もディスレクシアの子育て経験をもつ藤堂栄子さんにインタビューしました。

藤堂栄子(とうどう・えいこ)さん 撮影/市谷明美

藤堂栄子(とうどう・えいこ)「NPO法人エッジ」代表。星槎大学特任教授。フリーランス通訳者(英仏)。
英国留学をした長男がディスレクシアであると判明したことをきっかけに認定NPO法人エッジを設立。以来会長を務める。発達障害者ネットワーク副理事長、社会保障審議会障害者部会委員、教科書バリアフリー法、読書バリアフリー法関連検討委員会などの委員歴任。

ディスレクシアの児童生徒、調査では8%だが…

皆さんは、「ディスレクシア」についてどのくらいご存知ですか? 近年はディスレクシアの方々が各分野で活躍されていることもあり、昔に比べて「ディスレクシア」という言葉の認知度は高まったなという印象です。しかし、ディスレクシアが正しく理解されているかという点においては、まだまだだというふうに思います。

ディスレクシアの教育的な定義は、「知的には標準並みにあるのに(ときには平均より高いことも)、読み書きに特異的なつまずきや困難さがみられる」。LD(学習障害)のひとつで、知的能力の低さや勉強不足が原因ではなく、生まれつき、大脳の機能の問題で、読み書きが正確にまたはスムーズにできない症状です。

発達障害の分類(イラスト/山口陽菜)

ディスレクシアの症状はさまざまですが、以下の項目に思い当たる節があれば、ディスレクシアの可能性があります。

●読み書きは疲れる、嫌がる
●音読に時間がかかる、時間をかけて音読をしても内容の理解につながらない
●逐次読み、勝手読み、指で押さえながら読む
●漢字の誤りが多い、練習しても書けない、「教師」を「先生」など、似た意味の言葉に読み間違える
●読み書きで特殊音節の誤りが多い、形態の似ている漢字と誤る
●字を書くのに時間がかかる
●漢字を使いたがらない、句読点を書かない、マス目におさまらない

では日本には、どれくらいのディスレクシアの児童生徒がいるのでしょうか。

発達性ディスレクシア研究会理事長で医学博士の宇野彰先生が、小学6年生までのひらがな、カタカナ、漢字に関する追跡調査をされていて、これによるとディスレクシアの児童生徒は約8%いるそうです。

英語圏では、ディスレクシアの子どもは10~20%いるという数字が出ています。日本でも英語は必須科目になっていますが、英語が苦手という児童生徒の中に、相当数ディスレクシアと思われるケースもあります。

日本語を母語とする児童生徒の、英語に関する調査研究はまだないため、早急に調査する必要があります。少なく見積もっても、日本ではディスレクシアの児童生徒は約10%程度いると、私は考えています。

ディスレクシアの診断ができる医師は少ない

日本では、ディスレクシアの診断は医師が行います。しかしディスレクシアのことをきちんと理解したうえで診断ができる医師は、私の知る範囲では日本国内で10人いるかどうかという状況です。

診断できる医師の数が非常に少ないため、診察まで1年待ちということもざら。また医師が「ディスレクシアだと診断する子ども」の割合は、上記10%のうちの2%くらいで、残りの8%の子どもはディスレクシアの診断が下されず、ただただ困難な状況に取り残されることになります。

ディスレクシアに関する対応が進んでいるアメリカやイギリスでは、スクールサイコロジスト(学校心理士)やエデュケーショナルサイコロジスト(教育心理士)が、WISC(子どもの知能を測定する検査)を含めた読み書きのアセスメント(審査)を行い、教育的診断をして、教育的な対応を出します。

彼らが見て重篤な場合は、「この子はこれだけ大変だから、本来の力を発揮するために、こういった調整や変更をしましょう」という判断を下し、学校がそれに応じます。とくにイギリスは、ディスレクシア対応が非常に進んでいて、生徒本人が訴えれば、学校側がそういった調整や変更をする仕組みができています。

ディスレクシアの診断が難しい理由

発達障害というと、一般には「乳幼児検診(1歳六か月検診)で早期発見、早期対応を」と言われています。しかしディスレクシアは“読み書き”なので、就学してからでないと分かりづらい側面があり、就学児健診や相談のタイミングでは親が気づいていないというケースも非常に多いです。

先述した宇野先生の調査によれば、「99.8%の子どもが2年生の終わりまでにひらがなを読み書きできるようになる」とのこと。

ディスレクシアの子どもは拗音(キャ、ニュ、ショなど)や促音(きっと、ラッパなど「っ」「ッ」の部分の音)を読むのが大変だったり、書くのを間違えやすかったりという傾向があるのですが、本人の努力や記憶力でそれをカバーしているため、傍から見ると「読めている」という判断になることが多いのです。

(NPO法人エッジ ウェブサイトより)

学習に漢字が入ってくるようになると、ディスレクシアの子どもにとって漢字は形と音、意味が結びつきやすいので、かえってひらがなよりもわかりやすいということがあります。ただ「日」を「にち」のほか「ひ」「び」「じつ」と読む、「日」に1本横棒が増えて「目」になるなどの複雑さが出てくると、混乱が生じがちです。

さらに英語が加わると、たとえばアルファベット「a(エイ)」は、単語によって「read(イー)や(エ)」「law(オウ)」「beauty(イュ)」と読みがさまざまに変わるため、ますます混乱してしまいます。

そうすると、ディスレクシアの子どもは学習に対して「できない」「つまらない」「イヤだ」という気持ちが生じ、「学校に行きたくない」と不登校に……。

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