ランドセルにもSDGs!! あの工房系ブランドも挑むサステナブルな新素材とは

最旬! ラン活2024 #2~新素材編~

ライター:遠藤 るりこ

アップサイクル素材を使ったランドセル。製品開発に込められた想いを3ブランドに聞きました。  写真提供:アートフィアー

ラン活を前に、知っておきたいことがあります。そのひとつが、ランドセルの「素材」です。一般的なランドセルには大きく分けて3種類の素材があります。

古くからランドセルの素材として定番の「牛革」、軽くて加工がしやすい人工皮革「クラリーノ」、最高級の天然素材である馬革の「コードバン」。これらの素材を前に、「どの素材がベストだろう?」と悩む親子も少なくないでしょう。

一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会の調査(※1)によると、購入したランドセルの素材は、クラリーノが34.5%で、牛革が22.5%、馬革が2.7%と上位3位を占めています。

そして今、この3つに代わる新素材の開発・製品化が進んでいます。今回は、地球環境や子どもたちの未来を考えた「新素材ランドセル」を紹介します。

※全5回の2回目(#1を読む

廃棄漁網再生ナイロンで 海や自然を身近に

「ランドセルで子どもの未来まで変えていきたい」と話すのは、株式会社アートフィアーの親会社・株式会社由利(ゆり)の永井宜積(よしずみ)さん。

由利は日本屈指の鞄生産地・兵庫県豊岡市で1964年に創業した鞄メーカー。有名ブランドのOEMをはじめ、オリジナルブランドの企画、製造、販売まで一貫して手掛けています。

そんな由利が誇るランドセルは、豊岡鞄の廃棄漁網を再生したナイロンで作ったスクールリュック「UMI(うみ)」(全6色、各49,500円・税込)。企画から製造まですべて担っています。

「世界のスーパーブランドとやり取りをするなかで、日本はSDGsへの取り組みが遅れていると指摘されてきました。これまでも素材を意識はしてきたのですが、リサイクル素材はまだまだ価格が高いし、加工が難しいという課題があった。

そんななか、北海道・厚岸町(あっけしちょう)の廃棄漁網をアップサイクルしたナイロンに出会い、『これだ!』と社内で盛り上がりました」(由利・永井さん)

鞄メーカー・由利の永井さん。日本随一の鞄産地である豊岡で作る、新素材のスクールリュックに込められた想いを語る。  写真提供:アートフィアー

海洋プラスチックごみのうち、漁網やロープなどは約30%を占め、海洋汚染の原因のひとつとなっています。これらは自然分解されるまで、600年以上も海の中を漂い続けると言われています。

日本海に面している豊岡市は、「漁網を使った海の素材と親和性があった」と永井さんは語ります。実際に厚岸町に足を運び、網に付いたごみを手作業でひとつずつ取り除くという地道な作業を見つめました。

「きれいにされた漁網は、愛知県に移動して糸のもとになるペレットという繊維になり、糸に加工され、福井県で生地が織られていく。通常のナイロンを織る以上に、技術を必要とするんですよ」(由利・永井さん)

どこで集められ、どういった経緯で、誰によって作られているのかがはっきり分かる素材であることが大切だったと、永井さんは続けます。

「こういった取り組みや、作り手の想いを広く知ってもらうには、鞄メーカーとしてどのようなプロダクト(商品)に落とし込んだら良いだろう、と考えました。

結果、より身近に伝えられて、実現性も継続性も高いということで、ランドセルが浮かんだのです」(由利・永井さん)

スクールリュック・UMI(うみ)の2024年度向けモデルは、新色2つを追加して計6色。ファスナーなどにも再生素材を採用している。  写真提供:アートフィアー

通学スタイルは少しずつ変化していく

長年、鞄を作りつづけてきたメーカーとして、モノづくりへ強いこだわりがあります。子どもたちが悩んでいる登下校時の「荷物の多さ」や、「身体にかかる負担」を軽減する工夫も凝らしました。

「6年間、快適に登下校してもらうには、強度は外せないポイントです。見えないところに多くの補強を施し、子どもの快適に寄り添う仕様にしながら、軽さと強度を両立するギリギリのところを見極めてデザインしています」(由利・永井さん)

環境に配慮した素材を採用しているだけでなく、強度や耐久性にもこだわりが。収納性と使いやすさを追求した23の機能も。  写真提供:アートフィアー

永井さんは、近年、ビジネスマンの通勤スタイルが変化した過程を例に出してこう語ります。

「働く大人だって同じ。ビジネスバッグからリュックへ、革靴からスニーカーへ、ネクタイを外してスーツを脱いで……と、少しずつそのスタイルが変化していきました。

ランドセルも今、過渡期だと感じています。いくら軽くて便利なものが出ても、一足飛びにリュックにはならない。スクールバッグUMIのような選択肢が、少しずつ変化する子どもたちの通学スタイルに寄り添えたらと願います」(由利・永井さん)

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