ラン活中の親子にも反響 「ランドセルが救命具に」 水の事故に備えた“防災機能付きランドセル“の開発秘話

子どもを守る“ランドセル防災”#2 ~防災機能付きランドセル編~

ライター:遠藤 るりこ

水害時、子どもたちが自分で自分を守らなければならないときに、ランドセルがどう役に立つのか。防災に特化したランドセル開発秘話を聞いた。  写真提供:栄商会

小学生の通学の相棒・ランドセル。毎日共に過ごす存在であるランドセルに、防災機能を付与できないかと考え、誕生したアイテムがあります。

「日常と非日常を分けることなく常に使用できるフェーズフリー商品として開発しました」と話すのは、水に浮くランドセル「ウクラン」を開発した株式会社栄商会の代表取締役、吉澤隆(よしざわ・たかし)さん。

防災用品セレクトショップ・SAIBOU PARK(サイボウパーク)の佐多大翼(さた・だいすけ)さんは、「ランドセルの中にお守りを入れるような気持ちで、安心・安全なランドセル選びをしてほしい」と、2023年「フロートライフランドセル」を開発・発売。

また、人気のランドセルメーカー・池田屋はランドセル携帯用の「子ども防災キット」を発売しています。各社に防災への想いを伺いました。

※2回目/全2回(#1を読む

石巻市・大川小の犠牲者を想って

メガネケース、メガネ拭きの製造販売を行う静岡県浜松市の株式会社栄商会。鞄や子ども用品に特化した会社ではないのに、なぜランドセルの開発を行うことになったのでしょうか。

「2017年12月、浜松市内のとある高齢男性から、『浮くランドセル』のサンプル作りの依頼がありました。この方は、東日本大震災後、2012年に宮城県石巻市の大川小学校を来訪。津波で犠牲になった小学生とご自身のお孫さんとが重なり、『どうにかして子どもたちが震災から助かる方法はなかったのか』と、胸を痛めてきたと言います」(栄商会企画デザイン・藤田悦子《ふじた・えつこ》さん)

男性は、ライフジャケットに変形して浮くランドセルを考案。しかし、企画を持ち込み、サンプル作りを依頼した会社には何ヵ所も断られ続けました。

「私たちはこの男性の想いに感銘を受け、2018年2月から商品化に向けた打ち合わせをスタート。コロナ禍などで中断した時期もありましたが、4年がかりで開発を続けました」(栄商会・藤田さん)

脱着を簡略化したり、水がたまらないように穴を開けたり、何十回も試作を重ね、「ウクラン」(¥49,500税込)が完成します。

「製品安全評価センターの実験では、水上で7.5キロの重りをつけても24時間連続浮遊する、と証明されました。浜松市の子どもたちにも協力を仰ぎ、ライフセーバー立ち合いのもと、プールや浜名湖で体験会を開催。その都度、子どもや保護者の意見を聞き、改良を重ねて現在の商品に仕上がりました」(栄商会・藤田さん)

地元小学生たちとの実験を重ね、4年の歳月をかけて完成した。  写真提供:栄商会

ランドセル本体とカブセ(ふた)部分に浮体機能を持たせ、水に入っても必ず顔が上向きになる様に設計。最大の特徴は、3ステップでランドセルからライフジャケットに変身する点です。

「カブセをバックルから外し、両手で上へ持ち上げます。そのまま頭を通して前身にカブセを持ってきて、腹と股ベルトを固定すると、身頃の前と後ろを守るライフジャケットになります。使用しているベルトは、自動車のシートベルトと同じもので、丈夫で素早く装着が可能です」(栄商会・藤田さん)

一見するとナイロン製ランドセル型リュックのような通学かばんが、あっという間にライフジャケットに早変わり。  写真提供:栄商会

また、ライフジャケットにした際、水に濡れても大丈夫な紙素材で作られた名札の周りに反射材がついています。

「夜間に救助されたとしてもすぐに名前がわかるようにしました。また、水の中から引きあげるときには、水がランドセルから抜けていくよう、水抜きの穴もつけています」(栄商会・藤田さん)

おぼれたときに浮くという単純な機能だけでなく、救助までのフローをていねいに考えた仕様なのです。

2023年12月には、日本PTA全国協議会の推薦商品となった水に浮くランドセル「ウクラン」。  写真提供:栄商会

ウクランを試着したり、購入した親子からは「カブセは防災頭巾としても使えるところが良い」、「おぼれている人がいたら、自分のランドセルのカブセ部分を本体から外して投げてあげたい」などの反響がありました。

「すでにランドセルは持っているからと、塾用のセカンドバッグとして使用している子どももいます。多くの方に、日常と非日常を分けずに使える防災ランドセル・ウクランを知っていただけたらと思います」(栄商会・藤田さん)

防災企業としてできること

備えのある暮らしを提案する防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」が、2020年7月に起きた熊本豪雨を機に開発・発売したのが「フロートライフシリーズ」です。

「警察庁の発表によると日本では、毎年約1600人もの方が水の事故に遭っています。生活圏に海や河川や溜め池などが存在する、水害リスクの高い環境で育つ子どもたちは全国的に多い。そういった子どもたちの暮らしに寄り添えるプロダクトとして焦点を当てたのが水に浮くランドセルだったのです」(SAIBOU PARK・佐多さん)

海上保安庁や海上自衛隊が採用しているライフジャケットにも採用された浮力体を、ランドセルの中材として使用。ランドセルとしての機能性や利便性も充実させ、子どもたちの使いやすさと両立させた「フロートライフランドセル」(¥77,000税込)が完成しました。

災害が身近にある子どもたちに寄り添う、新しい時代の通学カバンの選択肢に。  写真提供:SAIBOU PARK
フロートライフリュックの独自構造(特許取得済)を転用した、フロートライフランドセル。  写真提供:SAIBOU PARK

ラン活中の親子たちからの反響

2023年には、三越伊勢丹新宿店での催事にも参加。さまざまな親子と出会う中で、「防災を意識したランドセルの必要性を再確認した」と、佐多さんは振り返ります。

「放課後に遊んでいて溜め池に転落した経験があるという男の子を連れた親子が来店され、商品を真剣に検討されていたのが印象的でした。また、デザイン的にランドセル感が薄いため、『荷物がたっぷり入るので、学校だけでなく家族旅行にも持っていきたい』という声もいただきました」(SAIBOU PARK・佐多さん)

水害と隣り合わせにある海岸や川沿いに暮らす子どもたちの保護者からは、「子どもの『行ってきます』から『ただいま』までの間を、安心して任せられている」との声も届いています。

「毎年多様な色合いや機能を持ったランドセルが登場していますが、環境の変化に合わせてアップデートできているのだろうかと感じます。

地球温暖化に伴う台風の大型化による高潮、線状降水帯による河川氾濫、ゲリラ豪雨による都市部での内水氾濫など、いまや災害は誰にとっても身近な存在。

これまでのデザインや機能性の観点だけで成立していた通学かばん選びが、今後は『思いがけない災害に巻き込まれたら』という安全性の視点をプラスし、命を守る存在であるものとして考え直す必要があると感じています」(SAIBOU PARK・佐多さん)

ランドセルに携行する専用防災キット

人気のランドセルメーカー池田屋から、2016年の熊本地震をきっかけに発売されたのが「子ども防災キット」(¥2,400税込)です。開発したのは、同社の佐々木隆行(ささき・たかゆき)さん。

「子どもが登下校中に被災した場合、まずは自分で身を守り、大人に存在を知らせることが必要と考え、ランドセルに携行できるミニサイズの防災用品を考えました」(池田屋・佐々木さん)

手のひらサイズのコンパクトな袋に収納された防災キットは、LEDライト、ID付きホイッスル、防寒・保温シートの3アイテム。

「『大人に見つけてもらうまでの間、自分の身を守る』ことを課題に最小限のアイテムをセレクトしました。常に持ち歩いてほしいため、重くならないこと、かさばらないことも意識。入学したての1年生でも使えるよう説明書はイラストを交えて分かりやすさを重視しました」(池田屋・佐々木さん)

「防災キットを購入したことで、親子で非常時の行動を話し合う機会になった。お父さんも通勤鞄に入れておきたいとの声がある」と佐々木さん。  写真提供:池田屋

「ランドセルが届いたら、まずは保護者の方と一緒に説明書を見ながら、アイテムの役割と使い方を覚えましょう。そして毎年進級のタイミングで、キット内のLEDライトの点灯チェックや使い方の復習をしてほしいですね。

もちろん、このキットを使うことなく、笑顔で卒業の日を迎えてほしいというのが、私たちの願いです。しかし、先日の能登半島地震しかり、いつ、どこで災害に遭うかは誰も予測できません。子ども防災キットの存在が、改めて防災を考えるきっかけになっていただけたら嬉しく思います」(池田屋・佐々木さん)

ランドセルの中に子どもが使える防災アイテムを入れておく。災害に備えて、考えていかなければいけないアクションです。  写真提供:池田屋

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いつ起こるのかは誰にもわからない災害。いざというときに子どもの命を守るのは、子ども自身であることもあるのでしょう。春の入学・進学シーズンを前に、ランドセル周りの防災について、親子で話し合ったり動作を確認してみてはいかがでしょうか。

取材・文/遠藤るりこ

●参考
令和4年における水難の概況/警察庁生活安全局生活安全企画課

●掲載商品
・ウクラン/株式会社栄商会
販売価格:49,500円(税込)
販売開始日:2023年3月1日
重量:約1500g

・フロートライフランドセル/SAIBOU PARK
販売価格:77,000円(税込)
販売開始年月:2023年5月
重量:1250g

・子ども防災キット/池田屋
販売開始年月:2017年3月4日
販売価格:2,400円(税込)

●関連リンク
ウクラン/株式会社栄商会
公式YouTube「栄チャンネル」

フロートライフランドセル/SAIBOU PARK

子ども防災キット/池田屋

※防災ランドセルの記事は全2回(公開日までリンク無効)
#1

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe