3歳までは母親がしっかり子育てすべき? 根強い「三歳児神話」をコラムニストがぶった切り

コラムニスト・石原壮一郎の「昭和~令和」ものがたり【02】 「今も聞こえる“三歳児神話”の脅し」

コラムニスト:石原 壮一郎

3歳ごろまでは母親がしっかり子どもをみるべきという「三歳児神話」について、コラムニスト・石原壮一郎が語る。  写真:アフロ
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子育てをめぐる状況は、令和に入って大きく変わっている。しかし、世間や自分自身の中に染みついた「昭和の呪い」が、ママやパパを悩ませ苦しめている場面は少なくない。

昭和に生まれ育ち、平成に親になり、令和で孫に遊んでもらっているコラムニスト・石原壮一郎ジイジが、ガンコな「昭和の呪い」を振り払いつつ、令和の子育てを前向きに楽しむ極意を指南する。

今回は、働く親の不安をかき立て続ける「三歳児神話」について。

石原壮一郎(いしはら・そういちろう)PROFILE
コラムニスト。1963年三重県生まれ。1993年のデビュー作『大人養成講座』がベストセラーに。以降、『大人力検定』など著作100冊以上。最新刊は『失礼な一言』(新潮新書)。現在(2023年)、4歳女児の現役ジイジ。

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現在の「三歳児神話」事情

「子どもが3歳になるまでは母親が世話をするべき」という「三歳児神話」は、戦後の日本で大いにもてはやされました。高度経済成長による「専業主婦」の増加や、教育熱の高まりという世相とマッチしたことも、神話の拡大と定着に大きく影響したに違いありません。

平成に入ると、多くの専門家が「三歳児神話なんて噓っぱちだ!」「むしろ専業主婦の母親と1対1で過ごすことで問題が起きる」と主張し始めます。

しかし、幼い子どもを保育園に預けて働く母親が、親や義父母など周囲から非難されるケースは少なくありませんでした。後ろめたさを払拭できない母親も、今よりずっとたくさんいたものです。

いろんな研究や調査で、「母親との関係」に限った「三歳児神話」は念入りに否定されています。しかし、根拠の有無とは関係なく「つい気になってしまう」のが、神話の厄介なところ。

今もなお、親自身の心の中や世の中のあちこちに潜んでいて、スキあらば「子どもが3歳になるまでは~」という脅しの呪文をささやいてきます。

【根深く残っている「昭和の呪い」】

・幼い子どもを預けて働くと世間から非難の目を向けられる

・3歳までは母親が世話をしないと人格形成に悪影響が出る

・父親はどんなにがんばっても母親と同じ役割は果たせない

親が「三歳児神話」におびえるのは子どもにとっていい迷惑

子育てにはさまざまな神話があります。「母乳神話」「手作り神話」「母性愛神話」「自然分娩神話」「三歳児神話」……。どれも、ママを無意味に苦しめています。

母乳にしても手づくりの離乳食やおやつにしても、そうできる人はそうすればいいだけの話。「それができなければ母親失格」と、他人を責めたり自分を責めたりする必要はまったくありません。パパを無駄に苦しめている「一家の大黒柱神話」もあります。

「子どもが3歳になるまでは母親が世話をするべき」(そうしないと発育や人格形成でいろんなマイナスが出てくる)という「三歳児神話」は、昭和の時代は「科学的根拠がある」とされていました。

元になったとされている外国の研究はありますが、恣意的(しいてき)な切り取りや拡大解釈を重ねた末、「子育ては女性(だけ)の仕事」という風潮を強固にし、専業主婦に自信を与えて働く女性を否定する神話になっていきます。

しかし、平成に入ったころから風向きが変わってきました。核家族化が進み、いっぽうでは女性の社会進出が広がる中で、「母親と子どもだけで過ごす弊害」や「キャリアを捨てざるを得なくなったママたちの鬱屈(うっくつ)」が問題視されるようになります。「育児ノイローゼ」や「母子密着」という言葉がよく聞かれるようになったのもこのころです。

そんな流れの中で、平成6年にはマザーリング研究所所長のたけながかずこ著『三歳児神話なんて気にしない─のびのび育児で素敵なママに』(メディアファクトリー)が、翌平成7年には心理カウンセラーの三沢直子著『お母さんのためのカウンセリング・ルーム 三歳児神話から家庭内離婚まで』(主婦の友社)といった本が出版されました。

どちらも三歳児神話の呪いをいかに解くかという内容です。平成10年の厚生白書には「三歳児神話には合理的な根拠は認められない」という記述があり、大きな話題になりました。

平成3年生まれのうちの娘が0歳で保育園に入ったころは、まだ「三歳児神話」が権威を持っていました。

「子どもが3歳になるまでは~」という主張を目にするたびに、「母親とだけ顔を突き合わせているより、保育園に通ったほうがいいに決まってるじゃないか」と強く反発した記憶があります。若さゆえの気負いもあったかもしれません。

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