類似品やニセモノを放置すると消費者も損をする!
泉:経済学には「レモンの原理(レモン市場の法則)」という理論があります。
例えば中古車は、買う人がパッと見ただけでは、商品の良し悪しがわかりづらいものがあります。
売る人は、商品の品質について詳しい情報を持っている一方、買う人はそこまで商品に詳しくないし、売り手と同じ情報を得るのはほぼ不可能なので、買い手にとっては不利な状況になります。これを経済学で「情報の非対称」といいます。
──売り手と買い手が持っている情報が、かなり違うということですね。買うときに、売り手がきちんと情報を教えてくれればよいですが、信用できない人だったら、「だまされるかもしれない」と警戒します。
泉:そこが「レモンの原理」のポイントです。
「良いものは高く、悪いものは安く」が正しい値つけですが、品質が悪くても高く売ってやろうと考える売り手もいます。そうなると買う人は「外れ」を引きたくないので、商品全体を見て「高いもの」と「安いもの」ではなく、その中間のもの(平均的なもの)を選ぶようになるんですよ。
──双方に損が少ないなら、良いことだと思いますが……。
泉:でも、本当に良いものを売りたい人にとってはどうでしょうか?
良い商品を、品質に見合った値段で市場に出しているのに、買われるのはごく平均的な品質のものばかり。売れるものに値段を合わせれば売り手が損をするので、その市場から撤退します。その結果、市場には質の悪い商品だけが残るようになる、という悪循環が生まれるのです。
──商品の質が落ちると、一部の人はその売り手から買わないという選択をすると思います。行きつけのレストランがあったけれど、味が落ちて行かなくなるみたいなことと同じでしょうか?
泉:そうですね。ただ小学生では、ニセモノができる仕組みまでは理解できないと思いますし、今、楽しい時間が過ごせていればだいじょうぶだと思います。マイナスよりもプラスの面に目を向けて、ボンドロシールの流行についておさらいしましょう。
シール交換の良い面は、シールがコミュニケーションツールのひとつになっていて、特に経済の知識がなくても、経済の基本を学べる最適の場であることです。
シールそのものが欲しいという欲求だけでなく、希少価値の高いシールを持っていることで満足を得る「イミ消費」や、みんなでシールを持ち寄って「かわいいね!」「それいいね!」と楽しくおしゃべりする体験を重視する「エモ消費」いう側面もあるでしょう。
それを含めたシール交換の思い出が、後で経済を学んだときに「ああ、これはシール交換のことだ!」と理論にはめられるときが来ます。それが「生きた経済の勉強」なんです。
──子ども時代の体験が、大人になってから活きるということですね。
泉:日本では2022年4月の成年年齢18歳引き上げに対応して、ようやく家庭科や社会科、総合の授業で「消費者教育」が始まりました。消費者が賢くなれば、価値に見合った値段を自分自身で判断することができるようになります。
ですから、シールやカード、ゲームなど子どものうちに失敗と成功を繰り返しながら、「自分にとってのものの価値」をつくっていってほしいなと思います。
手作り立体シールの出現は必然だった!?
──ブームの過熱で、ボンドロシールが手に入りづらくなったタイミングで「手作り立体シール」が話題になりました。通常のシールやイラストなどに、ボンドを盛りつけして乾かしたものです。
泉:手作り品には「世界にひとつしかない」価値があります。手作りの喜びや新しい価値が生まれるという現象も、ボンドロシールのブームで学べることのひとつ。他人には価値が低いものでも、持ち主本人が「これは世界にひとつしかない、自分の大切なものだ」と感じることも、金銭教育です。
ただし手作りシールを販売するのは、法律に触れる危険があります。自分の楽しみとして、友達同士の無償交換の場だけにしておいてくださいね。
──気になるのは、手作り立体シールに注目が集まった結果、ボンドも不足するという現象が起きたことです。意外なところに影響があるんだと驚きました。
泉:ある商品が売れたことで、別の商品の売り上げにも影響することを、経済学では「波及効果」といいます。常にいろいろなものが動いているというところが、経済のおもしろさなんですよ。
【投資の目】ブームに乗った会社の株は「買い」か?
──ボンドロシールがブームになったから株価が高くなるかもしれない、と思って株を買うのはアリですか?
泉:残念ながら、ボンドロシールの開発・製造元の株式会社クーリアは上場していないので、一般の人が自由に株を売買することができません。
──そうなんですね。残念!
泉:あきらめるのは早いですよ。シールを裏返して、台紙を見てみましょう。そこには「株式会社クーリア」の名前ではなく、「BANDAI NAMCO」のロゴと「サンスター文具株式会社」の名前が大きく印刷されています。
──本当ですね! インターネットで調べると、ボンドロシールは<製造元>株式会社クーリア、<販売元>サンスター文具株式会社になっています。そしてサンスター文具株式会社は、バンダイナムコホールディングスの連結子会社になっていて、こちらも株式が公開されていません。
泉:ボンドロシールの場合は、株を買って製造会社を応援する道はなさそうですね。でも、大好きな商品を売っている会社の株を買いたいという気持ちは、とても良いことです。
私は、セミナーで初めて株を買う子どもたちに教えるときに、「その会社を応援したいと思う?」と問いかけるところから始めています。やっぱり自分が応援したいと思っている会社なら、株価の変動も気になるし、いろいろ調べるでしょう。子どもたちは、「利益率何%」と言われてもチンプンカンプンですから。
アメリカでは、働いている会社の株を社員が購入する「持ち株制度(主に「従業員持ち株会」)」があるところが多いです。会社が成長すると自分にもメリットがあると考えると、働くモチベーションも高くなるでしょう。株を買ったからには、株価が上がって欲しいわけですからね。
今回は、シールブームに引っ張られて「文具」市場全体が活性化するという動きも見られたので、上場している文具メーカーの中で、自分が応援したいという企業を探してみてはどうでしょうか?
──なるほど。株価が上がりそうな予感みたいなものはありますか?
泉:それがあったら、誰も損をしないでしょうね(笑)。
大切なのは、今ではなく未来です。繰り返し言っているように、ブームはやがて去ります。去った後に、その会社が次のヒット商品を生み出す力があるかどうか、いろんな情報を集めて予想することが大切です。株を買っても、配当金がもらえるのは早くて半年から1年先。そのときにブームが去っていて株価が下がってしまったら損をします。
株価が上がることと、配当金が出ることは別問題で、必ず配当金がもらえるわけではありません。その会社の商品が配られるというケースもあるようです。
株を買う企業選びについて学生と話したときに、株主優待で商品や商品券がもらえるから、自分が普段使っている化粧品会社やよく行く飲食店の株を選ぶと聞きました。このように、ふだん商品を買ったりお店で食べたりという行動にプラスして、株を買って大好きな企業を応援しようという気持ちで、投資をスタートするのがよいと思います。
──投資商品を買えばいいか悩んだ場合は、専門家が運用をする「投資信託」を利用するのも、ひとつの選択ですね。また特定の推し企業を直接応援する場合は、事業の内容や将来性などの情報を集めることが大事ということですね。ありがとうございました。
泉:「価格」は経済の基本であり、価格がどうして決まるのかを探るのはとても楽しいことです。
なぜ同じものでも値段が違うのか、その中から自分はなにを選ぶのか。そうやって連想していくのが経済学の第一歩になります。「ボンドロシール、高くても買うのか? 手作りするのか?」、自分で考えて答えを出して、行動してみてください。
撮影/安田光優
「NISAこども」を始める前に《DLあり》『投資の超基本』の著者が考案した最強のおこづかい帳
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中村 美奈子
絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。
絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。


































泉 美智子
子どもの環境・経済教育研究室代表。公立鳥取環境大学経営学部准教授(2018年3月まで)、放送大学、四国学院大学(子ども福祉学科)非常勤講師。全国各地で「女性のためのコーヒータイムの経済学」や「エシカル・キッズ・ラボ」「親子経済教室」など公演活動のかたわらテレビ、ラジオ出演も。著書に『調べてみようお金の動き』(岩波書店)、『はじめまして!10歳からの経済学』(ゆまに書房)ほか、環境、経済絵本、児童書の執筆多数。
子どもの環境・経済教育研究室代表。公立鳥取環境大学経営学部准教授(2018年3月まで)、放送大学、四国学院大学(子ども福祉学科)非常勤講師。全国各地で「女性のためのコーヒータイムの経済学」や「エシカル・キッズ・ラボ」「親子経済教室」など公演活動のかたわらテレビ、ラジオ出演も。著書に『調べてみようお金の動き』(岩波書店)、『はじめまして!10歳からの経済学』(ゆまに書房)ほか、環境、経済絵本、児童書の執筆多数。