
男児の性教育 親が知っておきたい「精通」「マスターベーション」「性被害」【医師が解説】
男児の性教育と性被害の反響記事“まとめ”5選
2025.08.27

女児の性教育と比べて、さほど多く語られない男児の性教育。とはいえ、女児に初潮を教えるのと同様に、男児も精通があり、マスターベーションなど、成長する体の変化と仕組みをタブー視せず伝えておくのは大切なこと。
また男児だからといって「性被害」が無関係ではないのは、もはや周知の事実です。危険な目にあわないためにも、親と子の両方に防犯知識をもっておきたい。専門医が教えてくれた男児の性教育について、反響のあった5記事をまとめました。
目次
「性教育」がテーマの記事は当サイト「講談社コクリコ」で定めた指針に基づき、専門家・有識者に取材し、掲載しています。詳しくは「性教育」記事:取材・掲載の指針ページをご覧ください。
1)初めての射精「精通」をどう教える?
思春期とは、二次性徴が始まり身体が成熟するまでの期間を指します。中高生に向けた性教育講座を行う泌尿器科医の今井伸先生によると、性ホルモン分泌量が上がると性差が分かれ始め、女子は10歳ごろから、男子は12歳ごろには身体の変化が顕著になるそうです。
この二次性徴の前後に、女子には「初潮」、男子には「精通」(初めての射精)が起こります。
男子の精通は、早くて10歳、遅くとも18歳までに経験するというデータも。友達から得た知識でマスターベーションを始める子もいれば、行為自体を知る前に「なんだか気持ちよくて性器をいじっていたら出てしまった」という経験をする子もいます。また、本人の意思とは関係なく、夢精で精通を経験する子もいるそうです。
「10代後半の思春期は、生涯の中で男性ホルモン(テストステロン)がもっとも分泌される時期。精巣の容量がふえ、精子がたくさん作られるその時期に、精液を外に出すのは当たり前の生理現象です」(今井先生)
親としてできることとして、事前に夢精の可能性を伝え、下着の洗い方を教えておくこと、性器について恥ずかしがらず淡々と伝えること、性器いじりをとがめないこと、昆虫や動物の交尾から自然に性の話題を導入することなどを推奨しています。
「あれもこれも親が教える必要はなく、最低限の知識だけ預けてあとは子どもたちに任せてみる、でいいんです」(今井先生)
親が正しい知識を知り、あくまで日常会話で自然に性やセックスについて話していくことが大切です。
➡注目記事➡【男の子の性教育】子どもに「初めての射精:精通」をどう教える? 親のサポートを専門医が伝授
2)「正しいマスターベーション」の知識
中高生向けの性教育講座で、思春期に適切なマスターベーションの作法を教えている泌尿器科医の今井伸先生。「子どもがマスターベーションを始めるようになったら、きっちりと教えておくべきことがある」と言います。
今井先生が教える適切なマスターベーションとは、「基本は、手で行うこと。親指と人差し指で輪を作り、ペニスの亀頭付近を軽く握りながら、こするように上下に動かします」と細かく解説。
「子どもたちには、清潔な手で、正しい方法でなら、好きなだけどんどんやっていいよと僕は伝えています。こんなこと教科書にも書いてないし、今まで誰も教えてくれなかったでしょうね(笑)。でも、とても大切なことなんですよ」と今井先生。
マスターベーションの作法のみならず、さまざまな心得をまとめた「射精道」を今井先生が提唱。「射精については、《八.必ず勃起した状態で射精すべし》そして、《九.少し我慢してから発射すべし》が基本」だと言います。
大人が読んでも少し照れ笑いしてしまいそうな面もありますが、性的な興味が高まる10代の時期に、性への欲望だけで突っ走る危険を防ぐため、パートナーの気持ちを考慮する大人になるため、などを踏まえて真面目に考えられています。
今井先生はアダルトコンテンツの過度な使用についても懸念していて、「いざセックスというときに興奮しにくくなったり、不具合が起きるのです」と指摘。妄想力を鍛えて、低刺激でも射精ができるようにする、マスターベーションの方法を提案しています。
一方、今井先生は「性教育は親がすべてを教えようとしないことも重要」と伝え方もアドバイスしています。
➡注目記事➡【男児の性教育】思春期に身につけたい「正しいマスターベーション」の作法とは 専門医がくわしく解説
3)家庭でできる「マスターベーション」への配慮
思春期の男子を持つ家庭では、「子どものマスターベーションを目撃してしまった」「どうやらアダルト動画を見ているみたい」など、性に関して戸惑う場面が見られます。
中高生に向けた性教育の講演を行う泌尿器科医の今井伸先生が、家庭での配慮について解説。「子どものマスターベーションのために意識的に保護者がすること、というのは特にはない」と前置きしながらも、「子どもが1人になる環境を作ってあげること、子どもの時間にあまり介入しすぎないことが大事」と説明します。
特におすすめの場所はお風呂で、息子のお風呂時間が急に長くなっても詮索せず、決して急かしたりしないことを勧めています。また、子ども部屋の扉を開ける際は必ずノックをすること、もし目撃してしまっても大袈裟なリアクションはしないこと、性教育関連の本を本棚にそっと置いておくことなどのさりげない配慮を紹介。
また、今井先生は不適切なマスターベーションの危険性も強く指摘。「この方法でないと射精ができない」という状況に陥ると、セックスの際に射精ができなくなる「腟内射精障害」のリスクが高まります。この腟内射精障害は近年増加傾向にあり、「聖隷浜松病院のデータでは男性不妊の原因の8%を占めている」と、今井先生は言います。
「陰茎をこすりつけることによる刺激」を求めたマスターベーションで、陰茎折症(いんけい・せっしょう)という外傷に発展する場合も。勃起状態にある陰茎に外力が加わって、海綿体白膜(かいめんたい・はくまく)が断裂する外傷で、裂けた白膜を縫い合わせる修復手術を行う必要があります。
思春期から続けてきた不適切なマスターベーション習慣があると、このようなトラブルにつながりやすいのだとか。
「人知れずマスターベーションをするために、布団の中でする床オナを覚え、それが習慣化してしまう。これは、思春期の家庭環境に原因があったとも言えます。子どもたちには、自由にマスターベーションできる空間が必要なんですね。適切なやり方で、腟内の刺激と似た環境で射精できることが重要なのです」(今井先生)
思春期から青年期にかけて、セックスが現実味を帯びてきます。「好きな相手とセックスをしたいというのは自然な欲求ですが、満たされたマスターベーションライフを送っていれば、その欲求に振り回されることがありません」と今井先生。適切なマスターベーションの大切さを伝えています。
➡注目記事➡【男児の性教育】医師が警鐘 “不適切すぎる”マスターベーション 親ができる配慮とは?
4)親が知っておくべき「男児性被害」の現実
性被害にあうのは女性(女児)だけではありません。「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長で、泌尿器科医の山田浩史先生によると、男性の被害者が特定されているケースは、女性の10分の1以下ほどだと言います。
山田先生が診た男児性被害者の最年少は、2歳で、加害者は母親の彼氏です。10歳未満の場合は、親族または母親の彼氏による加害が多く、「家庭内での性暴力は表面化しにくいため長期化する傾向も。周りが気づいてあげることが大切です」と、山田先生は警鐘を鳴らします。
10~17歳の男児の場合は、上級生や部活の先輩、習い事の先生など、【自分にとって指導的な立場の人】から被害にあうケースが多いとのこと。「顔見知り」からの被害が多い男子の性被害について、「性暴力は、どんな人にとっても決して遠い話ではない。気づかれにくいだけで、日常的に起こるものと認識したほうがいい」と山田先生は訴えます。
男児の性被害が表面化しにくい理由として、「同性愛者かと偏見の目にさらされるのではないか」「恥ずかしい」といった精神的な問題があるそう。加えて、社会に根深くある「男性は性被害にあわない」との偏見や、人間関係への配慮なども、相談を困難にしている背景にあります。
自分の子どもや周りの子どもが被害にあっていると知ったときは、まずは各都道府県にある「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」に連絡をしましょう。
➡注目記事➡男児の性被害 2歳で顔見知りから…部活で先輩が…親が知っておくべき“男児性被害”の現実
5)性被害から子どもを守るための「性教育」
小児科医かつ小児医療ジャーナリストとして日々問題提起をしている今西洋介先生が、家庭における性教育の方法や親の心構え、男の子が性被害に遭うリスクについて解説。
「小さいころから始める包括的性教育は、子どもが自分の身を守るための重要なステップです。知識は子どもにとって、強力な盾となるからです」と今西先生。
まずはプライベートゾーンの教育から始めることを勧めています。水着で隠れる部分以外に、口もプライベートゾーンであると教えることも重要です。
「性被害ではオーラルセックスなどの被害を受けることもありますが、口がプライベートゾーンだと教えておかなければ、子どもはそれが性的に問題ある行為だと理解できない」(今西先生)。
また、男の子と女の子では、それぞれ被害に遭いやすい時期が異なります。
「女児は幅広い年齢で被害に遭うリスクがありますが、男児は12歳より前、陰毛などが生えるまでの時期が特にリスクが高いのです」(今西先生)。
一般的に男の子のほうが性犯罪に対する防犯意識が低いため、加害者から見れば狙いやすくターゲットにしやすい現状を、今西先生は警告します。
➡注目記事➡男の子と女の子では性被害に遭う時期が違う 小児性被害の実態と性教育の意義をふらいと先生が解説
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思春期特有の身体の変化や性への興味は、子どもたちの成長における自然な過程です。子どもたちが性について健全な価値観を育み、性犯罪の被害者にも加害者にもならないために、マスターベーションは大切な知識の一つです。親は子どもにHOW TO マスターベーションのすべてをしっかり伝えようとするのではなく、「この本、おもしろかったわ~」「この記事、笑っちゃうよ。読んでみたら」とURLをLINEする等々、さりげない配慮でそっと伝えたいものです。
同時に、性被害の対策も決して無視できません。被害の実態や、表面化しにくい男児特有の課題にも目を向ける必要があります。
重要なのは「知識」と「配慮」のバランスです。子どもの成長に必要な正しい知識を教えながら、プライバシーを尊重して配慮し、オープンなコミュニケーションをたもつこと。そして何より、性に関する話題を特別視せず、自然な成長の一部として捉える姿勢が大切なのかもしれません。
文/かたおか 由衣