男児の性被害 2歳で顔見知りから…部活で先輩が…親が知っておくべき“男児性被害”の現実

専門医・山田浩史医師に聞く 男児の性被害#1「被害の実態」

「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長、泌尿器科医:山田 浩史

性被害にあうのは女性(女児)だけではない。確かに存在しながらも、見過ごされてきたという男性(男児)の性被害とは?  写真:アフロ

ジャニーズ事務所の元所属タレントたちが子ども時代の性被害を訴えた問題で、男児への性暴力に対する関心が高まっています。「もしもうちの息子だったら……」と想像する親も少なくないでしょう。

今回は、さまざまな理由からまだ実態があまり知られていない「男性の性被害」を、未成年(0~17歳)にフォーカスして取り上げます。いったい、男児の性被害にはどのような背景があるのでしょうか。

被害の実態や相談先について、「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」で、男性被害者の診察に当たる山田浩史先生に伺いました。

※1回目/全3回

山田浩史(やまだひろし)PROFILE
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院泌尿器科副部長。泌尿器科医。医学博士。「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長。「なごみ」では、性暴力にあった男性(男児)の診察に当たる。

「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長の山田浩史先生。
Zoom取材にて

男児被害者の最年少は2歳

2022年に内閣府が行った「若年層の性暴力被害の実態に関するオンラインアンケート及びヒアリング結果」(※1)によると、16~19歳の男性で、身体接触を伴う性暴力被害にあったのは3.5%、性交を伴う被害は0.5%、SNSを利用した性被害は1.8%、痴漢の被害は1.1%という結果が出ています。

数字だけ見ると少ないようにも見えますが、2020年度に行われた「男女間における暴力に関する調査」(※2)では、無理やり性交等をされた男性のうち、およそ7割が誰にも相談していないということも分かっています。

※1=「若年層の性暴力被害の実態に関するオンラインアンケート及びヒアリング結果」
※2=「男女共同参画白書 令和4年度版」

「性被害にあうのは、女性(女児)だけではないんです」

そう話すのは、「性暴力救援センター日赤なごや なごみ(以下、なごみ)」の副センター長で、泌尿器科医の山田浩史先生です。

この言葉を聞いて、ハッとされるママパパもいるのではないでしょうか。

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院内にある「なごみ」は、24時間365日体制で性暴力被害に関する相談を受け付け、できる限り1ヵ所で総合的な支援を行うことを目的としたワンストップ支援センターです。

「なごみ」では、開設された2016年1月から2023年3月までに、延べ1万4647件の性被害に関する電話相談が寄せられています。うち被害者個人が特定されているのが2396件。

その内訳は、女性が2220件で、男性が158件です。さらに、男性158件のうち、来所してその後のサポートにつながったのは27件。うち、10歳未満は5件で、10~18歳未満が10件と、半数以上を未成年が占めています。

また、加害者のほとんどは男性です。

山田先生は、現場でも、男性にとって性被害を相談・告白することへのハードルの高さを実感しています。

「女性は妊娠のリスクがあるため、被害直後に相談に来られる方が多いのですが、男性には妊娠のリスクはありません。その分、ここまでたどり着くのにそもそも時間がかかります。

さらに、『相談することで同性愛者かと偏見の目にさらされるのではないか』『恥ずかしい』、また『男性は性被害にあわない』といった社会に根深くある偏見、人間関係や生活への配慮など、精神的・社会的な面から、相談が困難である印象を受けています。

小さい子どもの場合は、【被害にあったと認識できない】ケースも多いです。相手の言うことを聞くことで褒められたり好きなものをもらっていたりすれば、『自分はいいことをしている』とも思ってしまうのです」(山田先生)

「なごみ」の相談の現場。医師や性暴力被害者支援専門の看護師、医療ソーシャルワーカー、支援員などが従事し、「チームで対応しています」(山田先生)。  写真提供:「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」

18歳未満に関しては、直接本人から電話が入ることもあるそうですが、もっとも多いのが児童相談所からの連絡です。

「私が診た男児性被害者の最年少は2歳で、児相に保護されて連れてこられました。加害者は母親の彼氏でした。10歳未満の場合は、親族または母親の彼氏による加害が多いです。

家庭内での性暴力は表面化しにくいため長期化する傾向も。周りが気づいてあげることが大切です」(山田先生)

代々行われているから我慢し続けた

10~17歳の男児の場合は、上級生や部活の先輩、習い事の先生など、【自分にとって指導的な立場の人】から被害にあうケースが多いと山田先生は話します。

「中学校の部活内で先輩から性暴力を受けていた男児の例では、上級生から代々、慣習的に行われていることだから仕方ないと我慢し続けていました。最終的には耐えられなくなり退部。

先輩・後輩といった上下関係を背景に、『他の人に言ったら、自分の立場はどうなるのか』などと考え、誰にも言えないことも多いのです」(山田先生)

親から虐待を受けるなど、家庭での養育が困難な子どもたちが生活する施設でも性暴力は行われているといいます。

「施設内で、肛門性交(男性器や性具を肛門へ挿入する行為。アナルセックス)をしていた中学生男児の対応をしたこともあります。当初は2人とも、被害者・加害者の意識はありませんでした。

2人と面談を続けて分かったことは、挿入をした加害側の男児は、以前に、同施設の上級生から陰茎をくわえさせられるなどの性暴力を受けていました。施設では、年齢や入所期間などから生じる上下関係が存在する場合があり、彼も従わざるを得ないという状況だったのかもしれません。

その後、加害側の男児は別の施設に送られ、被害側の男児はそのまま同施設にとどまり性教育を受けるという結末になりました。

こうしたケースにおいて、2人を引き離すだけでおしまいにしては根本的解決になりません。加害側の男児は、自分だけ追い出されたという恨みや悲しみを抱き、転所先でまた同じことを繰り返してしまうかもしれません。加害者のケアも、社会できちんとしていかなくてはいけません」(山田先生)

「なごみ」では、来所してその後のサポートにつながったという男子27件のうち、「見知らぬ人」からの被害は1件のみです。こうしたことからも分かるように、「顔見知り」からの被害がほとんどだという男子の性被害。親や上級生など、上下関係を利用するケースも目立ちます。

「性暴力は、どんな人にとっても決して遠い話ではない。気づかれにくいだけで、日常的に起こるものと認識したほうがいい」と話す山田先生。

自分の子どもや周りの子どもが被害にあっていると知ったときは、まずは各都道府県にある「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」に連絡をしてください。

電話相談の後は、面談による相談や、医師による心身の治療、その他カウンセリング等の心理的支援、法的支援、警察等への付き添いなど、適切な治療や支援を受けることができます。

性被害にあった際の相談先

■性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(最寄りのセンターにつながります)
#8891(はやくワンストップ)

■性犯罪被害相談電話(最寄りの都道府県警察につながります)
#8103(ハートさん)

■性暴力に関するSNS、メール、チャット相談「Cure time」

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