子どもの発達障害　「定型発達を目指さない」育て方と環境

最近では、発達障害の知識が広まっているからこそ、子どもの発達に敏感になってしまうパパママも多いようです。

それゆえ本田先生は、【心身の発達が平均的である「定型発達」ではないことへの恐怖感】が、パパママの中に広がっていることも感じています。それは、アプリ「TOIRO」を開発した動機にもつながっています。

「例えば、突然道路に飛び出してしまう子どもの場合、２歳なら年回りの問題だと思えるけれど、５歳ならどう教えればいいのかを考える。

でも、『この子は５歳だけど、まだ飛び出してしまう子かもしれない』と受け入れて、２歳の子と同じような問題ととらえ、対応したほうがいい場合だってあるのです。

TOIROを開いてもらえれば、困っていることに対して『こういうふうに考えるといいですよ』という新しい視点でのヒントが得られます。

TOIROは『定型発達を目指させない』ために作ったアプリでもあるんです。年齢や平均を基準にしてしまうと、それに当てはまらなかった場合、親は悩んで心配し、子どもにキツく当たってしまったり、むりやり教え込んだりすることが起こりやすくなる。そういったことを少しでも減らしたいと思っています。

最初から定型発達を目指すのではなくて、一人ひとりの個性や状態に合わせた、オーダーメイドの子育てをもっと普及させたいですね」（本田先生）

子どもの発達が気になるときこそ、焦る気持ちにブレーキをかけて考え方のギアチェンジを試みる。発達障害の特性の有無に関わらず、親は「なんでこうするのかな？」と立ち止まって考え、子どもの状態や個性、特性をしっかり捉えることの大切さを本田先生たちは伝えています。

次回は、子どもの発達が気になったときに、どのように考え方を切り替え、対応すればよいのか。具体例とともに伺っていきます。

本田 秀夫（ほんだ・ひでお）
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長。精神科医。医学博士。30年以上、発達障害の専門医として発達障害の早期発見、早期介入から成人期の支援まで、各ライフステージにわたる臨床経験をもつ。

清水亜矢子（しみず・あやこ）
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室特任助教。小児科医師。専門は小児神経。丸子中央病院、信州上田医療センターの小児科にて発達障害診療に従事している。

永春幸子（ながはる・さちこ）
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室特任助教。小児科医師。専門は小児神経。専業主婦から信州大学医学部に入学し、40代で小児科医に。総合病院で小児科一般診療を経験後、現職。

取材・文／稲葉美映子