3割の子どもが平均値外! 医師が作った発達の凸凹をサポートするアプリ

信州大学医学部・本田秀夫教授#1~専門家による子育てサポートアプリ「TOIRO」~

児童精神科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授:本田 秀夫

スマホアプリ「TOIRO」は優しくわかりやすい文章で解説されているので、育児中も気軽に読める。  写真:アフロ
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2021年3月、発達が気になる子どもも含めた子どもの子育てにまつわる情報を発信するスマホアプリ「TOIRO(トイロ)」がリリースされました。

開発したのは、30年以上にわたり、子どもから大人まで発達障害を診てきた児童精神科医で、信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授の本田秀夫先生率いる同チームの小児科医や児童精神科医たちです。

アプリスタートから1年以上経った今(2022年7月)、DL数は1万3000超。本田先生たちが開発に込めた思いと、すべてのパパママに知ってほしい「個性に合わせた多様な子育ての大切さ」とはどんなものか。

本田先生、永春幸子先生(小児科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室特任助教)、清水亜矢子先生(小児科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室特任助教)の3名に伺いました。

※全5回の1回目

発達はどんな子も「バラバラで凸凹」

今、本をはじめ、SNSなどのインターネット上には、子育てに関する情報があふれています。

便利な一方で、情報が多い分「うちの子には当てはまらない」「まだ○○ができないけど大丈夫かな」などと、不安を感じたことがあるパパママは多いのではないでしょうか。

「ほかの子どもと比べたり、○歳だからこれができるはずといった考え方にとらわれず『ひとりひとりの状態に合わせて育てていく』という視点を大切にしてほしい」

児童精神科医の本田秀夫先生(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)は、スマホアプリ「TOIRO(トイロ)」を開発した理由を話します。

子どもの発達に関する情報は、「8ヵ月ごろにハイハイができるようになる」といったように、月齢や年齢で区切られていることがほとんどです。

「こうした情報は、たくさんの人数を調査して得られた『平均値や中間値のデータ』です。その値に当てはまるのはせいぜい7割くらいの子どもで、3割ほどはしっくりきません。発達のすべてが平均値に当てはまるという子どもは多くないのです」(本田先生)。

個別に見れば、これよりも早い子どもも、遅い子どもも当然いるということです。

しかし、こうした集計データに過ぎない知識を、親が自分に課せられたノルマのように受け取ってしまったら、我が子がそれをクリアしていないと、不安になり焦ってしまいますよね。

「どんな子どもも、育児書に書かれているとおりには発達しません。

よく発達障害のことを『発達凸凹(でこぼこ)』と言われますが、そもそも凸凹がない人なんていないんですよ」(清水亜矢子先生/小児科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室特任助教)

「最近、僕はね、『みんなバラバラで凸凹』と言っています。発達はすべての人においてバラバラですし、一人の中でも凸凹なんです。

それなのに最近は、発達には『標準』があって、その標準に合わせるのが正しいというような風潮になってきているのが心配ですね。

例えば1歳半健診では、子どもに絵を見せて指さしができるかをチェックするのですが、お受験かのように事前に対策をしてくる親御さんがいます。子育てや発達に『正解がある』と思っている方が多いんですね。

子どもには、ひとりひとりに育っていくスピードがあり、例えば『ハイハイができた』という結果は同じでも、本当はそのプロセスは実に多様性に富んでいるんですよ」(本田先生)

とはいえ、親にすれば「必ず先々、ハイハイができる」という結果が分かっていれば落ち着いて見守ることができますが、どう育っていくかが分からないからこそ不安な気持ちがわいてきてしまうもの。

しかし、「視点を変えることが大切」と永春幸子先生(小児科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室特任助教)は話します。

「親ですから焦る気持ちもわかります。でもね、『できること』を目標にして、できる・できないだけの基準で見てしまうと、その子どものほんの一部しか見ていないことになってしまうんですよ」(永春先生)

話を伺った本田秀夫先生(中央)と、永春幸子先生(左)、清水亜矢子先生(右)。  写真:稲葉美映子

子どもの心身の発達に関する専門家がアドバイス

「TOIRO」は、子どもの発達が多様なら、育て方も多様であるべきという提案のもと生まれたアプリです。【よみもの】【お気に入り】【相談メモ】の3つの機能が備わっています。

【よみもの】のメインとなるのは、実際に、「信州大学医学部子どものこころの発達医学教室」に寄せられた子育ての悩みを参考に、Q&A形式でまとめられた記事です。「ことば」「生活」「興味」「感情」「対人関係」「その他」の6つのカテゴリーに分けて紹介されています。

回答しているのは、今回お話を伺った本田先生と清水先生、永春先生をはじめとする小児科医、児童精神科医、公認心理師の計8名です。

アプリを開いてみると、「子どもが言うことを聞いてくれない」「ちょっとしたことを待てません」「バスの中でも大声で話してしまいます」など、「あるある」な悩みごとも並びます。

対する回答は、「こう考えてみましょう」「これをやってみよう」といった形で、対応法や次のステップはどうするべきかなどを具体的かつ丁寧にアドバイス。

親がノルマととらえかねない年齢目安は示さずに、困っている行動の特徴だけを見て、子どもにフィットした対応の道筋を考え、提案しているのが「TOIRO」の特徴です。

もちろん自分たちだけではどうしても悩みが解決しないときもあると思います。そうした場合の地域の子育て相談窓口や、医療機関などへ相談が必要と考える目安についても紹介されているので安心です。

アプリ内の機能「相談メモ」は、相談事を整理してあらかじめ書き留めておくことができるため医師や各所への相談の際に役立つ。

「基本的には、僕たちが専門としている発達障害の診療からくる発想で制作していますが、発達障害やグレーゾーンに関わらず、すべての子どもに参考になると思います。

『こういうときにはこうしてみては? こう考えてみては?』というアドバイスを、多くのシチュエーションを想定して載せているので是非チェックしてみてください」(本田先生)

「ハッシュタグやキーワード検索もできるので、ちょっとした隙間時間に気になるところだけを読んでみたり。料理アプリのような感覚で気軽に使ってほしいです」(清水先生)

困っていることが記事に載っていない場合は、アプリを通じて実際に相談を寄せることも可能です。直接回答を得られるわけではありませんが、寄せられた相談を参考に、順次、Q&A記事が作成されています。

各記事にはハッシュタグがついているので、子どものタイプや気になるワード別に検索することができて便利。
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