「梅毒」感染の子どもが過去最多! 妊活前にパパママでやるべき「5つの検査」を専門家が解説

専門医に聞く「先天梅毒」#2~妊活前にやっておくべき検査編~

亀田総合病院感染症内科部長/医師:細川 直登

母親に梅毒の自覚症状がなくても、赤ちゃんに感染する可能性はあると細川医師は言います。  写真:アフロ

2021年以降「梅毒」の感染者が急増し、2022年は1万人超えの過去最多になり社会問題化しています。

妊娠中に母親を通じて赤ちゃんが梅毒に感染する「先天梅毒」も同様に増加しており、国立感染症研究所の発表によると、2023年10月4日の時点で32人の子どもが感染。こちらも過去最多となりました。

先天梅毒の予防には、妊娠前の検査が重要です。ほかにも妊活を始める前に受けておくべき検査はあるのでしょうか。亀田総合病院感染症内科の細川直登医師に聞きました。

※2回目/全2回(#1を読む

細川直登(ほそかわ・なおと)PROFILE
亀田総合病院(千葉県鴨川市)感染症内科部長、臨床検査科部長、地域感染症疫学・予防センター長兼務。

YouTubeチャンネルで性感染症の情報発信もしている細川先生。妊活前の検査の必要性を繰り返し伝えています。  Zoom取材にて

パートナーと一緒に検査を受けるべき

「妊活を考えた場合、女性だけでなくパートナーの男性も検査を受けることが重要」と細川先生は言います。

「性感染症全般に言えることですが、どちらか片方だけが検査をしても、相手が感染していれば、治療をしてもまた感染してしまうからです。二人で同時に治療を受けない限り、感染を繰り返してしまいます。卓球の球のように菌のやりとりをすることから、私たち専門家は『ピンポンインフェクション』と呼んでいます。

性感染症は、自分たちと子どもの将来にかかわる重要な問題ですので、二人で検査を受けましょう。万が一、どちらかに陽性が出た場合も、『いつ感染したのか』『誰から感染したのか』などの問題は置いておき、まずはきちんと治療することが大切です」(細川先生)

妊活前に必要な検査は5種類

妊活を考える際、「おもな性感染症である『梅毒』『クラミジア』『淋病』、それから血液や性交渉を通じて感染する『B型肝炎』『C型肝炎』の検査は受けたほうがいい」と細川先生。それは子どもと母体の健康に大きな影響があるからです。

「梅毒とB型肝炎、C型肝炎は、お母さんが感染することで赤ちゃんにもうつる可能性が生じます。胎盤を通り抜けた梅毒の菌が赤ちゃんの全身に入り込んでしまう『先天梅毒』に感染すると、難聴や皮膚の異常、死産などの影響が出てしまいます。

B型肝炎とC型肝炎は、分娩時にお母さんの血液がつくことで赤ちゃんに感染する可能性があります。お母さんがB型肝炎に感染している場合、生まれてすぐの赤ちゃんにワクチンを接種して予防します。万が一感染してしまった場合、赤ちゃんがウイルスを排除できず、体内に持ち続けることになります。

その場合、多くの感染者は長いことB型肝炎の症状が出ないまま暮らしていますが、その間に血液感染や性的接触で他の人にうつってしまうことがあります」(細川先生)

C型肝炎は、B型肝炎と比べると感染力が弱いことから、検査は必要ないと考える人もいるかもしれませんが、「ほぼ完全にウイルスを排除できる治療薬もあるので、C型肝炎も一緒に検査をしたほうがいい」と細川先生は続けます。

クラミジアと淋病は胎児への直接的な影響はないものの、分娩時の感染や妊活に大きなダメージがあり得ます。

「梅毒の感染者数の多さが取り上げられることが多いですが、じつは妊娠中のクラミジア感染者数も多く、日本産婦人科学会が2013年10月~翌年3月までに全国2544の分娩取扱施設に行ったアンケート調査によると、PCRによる抗原検査を行った妊婦の陽性率は2.3%だったことが報告されています。

男性の場合、クラミジアや淋病に感染すると尿道炎を起こすので、排尿時に痛みを伴うことがあります。また、クラミジアの場合は尿の出口から透明の液体が出て、淋病の場合は膿が出るなどわかりやすい症状が出ます。

一方、女性の場合は子宮頸部に炎症が起こったり、おりものの異常が出たりすることもありますが、男性と比べて目立った症状は見られないことが多いとされています。

感染したことに気づかないまま子宮の中にまで菌が広がると、さらにその先の卵管に炎症を起こすことがあります。炎症を起こすと、治るときに卵管がくっついて詰まってしまい、卵子が子宮内に降りてこられなくなることから、不妊の原因にもなるのです。

また、菌がお腹の中に入り込み、炎症を起こす『骨盤腹膜炎』になるなど、気づかないうちに重症化するケースもあります」(細川先生)

女性の場合、産婦人科や感染症科、性病科、男性の場合は泌尿器科や感染症科、性病科で検査を受けられます。どの検査が受けられるかは、事前に確認しておくと良いでしょう。

梅毒の場合、保健所などで検査もできますが、細川先生は医療機関での検査を勧めます。

「コロナで経験された方もいるかもしれませんが、検査だと感染していないのに反応してしまう『偽陽性』やその逆の『偽陰性』が出てしまうこともあります。とくに梅毒は検査結果の解釈が難しいので、性感染症専門の医療機関を受診したほうがいいでしょう」(細川先生)

YouTubeチャンネル「kamedaChannel 亀田メディカルセンター」で梅毒には何が有効か、細川医師がわかりやすく解説している。

性感染症にまつわるQ&A

妊活前に受けるべき検査がわかったところで、細川先生に性感染症に関する疑問に答えていただきました。

Q1:第2子の妊活の場合も性感染症の検査は必要?

A1:「第1子を出産した後に、どちらかに別のパートナーがいる可能性もゼロではありません。陽性だった場合、夫婦間で問題が起こるかもしれませんが、それ以上に健康は重要です。将来の赤ちゃんへの影響を考えたら事前に受けたほうがいいと思います」(細川先生)

Q2:決まったパートナーとしか性交渉をしていなくても性感染症に感染している可能性はある? 検査をしたほうがいい?

A2:「現在のパートナーが決まるまでの間に別のパートナーがいれば、その相手から感染している可能性があります。一般的にパートナーが変わったタイミングで検査をする人はあまりいないかもしれませんが、少なくとも結婚や出産を考えたら検査を受けたほうがいいですね」(細川先生)

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2回にわたり細川先生に話を伺い、梅毒は一部の人たちの間で流行している病気ではないこと、自分も性感染症に感染する可能性があることを実感しました。最後に、細川先生からメッセージがあります。

「キス、オーラルセックス、セックスといった性的な接触があれば、誰でも性感染症にかかる可能性があります。性感染症の予防には、コンドームの使用が重要です。男性の場合、必ずコンドームをしましょう。女性の場合、コンドームをしない男性とはセックスをしないと決めておくといいですね。

『私のことを大事に考えてくれるんだったら、コンドームをしてください。しないんだったら今日はセックスをしません』と言えて、それで気まずくならない関係性を作るべきだと思います。

ただ、前回も伝えましたが、唇や口の中、性器周辺に梅毒の症状が出ている場合、コンドームだけでは防げないケースも。症状がなくともパートナーが変わったら検査を受ける、これも忘れないでほしいです」(細川先生)

自分も性感染症にかかる可能性があるからこそ、正しい知識を持っておきたいもの。必要なタイミングでパートナーと一緒に検査を受けたり、自分の意見を伝えて尊重してもらえる関係性を築いたりすることは、その後の妊活においてもいい影響がありそうです。


取材・文/畑 菜穂子

※専門医に聞く「先天梅毒」は第2回
#1

ほそかわ なおと

細川 直登

Naoto Hosokawa
亀田総合病院感染症内科部長/医師

亀田総合病院(千葉県鴨川市)感染症内科部長、臨床検査科部長、地域感染症疫学・予防センター長兼務。1990年日本大学医学部卒業。 2005年より亀田総合病院感染症内科に着任。感染症診療のベストプラクティス(最善の治療)を提供できるよう心がけている。YouTubeで性感染症の情報発信をするなどの啓発も行う。 ●関連サイト ・YouTubeチャンネル「kamedaChannel 亀田メディカルセンター」 ・X(旧Twitter)亀田メディカルセンター(公式)@kameda_official ・X(旧Twitter)亀田総合病院(ちっとばあり公式)@kmc_pr ・X(旧Twitter)亀田総合内科(亀田総合病院)@kameda_gim

亀田総合病院(千葉県鴨川市)感染症内科部長、臨床検査科部長、地域感染症疫学・予防センター長兼務。1990年日本大学医学部卒業。 2005年より亀田総合病院感染症内科に着任。感染症診療のベストプラクティス(最善の治療)を提供できるよう心がけている。YouTubeで性感染症の情報発信をするなどの啓発も行う。 ●関連サイト ・YouTubeチャンネル「kamedaChannel 亀田メディカルセンター」 ・X(旧Twitter)亀田メディカルセンター(公式)@kameda_official ・X(旧Twitter)亀田総合病院(ちっとばあり公式)@kmc_pr ・X(旧Twitter)亀田総合内科(亀田総合病院)@kameda_gim

はた なおこ

畑 菜穂子

ライター

1979年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーに。主にWEBメディアで活動中。子育て、性教育、グルメ、企業の採用案件などの取材・執筆を行う。多摩地域で、小学生の娘(2012年生まれ)、夫と暮らす。 Twitter @haricona

1979年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーに。主にWEBメディアで活動中。子育て、性教育、グルメ、企業の採用案件などの取材・執筆を行う。多摩地域で、小学生の娘(2012年生まれ)、夫と暮らす。 Twitter @haricona