おねしょが続く「夜尿症」 3つの治療法「生活指導」「アラーム法」「投薬治法」をふらいと先生が解説

小児科医・今西洋介先生に聞く「子どものおねしょ」 #2 「夜尿症」の治療について

小児科医:今西 洋介

「夜尿症」の治療法はどのようなものがあるのでしょうか?  写真:milatas/イメージマート
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小児科医・今西洋介先生に聞く、子どもの「おねしょ」について。

前回はおねしょが起こる原因や、日中の「おもらし」との違い、そして頻繁に続く場合は、受診・治療が必要な「夜尿症」の可能性があるということを解説してもらいました。

今回は「夜尿症」の治療法についてです。生活指導、アラーム法、投薬治法の3つの治療法を、今西先生に詳しくお話しいただきました。

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今西洋介(いまにし・ようすけ)
小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。
SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。
X(旧Twitter)ではふらいと先生(@doctor_nw)としてフォロワー数は14万人。

飲水のコントロールや生活リズムを整えるのがファーストステップ

──前回は、5歳を過ぎても、1ヵ月に1回以上のおねしょが3ヵ月続くときは「夜尿症」の可能性があるということ。また、その場合は受診したほうが子どもにとっても、親にとっても負担が少なくなるというお話でした。実際に、病院ではどのような治療をするのでしょうか?

今西洋介先生(以下、今西先生):最初は生活指導を行います。診察時に話を聞いていると、子どもによっては、寝る前にかなりの量のお水やお茶を飲んでいるという子が結構いるんですよね。これではもちろん、夜間におしっこが出てしまいます。

ですので、生活指導では、基本的に就寝2時間~3時間前から飲水制限をしてもらいます。また、夜寝る前に、必ずトイレに行くこと。そして毎日の排便の習慣や、早寝早起きといった生活リズムを整えることの重要性も伝えていきます。実はこれだけで改善をする子もいるんですよ。

アラーム療法と投薬での治療法

今西先生:生活指導だけで改善が見られない場合は、「ピスコール」というアラーム療法を取り入れます。

具体的には、パンツや専用のパッドにセンサーをセットして、おねしょを感知して、寝ている子どもを音や振動で起こすように促すものです。

これを繰り返して、子ども自身がおねしょに気がつくようにします。このアラーム療法を行っていくと、子どもは「眠いから起こされたくない」という意識が働いて、膀胱の尿を蓄える能力を高めていくようになり、夜間の尿の量が減るという効果も現れるように。しかし、それでも難しい場合は投薬を考えます。

──投薬をすると、具体的にどのような作用が体に起きるのでしょうか?

今西先生:デスモプレシン(ミニリンメルト)という抗利尿作用ホルモンと同じような働きをする薬を投薬します。

例えば、水を飲んだら間髪入れずにおしっこが出てしまうようでは生活できませんよね。そうならないため、人間の体の中では抗利尿作用ホルモンが働いて、利尿を妨げる働きをしています。デスモプレシンはこの働きを薬にしたもので、持続的な尿量の調整が可能になります。

ただ、この薬は口の中で「溶かして飲む」ものなので、薬の飲み方のコントロールができることが必要になります。ですから、ちゃんと飴を舐めて食べられるような年齢の子でないと、処方をするのが難しいです。

効果の早い投薬治療でも水分摂取量の管理が重要に

──夜尿症で悩む保護者にとっては、投薬で尿量が調節できて、親も子も安心して夜眠れるというのは大変うれしいと思います。でも一方で、投薬となると副作用のことも気になります。

今西先生:そうですよね。実はこの薬は副作用が強く、「水中毒」になる可能性があります。よく「水を飲みすぎるとよくない」なんていう話を耳にすることはありませんか? あれはどういうことかというと、過剰な水分を体内に溜めてしまうことで、体の塩分濃度が低くなり、低ナトリウム血症を起こしてしまうからなんです。

これと同じようなことが、この薬で起きてしまいます。つまり、寝る前に水分を規定以上飲んだ上に、薬を摂取することで、さらに体内に水分をとどめてしまう。そして、血液中のナトリウム濃度が低くなり、水中毒が起きるのです。そこで、水分摂取量の管理について保護者が気を配る必要が出てきます。

──たとえば夜尿症ではなく、昼間にも漏らしてしまうような場合でもこのお薬は効果があるのでしょうか?

今西先生:日中漏らしてしまうというのは、実は夜のお漏らしとはまた別と考えたほうがいいでしょう。

というのも、前回の記事でもお話ししたように、日中は寝ているときとは違い、意識がはっきりしています。そういう状態でもおしっこを漏らしてしまうというのは、自分で排尿のコントロールができなくなっているということです。この場合はデスモプレシン(ミニリンメルト)ではなく別のお薬が必要になってきます。

──ということは、日中と夜間のおもらしは別のものと認識して、病院へ受診する際に伝えたほうがいいということですね。ちなみにほかに保護者が気をつけておくべき点はありますか?

今西先生:生活指導やアラーム療法、投薬で夜尿症が一度は治ったのに、半年後など間隔を空けてまた症状が出てしまうパターンがあります。この場合、夜尿症ではなく、例えば糖尿病や脳腫瘍、甲状腺の病気などの病気が隠れていることも考えられます。「おねしょがまた再開した」と気軽に考えず、再度受診をするようにしましょう。

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夜尿症は、夜中に子どもを着替えさせ、寝具を取り替えたりという、物理的な負担が大きいことはもちろん、それに加えて親御さんが「自分のせいではないか」と自分を責め、さらに悩んでしまう方も多い病気だと思います。

病院で的確な治療をしてもらうことで改善されると知ると、親御さんもお子さんも、それぞれの負担が少しは軽減されることでしょう。

次回3回目は、現在抱えている夜尿症を悪化させない方法を、引き続き今西先生にお聞きします。

取材・文/知野美紀子

今西先生に聞く「夜尿症」は全3回。
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(※3回目は2024年3月〇日公開。公開日までリンク無効)

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いまにし ようすけ

今西 洋介

Yosuke Imanishi
小児科医・新生児科医

小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を努めた。 NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。 SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。 最新著書『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社) Twitterのフォロワー数は14万人。 Twitter @doctor_nw

小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を努めた。 NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。 SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。 最新著書『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社) Twitterのフォロワー数は14万人。 Twitter @doctor_nw