0歳児の半数が「逆さまつ毛」 “まつ毛の異変”の「原因」「症状」「受診の目安」を専門医が解説

子どもの逆さまつ毛#1 ~乳幼児期の「逆さまつ毛」の影響は?~

国立成育医療研究センター医員、眼科医:林 思音

逆さまつ毛による目の不調や症状が強い場合は、視力の発達不良につながるケースも。慢性的に気になる症状があれば、眼科受診が必要だと林思音先生は言います。  イメージ写真:アフロ

実は、日本人に多いという「逆さまつ毛」。特に乳幼児によく見られ、日本人の0歳児の46%が逆さまつ毛というデータも。

視力がぐんぐんと発達する乳幼児期、逆さまつ毛による影響はないのか気になるところです。

逆さまつ毛の原因やおもな症状、受診の目安について、国立成育医療研究センター医員で、眼科医の林思音(はやし・しおん)先生にお話を伺います。

※1回目/全2回

●林 思音(はやし・しおん)PROFILE
国立成育医療研究センター医員、眼科医。2004年、山形大学医学部医学科卒業後、山形大学医学部附属病院眼科、浜松医科大学医学部附属病院眼科などを経て、2021年、国立成育医療研究センター医員に。専門は、小児眼科学、斜視弱視学。

逆さまつ毛について丁寧に解説してくださった、国立成育医療研究センターの林思音先生。  Zoom取材より

日本人の子どもには逆さまつ毛が多い

──そもそも「逆さまつ毛」とは、どのような状態を指すのでしょうか。

林思音先生(以下、林先生) 本来まつ毛は、眼球から離れるように外向きに生えているのですが、下まぶたの場合は内向きや上向き、上まぶたの場合は下向きに生えて、まつ毛が眼球に触れている状態のことを「逆さまつ毛」といいます。上まぶたにも下まぶたにも現れますが、9割方は下まぶたです。

──なぜ、逆さまつ毛が起こるのでしょうか。

林先生 子どもの逆さまつ毛の場合、ほとんどは「睫毛(しょうもう)内反症」と呼ばれる疾患です。

まぶたの内側には、眼瞼牽引筋腱膜(がんけんけんいんきん・けんまく)という筋肉があり、穿通枝(せんつうし)と呼ばれる組織が、皮膚のほうへ向かって枝のように伸びています。この腱膜が下まぶたなら下のほうへ、まぶたの皮膚を引っ張ることで、まつ毛は外向きになります。

それが睫毛内反症の場合、先天的な異常で穿通枝の力が弱く、まぶたの皮膚がゆるんで、まつ毛が眼球に触れてしまうのです。睫毛内反症の原因は諸説あるのですが、最近有力だといわれているのがこの説です。

ほかに、まぶた全体が眼球のほうへ向いてしまう「眼瞼内反症(がんけん・ないはんしょう)」、まつ毛の生えている向きに異常がある「睫毛乱生症(しょうもう・らんせいしょう)」がありますが、どちらも高齢者に多く、子どもにはほぼ見られません。

──となると、子どもの逆さまつ毛は、ほとんどが生まれつきということでしょうか。

林先生 そのとおりです。そもそも日本人の顔立ちはまぶたの皮膚が厚く、逆さまつ毛が多いといわれています。特に子どもは顔が小さく、相対的に頰やまぶたの周りに余剰皮膚が多いので、下まぶたが押されて逆さまつ毛になりやすいのです。

あるデータでは、日本人の0歳児では46%、2人に1人が逆さまつ毛という報告もあります。もちろん、軽度のものも含まれていると思いますが、実際にほかの疾患で眼科を受診するお子さんの中にも逆さまつ毛をよく見かけます。

ただ、成長とともに顔の形が変わってくると、自然に治ることが多いです。4~5歳くらいまでに改善するお子さんが多く、先ほどのデータでも10歳では2%、50人に1人にまで減っています。

逆さまつ毛の子どもは乱視になりやすい

林先生 まつ毛が眼球、特に角膜(黒目)に当たることでさまざまな症状が出てきます。具体的には、目がゴロゴロする、まぶしがる、充血する、涙目になるなどで、朝方に目やにが多く出るという訴えもよく聞きます。

まぶしがるのは、眼球の表面に傷があってまぶしく感じるだけでなく、傷がなくても痛みなどの刺激症状でまぶしさを感じることがあります。また、涙目になるのは、異物感があることで目を保護しようと涙が多く出るため。まつ毛が当たっているので、涙もたまりやすくなります。

ただ、3歳未満の場合はまだまつ毛が柔らかく、それほど強い症状が現れることは少ないと思います。

──逆さまつ毛から、病気になることもあるのでしょうか。

林先生 角膜(黒目)にまつ毛が当たると、角膜のいちばん外側の層である上皮に傷がつき、角膜上皮障害になり得ます。

角膜上皮障害は刺激がなくなれば自然に治りますが、さらに内側まで障害されると、角膜が白くにごる角膜混濁(かくまくこんだく)が起きることも。角膜混濁は、目のかすみや視力の低下などを伴います。

また、眼科的には乱視も病気と捉えていて、逆さまつ毛のお子さんには乱視が多いです。その原因は諸説ありますが、子どもの柔らかい目にまつ毛が慢性的に当たることで、角膜の形状が微妙にゆがむのではないかという説が有力です。

乱視が強いと当然、裸眼視力が下がります。メガネをかけた矯正視力なら1.0が出るお子さんが多いのですが、矯正視力でも1.0が出ないと、弱視という病気を発症していることになります。

視力の発達は10歳前後で終わると言われているため、弱視は治療のタイミングを逃さないことが大切です。

目の疾患がわかる3歳児健診は必ず受診を

──逆さまつ毛が視力に関わるとなると、親としては心配です。受診の目安は、どのように考えればいいでしょうか。

林先生 先ほどもお話ししたとおり、逆さまつ毛そのものは成長とともに自然軽快することが多く、治療の開始時期が遅れたからといって大きな問題になるケースは少ないと思います。0歳児の2人に1人が逆さまつ毛ですから、気になる症状がなく、まつ毛が目に入っているだけなら受診の必要はありません。受診をしても経過観察になります。

ただ、やはり症状が強いとQOL(生活の質)は下がりますし、さらに重篤な場合は角膜混濁や弱視が起きている可能性があります。子どもの視力は成長している段階ですから、見えにくくても不自由はなく、「見えない」「見えなくなった」とは訴えません。気になる症状が現れたら、眼科を受診するのがよいと思います。

──親がわが子の症状を見て、受診が必要か判断するのはなかなか難しいですね。

林先生 3歳未満は、予防接種などで小児科へ行く機会が多いですよね。そのタイミングで、まずは小児科の先生に相談してみるのもいいのではないでしょうか。

──私の子どもも逆さまつ毛で、風邪をひくと涙目になったり、目やにが多く出たりします。そうした子どもは多いのでしょうか。

林先生 風邪を引いたとき、痛みがあるとき、風に当たって刺激症状が強くなったとき、涙が出ることはよくあります。逆さまつ毛の症状は、何かをきっかけに出やすい印象です。常に涙が出ているのなら、涙の出口が詰まっている鼻涙管閉塞症(びるいかん・へいそくしょう)など、ほかの病気も考えられます。

涙目になる、まぶしがるなど、逆さまつ毛と同じような症状が出る病気として注意したいのが、発達緑内障です。生まれつき眼圧が高く視神経が障害される病気で、視力にも大きく影響します。早めに治療を開始したほうがいいので、ほかに黒目が大きい、目が揺れる(眼振)、角膜混濁などの症状が見られたら眼科を受診してください。

また、逆さまつ毛はアレルギー性結膜炎と症状が似ていて、間違いやすいと思います。アレルギー性結膜炎の点眼薬を使っているお子さんが実は逆さまつ毛もあり、逆さまつ毛の手術を受けたら、点眼の頻度が減った例があります。

逆さまつ毛とアレルギー性結膜炎を合併していることもあり、逆さまつ毛のためにアレルギー性結膜炎が悪化しているケースもありそうです。

──子どもの逆さまつ毛を疑ったら、親として注意すべき点はありますか。

林先生 市区町村で実施される3歳児健診では、眼科検査が行われます。3歳児健診は逆さまつ毛だけでなく、さまざまな目の疾患のスクリーニングに重要なターニングポイントだと、私たち眼科医も考えています。

視力検査のほかに問診もあり、問診の中には逆さまつ毛を見つけるためのチェック項目も含まれています。気になる症状があるようでしたら、そこを意識してチェックするといいでしょう。

また、健診後に何らかの異常を指摘されたら、必ず精密検査を受けてください。検査を受けることで逆さまつ毛の重症度、つまり乱視や弱視がある場合は明らかになります。大事なターニングポイントを逃さないでいただきたいですね。

ー・ー・ー・ー・

第2回は、引き続き、林先生に逆さまつ毛の治療と手術について伺います。


取材・文/星野早百合

※「子どもの逆さまつ毛」は全2回(公開日までリンク無効)
#2

●関連サイト
国立成育医療研究センター

Shion Hayashi

林 思音

はやし しおん
眼科医

国立成育医療研究センター医員、眼科医。2004年、山形大学医学部医学科卒業後、山形大学医学部附属病院眼科、浜松医科大学医学部附属病院眼科などを経て、2021年、国立成育医療研究センター医員に。専門は、小児眼科学、斜視弱視学。 ●国立成育医療研究センターHP 

国立成育医療研究センター医員、眼科医。2004年、山形大学医学部医学科卒業後、山形大学医学部附属病院眼科、浜松医科大学医学部附属病院眼科などを経て、2021年、国立成育医療研究センター医員に。専門は、小児眼科学、斜視弱視学。 ●国立成育医療研究センターHP 

ほしの さゆり

星野 早百合

ライター

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。