大反響『御上先生』監修者らが明かす「学校の問題点」 ドラマの「考えて」が子どもに大切なワケ

工藤勇一・白井智子・中山芳一・西岡壱誠 日曜劇場『御上先生』イベントレポート

ライター:北 京子

ドラマの教育監修者が日本の教育について激論

2月8日(土)、そんな『御上先生』の教育監修者らによるトークイベントが行われました。登壇したのは、千代田区立麴町中学校の校長として大胆な教育改革を実践し、現在も全国でアドバイザーを務める工藤勇一氏と、非認知能力に関する著書を多く出版している中山芳一氏。

工藤氏は『御上先生』の学校教育監修を、中山氏は教育監修を担っています。さらに、フリースクール設立など25年以上、不登校支援に携わり、『ひるおび』(TBS)のコメンテーターを務める白井智子氏もゲストに迎え、日本の教育について熱く語り合いました。

日曜劇場『御上先生』では「考える」ことをテーマに、教育制度と教育現場の問題が描かれている。  写真:松井雄希
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今の教育システムはもう限界!? メインテーマ「教育のリビルド」とは?

ドラマのメインテーマとして掲げられているのが、教育の「リビルド(=再構築)」です。第2話では御上自身が「学校も官僚も驚くほど前例主義。今、教育に必要なのは、バージョンアップでなくリビルド」と語っています。なぜ今、教育のリビルドが必要なのでしょう。

「不登校の子どもの数は過去最多となる34万人に達しています。これまでの学校の仕組みからこぼれ落ちてしまう子どもがこれだけいるということです。一人ひとりの個性が尊重され、誰もが自分に合った学びかたを選べるよう、もっといろいろな選択肢を作らなければいけません」(白井氏)。

学びかたの選択肢が多様な欧米には、そもそも“不登校”という概念すらないと工藤氏が続けます。

「自己肯定感の高い子どもとは褒められて育った子ではない。自己決定できる子、自分で自分を褒められる子が自己肯定感の高い子になる」と工藤氏。  写真:松井雄希

「受験を前提とした学力偏重の日本の教育システムは、世界的にはかなり変わっています。そのほころびが、不登校やいじめ、教員の過重労働などさまざまな問題として浮かび上がっているのです」(工藤氏)。

生徒に、教師に、社会に、突きつける名台詞「考えて」

教育のリビルドを目指しながらも、受験という逃れられない現実を目前にした生徒たちに誠実に向き合う御上。彼がよく口にするのが、「考えて」という言葉です。これは何を意味しているのでしょうか。

「多様で正解のない社会で生きていくのは簡単ではありません。それを学ぶ場が学校であるべきなんです。でも現状、教員はトラブルが起きないように先回りをしたり、手をかけすぎてしまう風潮があります。

子どもたちから『考える』チャンスを取り上げているのです。その結果、何かうまくいかないことがあると、すぐ誰かのせいにするようになる。

御上先生の『考えて』という言葉は、『学校も社会も君たちのものなんだから、文句ばかり言ってないで自分たちで何とかしていこうよ』というメッセージにも聞こえますね」(工藤氏)。


「僕は最近、全国の小中学校に行って先生方の伴走をしているのですが、『考えて』という言葉は、生徒だけでなく教員にも向けられているような気がしますね」(中山氏)

「親も社会ももっと考えなくてはいけませんよね。当たり前だと思っていたことを疑ってみることも、ときには必要だと思います」(白井氏)

『御上先生』の教育監修・中山芳一氏は元岡山大学准教授で、非認知能力に関する著書を多く出版している。  写真:松井雄希

松坂桃李が関心を示した「自主性」より「主体性」の意味

ドラマの収録開始前、出演者やスタッフを相手に、日本の教育が抱えている課題について講義を依頼されたという工藤氏。約1時間の話の中で、主演の松坂桃李氏が特に関心をもったテーマが「自主性と主体性」の話だったそうです。

「自主性と主体性、この2つは同じような意味で使われていますけど、実は違います。自主性は、周りが期待することを率先してやること。学校や組織にとっては都合がよいので評価されやすいんですね。

一方、これからの社会で本当に必要なのは、主体性。自分の頭で考えて行動する力です。現状に対して常に疑問を持ち、場合によっては、これまで当たり前にやってきたことでも、やらないという選択をする。つまり、自分で決める、ということです。自己決定なしに子どもは育たないし、自己肯定感も高まりません」(工藤氏)

「主体性を取り戻すと、子どもは驚くほど変わります。ありのままでいいと受け入れてもらえるだけで、みるみる自信を回復し、人との信頼関係を取り戻していく。そういう環境が子どもたちにとって大切なんだと思います」(白井氏)

大阪府池田市と連携して全国初の公設民営フリースクールを設立した白井智子氏。  写真:松井雄希

第4話では、生徒たちの主体性が開花してクラスの雰囲気がガラリと変わり、物語が大きく動き始めました。

「教育は社会を変えられる。たった一人の教員の力でも変えていけるんだと、ドラマを通じて先生方に感じていただきたいですね」(工藤氏)。

現役教員は『御上先生』をどう見ているのか!?

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