大反響『御上先生』監修者らが明かす「学校の問題点」 ドラマの「考えて」が子どもに大切なワケ

工藤勇一・白井智子・中山芳一・西岡壱誠 日曜劇場『御上先生』イベントレポート

ライター:北 京子

ドラマ『御上先生』の根底に流れる教育課題やメッセージについて熱い議論が交わされたイベント第1部。第2部では、『御上先生』のほか『ドラゴン桜』(TBSドラマ)でも監修を務めた西岡壱誠氏と、全国の中学・高校の現役教員7名によるトークセッションが行われました。

ドラマで描かれたシーンや台詞について、現場の先生方はどう感じているのでしょうか。

『御上先生』のトークイベント第2部では、公立私立の中高の教諭から校長、そのほか教育関係者が集まり、今の教育について熱い議論になった。  写真:松井雄希
すべての画像を見る(全9枚)

先生=教える人ではなくなった

なかでも筆者が注目したのは、前述の「考えて」という御上の台詞についての議論。「実際、生徒たちに言いたくなる場面はありますか?」という問いかけに、全員が「ある」と回答しました。

「部活の試合で負けた生徒たちに、負けた理由や、次に勝つためにどうしたらよいかを考えさせます」「私自身が答えを持ち合わせていない問いについて『一緒に考えてみよう』と促します」「“親しき仲にも礼儀あり”という言葉の英訳に悩む生徒に『まず日本語でわかりやすく言い換えてみたら』と考え方をアドバイスしました」など、さまざまな「考えて」と生徒へ伝える場面が紹介されました。

それを踏まえて、「“先生=教える人”という時代ではなくなりましたよね」と西岡氏。

「先生が知っていることしか教えないのでは、それ以上の存在は生まれない。誰も答えを持っていない問題が山積みの今、一人ひとりが自分の頭で考える習慣をつけなければいけません」と、教育が転換期を迎えていることを改めて示唆しました。

『御上先生』教育監修の西岡壱誠氏は偏差値35から東大に合格。能動的な勉強法を説いた『東大読書』シリーズ(東洋経済新報社)は累計40万部のベストセラーだ。

子どもの「別に」から真意を引き出すには

イベント後半に取り上げられたのは、ドラマの中心的な生徒・神崎拓斗(奥平大兼)が、自身にとって重要な問題を「別に」と投げやりな発言でかわそうとしたところ、御上の巧みな問いかけで真意を語るに至ったシーン。こんなとき、先生たちはどう生徒に向き合っているのでしょうか。

「問いを投げかければ投げかけるほど、子どもは何を答えたらよいかわからなくなるので、待つことを大事にしている」という声もあれば、「『別に』に続く言葉を想像して、生徒の気持ちを一緒に掘り下げてみる」という意見も。正解は一つではない、だからこそ現場の先生たちも常に考え続けているのだと感じました。

議論が巻き起こるドラマ

会場には、登壇者以外にも多くの教育関係者がかけつけ、お互いの考えや経験を共有しました。その様子に、「楽しいですね」と西岡氏。

「議論が巻き起こるドラマになればと監修を引き受けたので、今とてもうれしいです。これからも一緒に考えていきましょう」と会を締めくくりました。

事件の背景にどんな深い闇があるのか、御上によって学校や教育は変われるのか、次はどんなパワーワードが飛び出すのか……。回を重ねるごとにますます目が離せなくなる学園ドラマ『御上先生』。

純粋にエンターテインメントとして楽しめるのはもちろん、こうして各所で巻き起こる議論は、日本の教育を変えていく大きなうねりとなっていくかもしれません。

工藤勇一氏(左上)、中山芳一氏(左下)、白井智子氏(右上)、西岡壱誠(右下)、教育の最前線で活躍する4名だ。

日曜劇場『御上先生』から見る“教育”【TBS】

【登壇者プロフィール(敬称略)】

■工藤 勇一(くどう・ゆういち)
1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。公立学校教員、東京都教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年4月より千代田区立麴町中学校校長、2020年4月より学校法人堀井学園横浜創英中学校・高等学校校長として、教育改革を行ってきた。

■中山 芳一(なかやま・よしかず)
All HEROs合同会社代表社員/IPU環太平洋大学特命教授/元岡山大学准教授(教育方法学)/岡山県子ども子育て会議会長。1976年1月、岡山県生まれ。大学生のためのキャリア教育から幼児から小中学生、高校生たちまで、各世代の子どもたちが非認知能力を向上できるために注力している。著書に『教師のための「非認知能力」の育て方』(明治図書)、『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(東京書籍)など。

■白井 智子(しらい・ともこ)
1972年千葉県生まれ。4~8歳を豪・シドニーで過ごす。東京大学法学部卒業後、松下政経塾に入塾。1999年沖縄のフリースクール設立に参加、校長をつとめる。2003年、NPO法人トイボックスを立ち上げ、大阪府池田市と連携して不登校の子どものための全国初の公設民営フリースクール「スマイルファクトリー」を設立。東日本大震災後には福島県南相馬市に「みなみそうまラーニングセンター」「はらまちにこにこ保育園」「錦町児童クラブ」等を立ち上げ、2020年から2期4年、NPO等ソーシャルセクターが加盟する新公益連盟の代表をつとめた。現在はこども政策シンクタンク代表として現場からの政策提言と新しい教育の選択肢をひろげる活動を並行して行っている。中央教育審議会等の有識者会議委員やTBSひるおびのコメンテーターなどもつとめる。

■西岡壱誠(にしおか・いっせい)
(株)カルペ・ディエム代表取締役社長。東京大学経済学部4年生。偏差値35の学年ビリから、2浪で自分の勉強法を一から見直し、どうすれば成績が上がるのかを徹底的に考え抜いた結果、東大に合格。著書『東大読書』シリーズは累計40万部のベストセラーに。漫画『ドラゴン桜2』の編集やドラマ日曜劇場『ドラゴン桜』の脚本監修を担当。バラエティ番組『100%! アピールちゃん』『月曜の蛙、大海を知る』(MBS)にてタレントの小倉優子さんの受験をサポート。

【関連リンク】
日曜劇場『御上先生』公式HP

この記事の画像をもっと見る(全9枚)
35 件
くどう ゆういち

工藤 勇一

教育アドバイザー

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から2020年3月まで千代田区立麴町中学校校長。2020年4月より学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校校長。 宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。一連の改革には文部科学省が視察に訪れ、メディアがこぞって取り上げるなど話題になる。現在もさまざまな学校、教育現場でのアドバイザーとして活躍。 初の著書『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)は10万部超えのベストセラーに。著書に『麴町中学校の型破り校長 非常識な教え』、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(以上SBクリエイティブ)、『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史氏との共著/講談社現代新書)など著書多数。 2022年10月には哲学者・教育学者の苫野一徳氏との共著で『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』を上梓。

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から2020年3月まで千代田区立麴町中学校校長。2020年4月より学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校校長。 宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。一連の改革には文部科学省が視察に訪れ、メディアがこぞって取り上げるなど話題になる。現在もさまざまな学校、教育現場でのアドバイザーとして活躍。 初の著書『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)は10万部超えのベストセラーに。著書に『麴町中学校の型破り校長 非常識な教え』、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(以上SBクリエイティブ)、『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史氏との共著/講談社現代新書)など著書多数。 2022年10月には哲学者・教育学者の苫野一徳氏との共著で『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』を上梓。

にしおか いっせい

西岡 壱誠

Issei Nishioka
株式会社カルペ・ディエム代表

現役東大生、株式会社カルペ・ディエム代表。漫画『ドラゴン桜2』、日曜劇場ドラマ『ドラゴン桜』監修。 1996年生まれ、東京都出身。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。 2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画『ドラゴン桜2』の編集も担当。 著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。 主な著書に『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』『「伝える力」と「地頭力」がいっきに高まる 東大作文』『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』(共に東洋経済新報社)、『「思考が整う 東大ノート。』(ダイヤモンド社)、『読んだら勉強したくなる東大生の学び方』(笠間書院)、『東大式スマホ勉強術 いつでもどこでも効率的に学習する新時代の独学法』(文藝春秋)など多数。 株式会社カルペ・ディエム https://carpe-di-em.jp カルペ・デュエム公式チャンネル https://www.youtube.com/@carpe-di-em/videos

  • x
  • youtube

現役東大生、株式会社カルペ・ディエム代表。漫画『ドラゴン桜2』、日曜劇場ドラマ『ドラゴン桜』監修。 1996年生まれ、東京都出身。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。 2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画『ドラゴン桜2』の編集も担当。 著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。 主な著書に『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』『「伝える力」と「地頭力」がいっきに高まる 東大作文』『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』(共に東洋経済新報社)、『「思考が整う 東大ノート。』(ダイヤモンド社)、『読んだら勉強したくなる東大生の学び方』(笠間書院)、『東大式スマホ勉強術 いつでもどこでも効率的に学習する新時代の独学法』(文藝春秋)など多数。 株式会社カルペ・ディエム https://carpe-di-em.jp カルペ・デュエム公式チャンネル https://www.youtube.com/@carpe-di-em/videos

きた きょうこ

北 京子

Kyouko Kita
フリーライター

フリーライター。 藤沢市在住。食の月刊誌の編集者を経て独立。食を中心に、SDGs、防災、農業などに関する取材・執筆を行う。 3児の母。自然の中で遊ぶこと、体を動かすこと、愛犬とたわむれることが好き。

フリーライター。 藤沢市在住。食の月刊誌の編集者を経て独立。食を中心に、SDGs、防災、農業などに関する取材・執筆を行う。 3児の母。自然の中で遊ぶこと、体を動かすこと、愛犬とたわむれることが好き。