本を買う前に書き始める!? 現役小学校教師が指南する、読書感想文の極意

「自分が主役」で書けば、「生きる力」も、のばせます!

小学校教諭:熱海 康太

熱海康太先生
現役の小学校の先生で、先生向けの著書もたくさんおありです。

本の用意、読む時間、内容を考える時間、それを書く時間……
<できあがり>からは想像もできないくらい時間がかかる読書感想文。夏休みも終わりが近づき、終わっていない方は心配になってきているのでは。
『伝わり方が劇的に変わる!6つの声を意識した声かけ50』(東洋館出版社)など、小学校の先生向けの著書が多数ある桐蔭学園小学校教諭の熱海康太先生に、独自の方法論を教えていただきました。この方法で、読書感想文コンクール入賞でした生徒さんもいらっしゃるそうです。
本が手元にいらないので、今日からはじめられます!

低学年の子どもにとっては、原稿用紙を埋めるだけでもひと仕事! せっかく手間ひまかけて書く読書感想文、やりすごすだけでなく、いろいろな力が身につく方法を知りたいですね。
(イメージ写真/photoAC)

読書感想文は、一番困る宿題

小学生の夏休みに出される宿題で、例えば、漢字練習、読解、計算練習、文章題。
このようなものは、子どもが困っていた時に、親はアドバイスをすることができます。
なぜなら、「正解」がわかっているからです。
 
しかし、読書感想文はどうでしょうか。読書感想文の書き方を国語の授業で習うことは珍しいですし、ましてや「このように書くと正解です」というものを習ったことがある人は数えるほどでしょう。
ですから、読書感想文の宿題が出た時には、どう「子どもに書かせたらいいのか分からない。正直途方にくれている」という保護者の方は多くいらっしゃいます。

そこで、ここに一つの「読書感想文の正解」を提示したいと思います。

この正解に当てはめてアドバイスすれば、子どもにまとまりのある上手な文を書かせることができるだけでなく、生きる力を育む素晴らしい読書体験をさせることができます。

「読書感想文の正解」の特徴


・最初の3分の1には、本の内容を書かない。

・「今までの自分」→「本から学んだこと」→「これからの自分」の三部構成で書く。

・本の感想ではなく、自分のことを書くイメージで
(「本が主役」ではなく「自分が主役」)

ステップ1「今の自分」を全体の文量の3分の1くらい書く

(まだ、本を買いに行かなくてもいいですよ)

子どもたちの読書感想文でよく見かけるのは、次のふたつです。

・書き出しが、「わたしがこの本で一番感動したのは……」などになっているもの
・本のあらすじが、長々と書いてあるもの


このタイプの感想文を書いていると、子どもは本が嫌いになります。

なぜなら、この感想文の主役は「本」であり、子どもは「書かされている」だけだからです。

よい読書とは、「こんなすごい本を見つけました!」ではなく、「自分にとって、この本は最高のヒントや希望になった!」であるとわたしは考えています。
「本」という刺激で、「自分が変わる」のです。本が好きになる読書は、自分が主役なんですね。

ですから、読書感想文という名前に惑わされずに、自分を主役にして、自らのポジティブな変化を書いていくことが、子どもにとって意味のあることなのです。それが、結果として、その本の魅力を伝えることにもなります。

まず、冒頭から3分の1くらいまでは、今までの自分について書き、あえて本のことは何も書かないようにします
これで、自分が主役の読書感想文であることがはっきりしますね。

例えば、自分ががんばっていることや興味を持っていることを書きます。
「自分はピアノをやっていて、○○という難しい曲に挑戦している」や「昔から虫が大好きだが、常々不思議に思っていることがある」などと、書いていきます。

ここで、自分の課題や壁になるものを書くと、後半へつながりやすくなります。
ピアノなら「ピアノは大好きだけど、練習は嫌いで」、虫についてであれば「疑問は持っているが、調べようとはしなかったし、またその方法もわからない」などと書いていきます。

ここまでを、本を買う前に書いてしまうのが理想です。それから、自分の課題を解決してくれそうな本を本屋さんで選ぶといいでしょう。
「そんな本が都合よく見つかるか不安」という方は、課題図書から選ぶことをお勧めします。
本にはそれぞれ、伝えたい<作品の心>があります。読書感想文の課題図書には、<作品の心>が幅広く、「多くの人に当てはまる」ような本が選ばれています。

感想文の題名は、最後に書くので、まだ空けておいてください。

ステップ2「本から学んだこと」を全体の3分の2まで書く

さあ、いよいよ本を選びましょう。
(イメージ写真/photoAC)

(いよいよ本を手に入れます。自分の課題を解決する種がないかどうか、考えながら本を読みましょう。そうすることで、「どこかのだれかの、だれかのための本」ではなく「自分の本」として捉えることができるのです)

続いて、中の部分は、この本からどのような刺激を受け取ったのかを書きます。ここで初めて、本の内容を書いていくわけです。
もっとも書きやすいのは、印象に残った一つのセリフや、一文を引用することです。それがどういった理由で、印象的だったのかを述べていきます。
ここでは、その根拠となる文章や話の流れを最低限は書く必要があります。

ただし、「主人公のこのセリフに感動した」「ここがすごいと思った」という書き方をすると、本が主人公になってしまいます。
重要なのは、自分が主体になるように書くことです。
「(このように書いてあり)自分にもこのようなことがあったから、やはり……」など、自分ごとに置き換えて書いていくと、本と自分の関係が近いことが伝わります。

また、ストーリーに対して、もし自分だったらこうしていた、という切り口で書くのもいいですね。
「自分なら、このセリフはありえない」や「自分なら、こんな風にはできなかったかもしれない」などと書いていく
ことで、本を自分に引き寄せて、能動的に読もうとしていることがわかります。

ステップ3 最後の3分の1は、「これからの自分」を書く

最後は、その本の刺激により、自分が何を得て、どのように変わっていく展望があるのかを書いていきます。
ステップ2では、具体的な台詞や場面について書いていきましたが、そこから自分に戻していくわけです。

ここで陥りがちなのが、「大きなこと」を書いてしまうという失敗です。

「大きくなって難民キャンプで人を救いたいです」「ヘレンケラーのように困難があってもあきらめずに立ち向かいます」というのは、気持ちとしてはわかるのですが、では具体的に今日からどうするのかということがぼんやりとしてしまい、これからの自身の歩みがわかりづらくなってしまいます。

最後は、「今日この瞬間から変えられること」「すでに行ったほんの小さな一歩」を書いていきましょう。
小さくても実現可能な、確実な変化を書いたほうが、これから迎える大きな変化をよりリアリティを持って表せるのです。

大きな変化への最初の一歩を明確に書くことで、感想文は、自分に対する決意表明文にもなります。

最後に、その決意表明を一言にまとめたものを、題名として書いて、完成です。

<読書感想文>ではなく、<決意表明文>を書こう!

いかがでしたでしょうか。

たかが読書感想文ではありますが、<本>の主役にした感想文ではなく、<自分>を主役にした決意を書くものととらえただけで、お子さんにとって、さらに意味のある体験になります。
読書感想文の宿題をすることによって、お子さんが日々の課題を意識し、それを解決できる大きな一歩にもなりうる可能性があるのです。

このような読書体験は、子どもを本好きにし、文章をうまくし、生きる力がつけさせます。これを、小学校6年間続ければ、子どもは大きな学びを手に入れることになります。

この「読書感想文の正解」(もちろん、正解はひとつではありません)が、その一助となればと願っております。

本のなかに、自分の課題を解決する種がないか探せるようになったらいいですね。
(イメージ写真/photoAC)

よくある質問にお答えします

Q 本を読むのが苦手な子です。絵本で書くというのは、ありなのでしょうか。

もちろん、ありです。長い文章を読むのが目的なのではなく、本により自分がより良く変わることが目的なので、発達段階に合わせて感性を刺激するものであれば、絵本の方がむしろいい、ということもあり得ます。実際に、課題図書でも絵本は選ばれていますよ。

Q 本を読んでくれません。読み聞かせしてあげたもので、感想文を書くのは、ありなのでしょうか。

上の質問と同様、ありです。自分が本から刺激を得て、ほんの少しでもポジティブに人生が変わることが大切です。その目的を考えると、自分で読んだか、読み聞かせてもらったかに大きな違いはないでしょう。読書感想文を書くことで、国語の力は大きくつきますが、それが目的になってしまうと一気に「書かされるもの」になってしまいます。

Q 文字を書くのをめんどくさがります。どうしたらいいのでしょうか。

何日かにわけて、書いてみましょう。
また、文章を考えることと、文字を書くことは別で行うといいでしょう。
文章を一緒に考えていきながら、できればお手本を作ってあげ、数日にわけて書くことだけに集中させれば、負担感はかなり減ります。
もう少しGAGAスクール(*)が促進されれば、パソコンの入力などで対応できるようになるかもしれませんね。

*GIGAスクール:GIGAは、Global and Innovation Gateway for Allの略。「児童生徒向けの1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、多様な子どもたちを誰一人取り残すことのなく、公正に個別最適化された創造性を育む教育を、全国の学校現場で持続的に実現させる構想」(文部科学省)

熱海先生おすすめの本

『区立あたまのてっぺん小学校』(作:間部香代 絵:田中六大 金の星社)

頭の上に小さな学校ができてしまったリョウくんのお話です。設定がおもしろく、子どもらしいリョウくんに感情移入しやすいので、本が苦手な子でもどんどん読み進められます。頭の上にいる小さな子はとてもかわいいので、男女両方に お勧めしたいです。リョウくんが困ったり、考えたりしたことを自分に置き換えればいいので「自分が主役の読書感想文」が書きやすい一冊です。
『だれだかわかるかい? むしのかお』(文・写真:今村光彦 福音館書店)

昆虫写真家が虫の顔をアップで写した絵本。図鑑に近いこのような絵本でも「自分が主役の読書感想文」は書けます。
たとえば、「物ごとを引いてみている時と、アップで見ている時は感じがちがう。だから、ぼくも友だちとアップでしっかり仲良くなりたい」や「ナナフシは枝に変身するけど、ぼくも自分が変身したように感じることがある」など、昆虫を観察する視点や昆虫の特性を自分と関連づけて書けばよいのです。
理科分野が好きだったり、長い物語を読むのに抵抗があったりという子には、このような本の選択肢もあります。
『エルマーのぼうけん』(作:ルース・スタイルス・ガネット 絵:ルース・クリスマン・ガネット 訳:わたなべしげお 福音館書店) 

幼年童話の名作です。このような昔からの名作を選ぶメリットは、「よい作品であることに疑いようがない」「学びや教訓が詰めこまれているので、切り取れる場面が多く、『自分が主役の読書感想文』が書きやすい」「親が話を知っているので、アドバイスしやすい」など、たくさんあります。
活字が苦手な子にも、夏休みの夜に毎日少しずつ読み聞かせをすることで、長い物語を想像することに慣れるだけではなく、親子の大切なコミュニケーションな時間にもなります。
本が好きな子なら、夏休み、自力で読むことに挑戦するのにちょうどよい文量です。

まだまだあります。低学年の読書感想文におすすめの本

『INSECT LAND カブトムシのガブリエル、もりのヒーロー』(作:香川照之 絵:ロマン・トマ 講談社)

昆虫好きのお子さんが興味を持ちやすい絵本です。生き物の世界の多様性、自然界の豊かな姿を伝えたいと企画された「INSECT LAND」シリーズの1冊。主人公のヘラクレスオオカブトのふるまいが、強い人こそ、やさしい心を持つべきだというメッセージを伝えており、小さい子どもが自分ごととしてとらえやすい物語。
『にじいろのさかな 』(作:マーカス・フィスター  訳:谷川 俊太郎)

世界中で1300万部も売れているベストセラー。 きらきらうろこを自慢するばかりだった<にじうお>が、たいせつなうろこを友だちにわけ与えることで、もっと大切なものを得るというお話です。
読書感想文コンクールでは、毎年のようにたくさんの人が取り上げる、定番中の定番。テーマが子どもにとって身近で、自分にひきつけて書きやすい本です。
『バーバパパのがっこう』 (作:A・チゾン、T・テイラー  訳:山下 明生 講談社)

勉強ぎらいのバーバパパの子どもたち。学校も好きじゃありません。そこで、バーバパパがゆかいな学校をつくり、楽しい授業をはじめます。
子どもたちもよく知っている学校が舞台の絵本なので、自分ごととして、お話が広げやすいです。大人が読んでも楽しそうな学校で、親子の会話も広がりそうです。
あつみ こうた

熱海 康太

Kota Atsumi
小学校教諭

『伝わり方が劇的に変わる!6つの声を意識した声かけ50』(東洋館出版社)など、小学校の先生向けの著書が多数。

『伝わり方が劇的に変わる!6つの声を意識した声かけ50』(東洋館出版社)など、小学校の先生向けの著書が多数。