中学受験「国語」読解力アップ3大秘訣 出題小説を受験塾教室長が徹底解説
中学入試国語 3年間で5冊36件も出題された講談社の小説をていねいに分析
2022.09.17
受験対策としての物語文の読み方
中学受験ではさまざまな種類の文章が出題されますが、前回おすすめ本として紹介した『保健室経由、かねやま本館。』(2021年に2校で出題)をはじめとする物語文を引用しながら、「受験対策としての物語文の読み方」をテーマにお話ししていきます。
あらすじ
ずっとクラスの人気者として生きてきた中学生の佐藤まえみ(通称:サーマ)。
父親の異動に伴い、夢の東京生活がはじまった。東京生活になじめなかったのか兄の慈恵(じけい)は突然不登校に。
サーマは東京でもうまくやっていけるって信じていたけど、「サーマって、なんていうか……ちょっとしんどい」と、仲良しグループにはじかれて……。
登場人物を書き出してみる
物語文とは作者によって創作された文章です。
登場人物(特に主人公)の動きを中心に見ていくことによって、展開をとらえていきます。
「場面(いつ、どこで、だれが、何を、どうした)」から「心情(気持ち)」、そして作品の「テーマ(主題)」へと、中心部分に迫っていくように読み取っていくのが一般的な読解法です。
(例)『保健室経由、かねやま本館。』の場合
登場人物(主人公):
新潟の小学校では、クラスの人気者だったサーマ(転校生)
「かねやま本館」でしか会えないサーマが信頼している人物たち、小夜子さんとキヨとアリ
場面(どこで):心に傷を負った子たちだけが行ける中学生専門の湯治場「かねやま本館」
心情(気持ち):孤独感、さびしさ
テーマ(主題):主人公の(精神的な)成長
中心部分にあたる内容の傾向・パターンをつかむ
国語は、文種別の読解法の精度を上げていくことを目標に学習していくことが大事です。特に5年生後半頃からは本文全体から中心部分を捉えることを主眼に置くとよいでしょう。
中心部分と一口に言っても、それらは文種によって異なります。物語文をはじめとした文学的文章であれば「主題(テーマ)」がそれに当たります。
いきなり読み取るというよりは、ある程度の手順を追って読み取っていくと、最終的にそこに至るといった形です。
物語文だと「場面→心情→主題」の順で読み取っていくのが一般的ですが、ここで重要なのは、中心部分にあたる内容の傾向・パターンを自分なりにつかむことです。
よく取り上げられる主題としては「友情」「家族愛」「師弟愛」(これらは「絆」といった言葉でもまとめられますね)「主人公の(精神的な)成長」などがあります。
普段から、活字に触れる中で、作者が何を伝えようとしているのかを考え、中心部分をつかむ習慣を自然と身につけていくのが理想的です。それがなかなかできなくても、相手との会話の中で、その相手はつまりこういうことが言いたいのだな、ということをつかもうとするだけでもよいですから、日常生活から「要するに、こういうこと」というまとめの感覚(意識)を持つとよいでしょう。
「逆接」の接続語には要注意
接続語の問題も、基本を確立するうえではとても重要な問題です。
文や言葉どうしのつながりを正しく理解することによって、どのように文章が展開していくのかがわかります。
中でも「しかし」「ところが」などの「逆接」の接続語には要注意です。なぜなら話の展開が大きく変わる手がかりとなる可能性が高い言葉だからです。
前後のつながりを意識した読み方こそ、正しい読解の第一歩といっても過言ではないのです。
(例)『保健室経由、かねやま本館。』の場合
p.162より
この場所を失ったら、もうひとりぼっちになってしまうような気がしていた。有効期限が終わったら、あとはひとりで戦わなきゃいけないんだ、って。
だけど、本当にそう……?
霧が晴れて薄くなっていくように、心の奥が、景色が、少しずつくっきりとしていく。
父と母、慈恵。家族の顔が、順番に胸に浮かびあがる。それに続いて、アベちゃんやシノちゃん、新潟の友達の笑顔……。ちっともひとりぼっちじゃない。舞希たちへの憎い思いにとらわれすぎて、見えなくなってた。あたしには、大切な、大事な人たちがたくさんいるのに。
調べる前に意味を予測する
国語は言葉の勉強ですから、言葉そのものを多く知っていれば、それだけ読み取りの幅も広がります。とは言っても、知らない言葉をやみくもに覚えようとしても、どこから手をつければよいかわからないですね。
そこでおすすめするのが「ことわざ」です。
ことわざは、言葉から意味をイメージしやすいものが多いので、初見のものでも意味をある程度予想できます。
じつは、言葉を覚える際に必要な作業は、「調べる前に意味を予測すること」です。
知らない言葉の意味をすぐに辞書で調べてしまうと、そこではわかったつもりでも、頭の中に残りにくくなります。
「自分の頭で考える」という過程を経ることで、覚えた言葉をしっかりとキャッチし、忘れにくくなるのです。手元にある塾のテキストを使って覚えていきましょう。
ことわざをある程度覚えられたら、次は「慣用句」です。文字通り、日常生活で「慣用」的に用いられていますが、子どもにとってなじみのうすいものはたくさんあります。
特に「体の一部分」を使った慣用句を優先的に覚えましょう。
(例)『保健室経由、かねやま本館。』の場合
p.156より
アリはあたしより先に、ここからいなくなる。そのうち、あたしもここからいなくなる。ひとりぼっちになる。胸にこみあがってきたものの正体はわかっていた。
p.156より
キュウキュウと音をたてそうなほど、胸が苦しい。こんな気持ちになるなら、はじめからここを知らないほうがよっぽどよかった。
p.160より
目を丸くするあたしたちの前に、小夜子さんは白玉ぜんざいを差しだしながら話を続けた。
(例)『十四歳日和』の場合
p.47より
え、と私は目を見開く。しおりは目を細めて、小さく、ほほえんだ。
「でも。やっぱり、好きだから。それ以外、ないなって」
(例)『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』の場合
p.60より
「昨日、吟行するんじゃなかったんですか?」
わたし、待っていたんですけど、ということをアピールするように、わたしは口をとがらせた。
(例)『朔と新(さくとあき)』の場合
p.278より
「伴走者としてってやつ」
いや、とかぶりを振ると、新は口角をあげた。
「伴走したランナーが、また次も走りたいと思えるレースをすること、だって」
※かぶり:あたま
問題演習で触れた文章で使われている和語にチェックを入れる
語彙力を高め、国語力を盤石なものにしたい人には、「和語」の学習がオススメです。
「やまとことば」とも言われる「和語」は日本に古くからある言葉であるにもかかわらず、子どもたちにとってなじみのうすいものが多く、完全に大人向けの書籍などに触れない限り、日常生活における言語活動から習得するのは難しいです。
また、「おくゆかしい」「しおらしい」「しとやか」といった、昔は女性の理想的なありようとされてきた和語など、やや時代遅れの感が否めません。大昔から存在する言葉である分、一方でそうした時流にそぐわない言葉であることも、定着を難しくしている理由なのかもしれません。
しかし、大人でも読みごたえのあるような説明系の文章や、時代背景の古い物語などには和語もたくさん出てきます。
中学入試で出題されるレベルの文章を読みこなすために、ある程度の和語を覚えましょう。
国語の教材の中には、「入試頻出の和語」といったものが掲載されていますので、そういったものを、意味・用法を含めて優先的に覚えていくとともに、問題演習で触れた文章で使われている和語にチェックを入れるなど、知らない言葉を減らす意識を常に持っておくようにするとよいでしょう。
※これだけは覚えておきたい和語10選
「あんのじょう」
「いつくしむ」
「うしろめたい」
「おもむろ」
「けげん」
「ためらう」
「にわかに」
「ねぎらう」
「ねたむ」
「もどかしい」(50音順)
選んだものの多くは「心情を直接表す言葉」として使えます。心情表現の訓練の一環としてこなしていくとより効率的な学習につながります。
(例)『十四歳日和』の場合
p.48より
そんなふうに、しおりに話しかけた私に、あんのじょう、朱里はぎょっとしたような目を向けた。なんで? 葉ってば、何言っちゃってんの――? あからさまに向けられた困惑と非難のまなざしがぴりぴりと肌に突き刺さって、息が止まりそうだった。