小1で国家試験「危険物取扱者」合格! コロナ禍をプラスにした父娘の勉強法とは?

奥津 圭介

写真提供:岡本章宏さん

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新型コロナウイルスの感染拡大により、二度目の緊急事態宣言が発出された2021年1月。コロナ禍で家にこもりがちな子どもたちを机に向かわせる難しさに、悩んでいる方々も多いはずです。

そんななか、コロナ禍を利用して子どもの成功体験に繋げたという、素敵な話題が広がっています。岡山県倉敷市赤崎小学校1年生の岡本咲耶さんが、2020年7月に国家試験「危険物取扱者試験丙種」、11月「危険物取扱者乙種第4類」に最年少合格したそうです。この快挙には消防士であるお父さんの助力が大きかったとか。父と娘、二人三脚の合格体験記から、子どもに対する勉強指導法のヒントを探ります。

コロナ禍を利用して子どもの成功体験に繋げた

「コロナ禍による子どもの在宅時間がなかったら、おそらく受験はさせなかったと思います」。

こう語るのは、小1で国家試験「危険物取扱者試験」の「丙種」と「乙種第4類」に合格した岡本咲耶さんの父親、岡本章宏さん。
消防士である章宏さんが、自身の異動をきっかけに危険物取扱者試験の受験を決めたのは2020年3月のこと。その姿がクイズ感覚で楽しそうだったようで、咲耶さんが自ら「やってみたい」と言い出しました。

「受験資格に年齢制限がないのは、もともと知っていました。ネットで最年少合格者を調べてみると、小学校2~3年生が合格して他県の地方新聞に出ているのを見つけ、それならなんとかなるかなと」(章宏さん)。

危険物取扱者試験は、子どもが取得しても特に役立つ内容の資格ではありません。それでも章宏さんは「興味があるなら、勉強するのはいいことだろう」と考えたそうです。ただし、コロナ禍という背景がなかったら「一緒に受験しよう」とまでは考えなかったと言います。

「当時は1回目の緊急事態宣言下で、子どもたちも分散登校になり、通学は1日おきでした。子どもにある程度の勉強時間が取れないと、合格は難しいですからね。多くの資格は仮に落ちたとしても、そこまでの過程や得た知識に意味があるものです。でも今回の場合、勉強内容自体は、特に子どものためにはなりません。

あくまでも合格を成功体験として、自信につながらなければ意味はない。ダメ元ではなく合格が望める環境じゃないと、挑戦させていなかったと思います」(章宏さん)。

ZOOM取材にて
消防士であるお父さんの岡本章宏さんと、小1の咲耶さん

子ども目線でやる気が出る目標を探してあげる

同試験の科目には「物理化学」や「法令」などもあり、本来ならば小学校1年生が学べるレベルではありません。単に子どもの「クイズ感覚で面白そう」というレベルでは、モチベーションを維持することは難しいものです。

そこで章宏さんは、ネットで過去の最年少合格者を調べたら2年生だったと咲耶さんに伝え、「合格したら新聞に載って、みんなからスゴイと言われるよ」と教えてあげたといいます。

「子どもの場合『新聞に載りたい』とか『ほめられたい』というのが、大きなモチベーションになる。咲耶にとっても『1年生のうちに合格すれば、きっと新聞に載るよ』というのが大きかったはずです。それこそ日々の宿題に関しても『宿題は当然、やらならくちゃいけないもの』という親目線を押し付けるより、『がんばればいろんな人からスゴイと言ってもらえる』など、子ども目線でやる気が出るような目標を探してあげることが大切なのでは、と思います」(章宏さん)。

実際に、10月の試験で「乙種4類」に合格した咲耶さんは、自分が使っていた参考書『コミック乙4合格物語』の新版(2021年2月刊行予定)にも「最年少合格者」として名前が載るとか。あくまでも子ども目線で「やる気が出る理由」を探してあげて、それがないようなら無理強いはしない。これは大切なポイントに思えます。

写真提供:岡本章宏さん
緊急事態宣言下につき、咲耶さんの通学が1日おきに。その時間をうまく利用して、親子での合格までたどり着いた。

親子の信頼関係を作り、クイズ形式で楽しく勉強

試験勉強を始めたのは、咲耶さんの小学校入学の直前の3月くらい。まずは前述のマンガ参考書『コミック乙4合格物語』を「読んでおいて」と渡してみたものの、それではなかなか勉強が進まなかったといいます。

「本を読むのは大好きな子でしたが、さすがに参考書を渡すだけでは勉強は進まなかった。そこで朝、出勤前に『このページを読んで、ノートに〇や×をつけておいて』と伝えて、帰ってきたらそれをチェック。
合っていても間違っていても取り組んでいることをほめて、理解度をみてから明日の内容を考える、というように、直近の目標だけを伝える形にしました。そのほうが長期的なノルマを立てるよりも、本人も負担にならなかったようです」(章宏さん)。

約3ヵ月の間、平日は30分、週末は1時間程度、一緒に勉強したという章宏さん。その際に気をつけていたことのひとつは「特に記憶科目はクイズ形式で、楽しみながら覚えてもらうこと」。

「たとえばお風呂で、娘と二人でその日に覚えた内容を、クイズで出し合ったりしていましたね。また、子どもができないときも『どうしてできないの?』みたいな責めるような口調は避けて、私自身で『どうサポートすればできるようになるかな』と考えるようにしました」(章宏さん)。

また、子どもと競い合って問題を解くときには、子ども相手だからといって手を抜かず、圧倒的な差をちゃんと見せるようにもしていたと言います。

「負けず嫌いな子なので、同じ問題を一緒にやってみるのは、けっこう効果的でした。そのときは『パパはすごいだろ』と、ちゃんと見せてあげよう、と(笑)。というのも、この試験は各科目6割を取れれば合格なので、たとえば『物理化学』の難問などは捨ててもOKです。
子どもには明らかにわからないような計算問題はいったん無視。ちょっと頑張ったら解けるような問題は、似たような問題をいくつか作ってあげて、何度も繰り返し解かせるなど、段階を追って取り組ませるようにしました。そんなときに、親の実力に信頼感がなければ、指導もうまくいきませんからね」(章宏さん)

最終的には咲耶さんも、「丙種」試験での間違いは1問のみ。「乙種第4類」試験は約8割正解で合格したとのこと。段階を追って勉強を進めていけば、始めた当初には手も付けられなかったような問題でもマスターできるようになる、という良き例と言えそうです。

写真提供:岡本章宏さん
咲耶さんが勉強した参考書『乙4合格物語』。「マンガの漢字にルビがあり、ストーリーもしっかりしているので子どもでも読みやすく、問題集も充実しているので非常に役に立ちました」と、章宏さん

「本好きの子ども」は勉強を楽しめると思う

咲耶さん本人も、約3ヵ月の勉強期間に「もうやめたい」などと思うことは、特になかったと力強く言います

「参考書の後ろのほうにあった練習問題は、難しかったし、たくさんあったから大変だった。でも、もともと小学校に入ったらいろんな勉強をしたかったから、イヤになることはなかった」(咲耶さん)。

咲耶さんは小1ながら、試験の問題文は理解できる程度に漢字を読むことができ、九九を使った簡単な計算もすでにできるとか。幼稚園の年少のころには、図書館で自分のカードと母親のカードの上限まで本を借り、読み漁っているような子どもだったそうです。大流行した『鬼滅の刃』も、漫画ではなくノベライズを好んで読むというのだから、その本好き度はかなりのものです。

どうやら咲耶さんが勉強好きな理由は、本好きであることが大きく関係しているよう。ではどうすれば、そんな本好きの子どもに育つのか。章宏さんの話では、咲耶さんが0歳のころから本の読み聞かせは始めており、文字が読めるようになると絵本などを一人で次々と読んでいったそうです。

「読んだ本の数を生きてきた日数で割ったら、おそらく人類でもかなり上位なんじゃないかと思うくらい、本好きな子に育ちました(笑)。咲耶にとっては小学校に上がってすぐの、ひらがなを書かされたり、数字を書いたり足し算引き算、みたいな勉強は、手ごたえがなくてつまらなかったんじゃないかな。今回の試験勉強のようなちょっと難しいことのほうが、刺激があったのじゃないかと思います」(章宏さん)。

そんな咲耶さんなので、普段の学校の宿題も、特に口うるさく言わなくともサッと済ませて、そのあとでやりたいことをやっているとのこと。

「我が家はやることさえやっていれば『ゲームは1日2時間まで』『ネット動画は1時間』みたいな口うるさいことは、一切言わないようにしています。ほかにもピアノやヒップホップダンス、ジャズダンスなど、子どもがやりたいと言ったことはやらせています」(章宏さん)。

写真提供:岡本章宏さん
咲耶さんが今、好きな本たち。『黒魔女さんが通る‼』、『鬼滅の刃ノベライズ』ほか

口うるさく「勉強しろ」「宿題しろ」と言うよりも、子どもに「これさえやれば、あとは好きなことができる」と学習・認識してもらう。さらに、子どもとの信頼関係を築いたうえで、「勉強すると、こんないいことがあるよ」という子ども目線でのモチベーションを探して与え、クイズに興じるテンションで子どもと一緒になって勉強する。接し方や口調次第で、子どもの勉強に向かう姿勢は、変わってくるのかもしれません。

最後に、年齢制限のない国家資格と、その最年少合格記録を紹介しておきます。おうち時間が増えた今をチャンスと考え、子どもとお父さん、お母さんも一緒に挑戦してみるのも、楽しいかもしれません。
※最年少合格者の情報は編集部調べです。

・宅地建物取引士……最年少は12歳

・英語検定試験……5,4級の最年少合格者は3歳、3級、準2級は4歳、2級は5歳、1級は9歳

・漢字検定……1級は6歳

・測量士・測量士補……最年少は14歳

・気象予報士……最年少は11歳11ヵ月

・電気工事士……第二種が8歳、第1種が10歳

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おくつ けいすけ

奥津 圭介

編集者・ライター

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。 近著に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』。編集担当に『みんなのあるあるプロ野球』シリーズほか。『マンガでわかるビジネス統計超入門』(シナリオ担当)が2021年1月発売。

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。 近著に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』。編集担当に『みんなのあるあるプロ野球』シリーズほか。『マンガでわかるビジネス統計超入門』(シナリオ担当)が2021年1月発売。