中流家庭からプチセレブ一家へ嫁いだライター・華子。愛娘は自分と同じ普通コースで育てようと思っていたものの、義母の一言から、小学校受験への道が始まりました。
まったく未知だった東京のお受験は、庶民にはわからないことだらけ! 受験マニュアルには決して書かれていない(書けない)、お受験の赤裸々な裏話をお伝えします。
第10回は「お受験本番」です。
お受験を子どもに気づかせないことが理想
秋も深まると「お受験本番」です。都内で本命校とされるような名門私立小学校の試験日は、毎年だいたい11月1日から短期間に密集してあります。
それゆえ、希望校の試験日時が全て重なり「1校しか受験できない」ということや、1日の午前中がいきなり本命校という「ぶっつけ本番試験」の場合も出てきます。
10月から始まる首都圏の私立小学校を併願する家庭もありますが、たいていは幼児の体力や集中力を考えて11月からの都内の名門私立小学校(本命校群)に的を絞って受験し、私立小学校の試験結果が出揃った状況次第で、事前にエントリーしておいた12月の国立小学校受験の有無を判断するという場合がほとんどのようです。
だから、本命校の出願を終え、試験日時が判明するまでの間の期間は、腹をくくって運を天にまかせ、粛々と日々を過ごしている親たちが意外と多いのです。
これまで鬼気迫る般若のような形相だったママたちのお顔も一転、ここまでくると半眼で微笑をたたえる菩薩のような表情に変わってきます。それはお受験地獄の苦行である「焦り」を突き抜け、「あきらめの境地」という達観した悟りに至ったからでしょう。
長く過酷だった受験生活。これまでやってきたことが、ちゃんと身についているんだか、身についていないんだか……はナゾ。
小学校受験は偏差値が出ないので知る術もない。ただ、迫りくる決戦の日を前に、相変わらず牧歌的な雰囲気の我が子がいるのみ……。
でも、いいんです、それで。だってそれは、私たち親や先生など、周りの大人が、本人の個性を殺すことなく、実にうまく過酷なお受験期間を導いてきた成果なのだから。
我が子が“牧歌的な雰囲気”のままなのは当たり前です。むしろ、幼児特有のそれが残っていることこそ成功の証し。
なので、この期に及んで新しいことを詰め込むより、毎年必ず出る問題を外さない、出題頻度が低いのに難度がやたら高い問題は捨てるなど、無駄を削ぎ落とし、やることを最小限にして本番までの1ヵ月間は穏やかに過ごしていけば良いのです。
そして、幼稚園のお友達と公園でいっぱい遊ぶ。受験も近いけど、卒園もすぐそこですから。
そもそも、お受験界で“上手に仕上がっている”といわれるような利発で生き生きした子は、周囲の大人が不要なプレッシャーを与えないよう気づかってきたため、自分が受験生であることに気付いていない子が多い。
だから、日に日に迫りくる「集大成の日」に重圧を感じ緊張しているのは周りの大人たちだけで、当人にとっては全くあずかり知らぬことだったりするのです。
「ほわぁ〜最近お外遊びが増えたなぁ〜」くらいなもんです。実際、私の娘も、いやホント驚くことに、毎日起床から就寝まで“受験勉強”状態だったにも関わらず、本人にとっては「いたって普通の日常」という感覚だったのです。これは物心ついた時から、ずっとそのような生活を続けてきたからこそなのでしょう。
お手紙作戦を成功させる大切なポイント
ならば、どうやって、その「無自覚な受験生」を本番で最高のパフォーマンスが発揮できるよう導くのか?
いくら子どもらしい自然体が好まれるといっても、家でくつろいでいる時のような「リアルに気の抜けた姿」で試験に挑むのはアウトでしょう。それでは苦労してコツコツと植え付けてきた「品格」や「利発オーラ」の意味がありません。
本番では、いかにナチュラルにパリッ! とさせるかが勝負。そのためには、ある程度の「緊張感」というか「よそいき感」は大切です。
そのためのワザは、通っていた個人教室の熟練した先生が教えてくれました。それは、“小学校からのお手紙”を渡す、という方法です。サンタさんからのプレゼントのように、子どもが寝静まった後に親がコッソリ「小学校への招待状」を書くのです。
それを、試験前日〜当日朝という、できるだけ直近に披露する。なぜなら、子どもはすぐに忘れるから。
もちろん子ども向けですから、今回ばかりは「鳩居堂の便箋」ではありません。私はできるだけ娘のテンションが上がるように、飛び出すタイプのハデな立体式のメッセージカードを用意しました。内容は各家庭それぞれですが、私のカードの中身は以下のとおり。
① 一番上に大きな文字で「しょうたいじょう」と書く。
② 次に「あなたがとてもよいこだときいたので、とくべつに◯月×日、△□小学校にごしょうたいします。はりきってきてください」と続ける。
「とくべつに」と強調して、ちょっぴり“スペシャル感”を出してはいても、ここまでは割と普通の招待状です。このまま終わらせてしまうと勘違いして、とくべつに〜はりきって→はっちゃけてしまう、ということになるかもしれないので、少々、ピリッとスパイスを効かせることが大切です。そのためには、
③ 「3つのおやくそく」
を加えるのが重要です。ここで注意しなくてはならないのが「欲張っていくつも約束ごとを書いてはダメ」ということです。何といっても相手は幼児ですから、緊張と興奮が交差する場で、そんなにたくさんの「お約束」を覚えてはいられないのです。
だから、ここでは、数多くある言いたいことの中から、厳選に厳選を重ね3つにしぼり、極めて重要な、これだけは絶対に外せない、という注意点だけを一筆入魂、全身全霊を込めて書く。
例えば、
【1】おおきなこえではっきりとごあいさつします。
【2】せんせいのおはなしをきちんとききます。
【3】おともだちとなかよくします。
です。ガクッと肩透かしをくらったような、とても熟考を重ねたと思えないような基本的な内容に感じますが、これが、
【1】は恥ずかしがり屋でおとなしい子の必須条項
【2】は落ち着きなく動く、人の話を聞かない、もしくは聞いてもすぐ忘れてしまう――など、幼児にありがちな多動行為に注意を促す言葉
【3】はつい夢中になって我を忘れてしまう子や、他者との距離感が近めな子、遠めな子、双方に効果的
など、これが突き詰めていくと、シンプルだけどもっとも大切なことだったりするのです。
これらをカラフルなペンで魅せ、最後に学校名(試験官に質問されたときに間違えて併願校の名前を言わないように、しっかりと学校名をアピールしておくことが大切)を大きくハッキリと記す。
そして、翌朝、さも今届いたかのように、ポストからそのカードの入った封筒を取り出してみせるのです。それを×(かける)受験校分。毎回、オーバーリアクションで
「うわぁ〜!今日は〇〇小学校(ここでも学校名を強調)からご招待状が届いたわよ〜!きっと、この家に良い子がいるって、この辺りの小学校の評判になっているのね〜」などと気分を盛り上げ、自信を持たせる。そして
「せっかく“特別ご招待”を受けたのだから、先生たちの期待に添えるようステキにしなきゃね。だって、この日のためにずーっと頑張ってきたもんね」などと、“今日こそ、これまでやってきたことを余すところなく存分に披露する日”であるということを、さりげなく、しかし、キッチリと意識させるべく伝えるのです。
かくして娘は、意気揚々と試験会場に向かい、持てる力を存分に試験で発揮することができたのです。