【絵本制作大詰め】「入稿まで一筋縄ではいかないよの巻」コロナにも負けず、夏の暑さにも負けず、担当編集者の無茶振りにも負けず……

第44回講談社絵本新人賞受賞作家 みやもとかずあきの制作日記⑤(4コマ漫画つき)

作家:みやもと かずあき

制作日記 第5回

↑あおくんふくちゃん昔話シリーズで、ふくちゃんがまさかのおばあちゃんに!
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『ぐりとぐら』のとなりにぼくの絵本が…!

あけましておめでとうございます。

昨年(2024年)12月に発売になった『あおくんふくちゃん』。

年末年始は地元・和歌山県の書店さんを訪ねて、『あおくんふくちゃん』のご案内とお店に置いてくれますようお願いにまわりました。

大阪に行く用事もあったので、阿倍野と梅田の大きな書店さんにもご挨拶にまわりました。

大阪の大きな書店さんはどこも『あおくんふくちゃん』を置いてくれていました。とてもありがたいと思います。

とある絵本売り場担当者の方が「この本売れていますよ」と言ってくれて嬉しかったです。

そして、ぼくの絵本が『ぐりとぐら』のとなりに置かれていたのを見たときは感慨深いものがありました。

さてさて、制作日記第5回をはじめます。
↑昨年編集部の年賀状として描いたものを、ぼくも今年配りました。去年描いたので、へびではなく龍です。

担当編集者からの無茶ぶり!?

あれは2023年12月、初めてのリモート打ち合わせのときのことでした。

打ち合わせも終盤にかかったころ、担当編集者の福の神が
「制作日記も書いてもらいますから考えておいてくださいね。制作日記用に4コマ漫画を描いてみませんか。
制作日記は4コマ漫画があると読んでもらいやすいと思うのです」
と提案してくれたのです。

ラフの描き直しと制作日記だけでも忙しそうなのに、4コマ漫画も描くとなると、どうなるの?

第一、4コマ漫画なんか描いたことないし。

でもこれは試されているのかも。

ルーク・スカイウォーカーがヨーダの元でジェダイの修行をするように。

ここで、できませんと言ったらジェダイの騎士に成りそこねる。

いや、絵本作家に成りそこねる。

「4コマ漫画やります」
と口が勝手に動いていました。

ようし、やってやろうじゃないか。

さっそく、図書館で4コマ漫画を借りてきて読んでみることにしました。

数冊目を通したあと、とりあえず4コマ漫画を描くのは横に置いておいて、まずは絵本のラフから始めようと取りかかった矢先に思わぬ刺客に襲われます。

39度の高熱が続き、倦怠感が半端なく、10日間は何もできませんでした。

不覚にもコロナにかかったのでした。

何もできませんが布団の中で考えていました、4コマ漫画を。

しんどかったけど、不思議と話ができてきました。

けっきょく、コロナのおかげで6話の4コマ漫画のアイデアを出すことができました。

ここで、アイデアが出てくるときってどんな感じか考えてみました。ガチで出そうと思っても、なかなか出てこないものです。

出そうという気持ちは大切ですが、ぼんやりというか、ゆる~い感じでいるときのほうがアイデアは降りてくる場合が多いように思います。

あくまでぼくの場合ですが。

ちなみに4コマ漫画はこの制作日記だけでなく、『あおくんふくちゃん』の見返し部分にも8話載っています。

少し内容が変わっていたり、ここにはないお話もあるので、ぜひ読んでみてください。

閑話休題。雪の日のお話。

ぼくの住んでいる和歌山県は、本州の最南端にある、温暖で有田みかんの産地としても有名です。

寒波が来ると山奥はときどき銀世界になります。

絵本では雪の場面もいくつかあるので、取材を兼ねて出かけました。

到着した護摩壇山は和歌山県最高峰で、その時の気温が氷点下-8度。しかも吹雪いてるので、立っているのがやっとです。

スケッチブックを持っていってましたが、絵を描くのは諦めて、雪景色をしっかり目に焼き付けて帰ることにしました。

本当のところ、ぼくは雪が降ると居ても立っても居られず、スノードライブに出かけてしまうのです。

子どもです。

主人公のあおくんが雪の中をかけていく場面があります。

雪を見に行ったことが役立っているか、これは本を手にとってご確認ください。

本絵、『あおくんふくちゃん』の場合


ラフも決まり(ラフが決まるまでのすったもんだは第4回をごらんください)、次は本絵を描くことになります。この作業はとても楽しいです。

大げさかもしれませんが絵に命を吹き込む作業ですから、1枚描き終えるごとに喜びを感じます。

今回は、絵手紙によく使われる顔彩を使って描きました。

顔彩を使った理由は時代設定が昭和で、和テイストのお話でもありますので、和に寄せた画材ということで選びました。

画用紙は最初に黄土色を薄く水でのばして塗りました。

全体が淡い黄色になった画用紙に絵を描いていきます。そうすることで暖かみのある絵にしようと思ったのです。

また後半で寂しい印象にならないように、色使いに気をつけて描いたので応募作品と比べると鮮やかな印象になっています。

ちなみにキャラクターの輪郭線も福の神のふくちゃんは黒でとらず、ネオピンクでアウトラインをとってます。

なぜネオピンクにしたのか?

これは直感です。

ネオピンクのアウトラインにすることで、優しい雰囲気とポジティブな印象を醸し出せると思ったからです。

2024年の夏はこの世に生を受けて60年、史上最高に暑い夏でした。

ときどき、みかん畑にも作業しに出かけますので、さすがに夏バテしてきました。

病院で点滴してもらい、アリナミン錠、そしてアイスクリームでチャージしながら、本絵を描ききりました。

できた本絵を講談社に送ったときは、まさに「ヤッター」って感じです。

暑い季節の打ち上げはやっぱり冷たいビール!

良い塩梅です。

ま、ま、まさか、描き直しの指令!?

さてさて、本絵も送って、絵を描くのはひととおり終わったなと思っていた矢先、担当編集者の福の神から突然の電話。何か急を要すること?

受話器の向こうからやばそうな雰囲気がただよっています。

ひょっとして描き直し?!

頭をよぎりました。

ここまできて描き直しはちょっときついです。

「走っている場面がいくつかありますが、どれも手と足が揃っています。わざとですか?」

「わざとです。ナンバ歩きです。手の振りと足が交互に出る現在の歩き方は明治以降、西洋から伝わった歩き方、江戸時代は手と足が同時に出るナンバ歩きをしていました。今でもお相撲さんが押し出しのときに使っています」

と答えると、
「わかりました」
と担当編集者の福の神。

おっ! 今回はすんなりと、何もないんや!

余談ですが、ナンバ歩きで歩くと、普段の歩きより素早く歩くことができます。しかも疲れにくい歩き方のように思います。

ご興味ある方は試してみてください。

鬼のあおくんや福の神のふくちゃんの歩き方体験ができます。

ではではまた次回。次回で最終回(の予定)です!

原画展のお知らせ!

最後にもうひとつ! 告知をさせてください。

2025年2月16日まで、未来屋書店川口店さん みらいやの森 ギャラリースペースにて、
『あおくんふくちゃん』絵本原画展が開催中です。

お近くにお越しの際はぜひ、見ていただけたら嬉しいです!
↑見てください、こんなに立派にしていただいて。未来屋書店川口店さん、本当にありがとうございます!(写真提供:未来屋書店川口店さん)
↑『あおくんふくちゃん』発売中! 鬼と福の神がハイタッチしている表紙が目印です。めくると4コマ漫画もついてますよ!
↑安心してください、ふくちゃんは健在です!

講談社絵本新人賞 受賞作既刊

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みやもと かずあき

Kazuaki Miyamoto
絵本作家

和歌山県生まれ。第44回講談社絵本新人賞受賞。絵本作家を目指して30年、60歳にして、ついに本作で念願のデビューを果たす。 男の子と女の子の双子育児の傍ら、「講談社フェーマススクールズ」「神戸ギャラリーヴィー絵話塾」で絵本制作を学んだ。受賞歴として第38回日産童話と絵本のグランプリ絵本の部優秀賞、第3回安城市新美南吉絵本大賞入賞など。 現在は、地元でベビー子ども服店を営みながら、みかんや野菜を少々作っている。

和歌山県生まれ。第44回講談社絵本新人賞受賞。絵本作家を目指して30年、60歳にして、ついに本作で念願のデビューを果たす。 男の子と女の子の双子育児の傍ら、「講談社フェーマススクールズ」「神戸ギャラリーヴィー絵話塾」で絵本制作を学んだ。受賞歴として第38回日産童話と絵本のグランプリ絵本の部優秀賞、第3回安城市新美南吉絵本大賞入賞など。 現在は、地元でベビー子ども服店を営みながら、みかんや野菜を少々作っている。