ボローニャ国際絵本原画展入選から絵本作家デビューへの道!

絵本作家を目指す方必読! 話題のかわいいオノマトペ絵本『ぽとん ケーキ ぱくっ』の作者・オオノ・マユミさんが、ボローニャ国際絵本原画展入選を経て、夢の絵本作家になるまで

▲テキスタイルにもなった、はじけるようにかわいらしい絵本『ぽとん ケーキ ぱくっ』。布地は、nunocoto fabricにてオンライン販売中。
写真提供/オオノ・マユミ
毎年、春になると、イタリアの古都・ボローニャで、児童書専門のブックフェア「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」が開かれます。そのなかの重要なイベントのひとつが、「ボローニャ国際絵本原画展」という絵本原画のコンクール。世界中のイラストレーターが絵本作家を目指し、しのぎを削って入選を目指しています。

近年、この「ボローニャ国際絵本原画展」に入選したのち、海外で絵本作家デビューする日本人が増えています。そのひとり、オオノ・マユミさんは、2017年、「ボローニャ国際絵本原画展」ノンフィクション部門に入選を機に、イタリア・スペインで絵本を刊行しました。海外での絵本創作を経験したオオノさんが、このたび初めて日本で絵本『ぽとん ケーキ ぱくっ』を刊行。日本デビューまでの足跡をたどります。

子ども時代

ひとり遊びも、みんなで遊ぶことも、どちらも好きな子どもでした。

父が印刷会社に勤めていたので、ヤレ紙(印刷の過程で出てくる製品としては使えない紙)の束が家にたくさんありました。いくらでも絵を描けるという環境だったこともあり、絵を描くのは大好きでした。幼稚園のとき、父の製図道具箱を開けるのが好きで、雲形定規、烏口、Gペン、丸ペン、溝引きなどを見よう見まねで使っていたのも覚えています。

当時、印刷の展示会で、大きなポスターなどの印刷物を見たりするなど、父の印刷の仕事に触れていたのが自分のルーツになっていると思います。人の目を見て話せないようなシャイな子でしたが、手芸をしたり、お菓子をつくったり、水泳やソフトボールをしたり、本を読んだり、いろいろなことをしながらも、絵を描いて、人に「伝える」ことは大好きだったと思います。
▲オオノ・マユミさんの現在のアトリエ。
写真提供/オオノ・マユミ

イラストレーターの道へ

小学生のとき、「絵を描くこと」に、自分の居場所を見いだしていました。壁新聞を作ったり、運動会のポスターを描いたりして、絵を描くことだけは飽きなかったと思います。その延長なのか、しぜんと絵を描く仕事をしたいと思うようになりました。

高校は美術の授業が8時間ある普通科でした。出版社でアルバイトするようになり、雑誌にイラストカットを描く仕事を得ました。その後は、働きながらセツ・モードセミナーに通い、その合間を縫って、出版社に作品を持ち込みました。今ふりかえると、社会と自分との接点、居場所を探して、絵を描きたいという気持ちが強くありました。フリーのイラストレーターになったのは、24歳です。
▲2005年に、学芸大学の「tray」で催した個展「オオノ文具店」。雑誌や書籍の装画、広告のイラストレーション制作に打ち込みながら、自分の興味があるモチーフで絵を描き発表していた。
写真提供/オオノ・マユミ
▲2006年に制作したバラのピンバッジ。抽象化させて模様のように描いた絵柄が好評で、仕事とははなれて、気負いなくのびのびと描くことができていた。
写真提供/オオノ・マユミ

ボローニャ国際絵本原画展に応募

イラストレーターとして、長年、仕事を続け、40歳のときに転機がありました。それまで、大人向けの媒体にイラストを描くことが多く、ふと、子ども向けの仕事をしていないことに気づいたのです。

2015年、板橋区立美術館で、「イエラ・マリ展」と「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」を見て、ざわざわどきどきとした心地になりました。とくに、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」に展示されていた80人弱の作家の作品は、楽しくいきいきとしていて衝撃を感じました。彼らの作品を眺めていたら、これまで接点のなかった絵本というものが、じつは子どものためというだけではなく、自分にとってもたいせつなものだと感じ、「絵本をやってみたい」と思ったのです。自分の内側から絵を描きたいと思い、板橋区立美術館の壁に展示されるような作家になりたいと思いました。

絵本作家になるために

すぐさま、その年(2015年)の夏、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」の関連イベントとして行われていた、5日間の絵本づくりのワークショップに参加しました。講師は、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」の審査員をつとめていたベルギー人のクラース・フェルプランケさん。子どものころは、絵本を読みきかせされたりするなどの体験は少なかったのですが、このワークショップに参加して、一気に絵本が近くなりました。

翌年(2016年)も、絵本づくりのワークショップに参加しました。講師は、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」審査員のご経験がある三浦太郎さん。三浦さんには、絵本の「コンセプト」を考えることを教えていただき、絵本づくりの入り口を広げていただきました。「これからは絵本づくりに時間をつかおう」と決意しました。
▲オオノさんが絵本づくりの入り口を広げてもらったという三浦太郎さんの赤ちゃん絵本『よしよし』(講談社)​​

私らしい作品とは

ワークショップ参加後、その年も「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」に出向いたり、ボローニャ・ラガッツィ賞の受賞作を数々読みあさったりしました。当時、私にとって絵本は未知のもので、世界にはどんな絵本があるのだろうと、わくわくしっぱなしで夢中でした。

「私らしい作品ってなんだろう」「自分らしいもの作ろう」と考えているうちに湧きあがってきたのは、「模様」「文様」です。「ボローニャ国際絵本原画展」への応募は5枚1組なのですが、「模様」で構成できたらと考えたのです。ひとがどんな服を着ているか、どんな服を着ていたら楽しいかということを考えながら、画面の大部分に洋服の柄を描き、あわせてその洋服を着ている人を描きました。その作品を「ノンフィクション」のジャンルで応募しました。

ボローニャ国際絵本原画展入選!

2016年秋に応募し、2017年に発表がありました。ウェブ上の発表サイトで、自分の入選を知ったときは、信じられない気持ちでした。初の応募でのまさかの入選でした。

ちなみに、板橋区立美術館のワークショップで、三浦太郎さんに私の作品についてコメントをもらう機会があったのですが、そのとき三浦さんには、フィンランド旅行から着想を得て描いた洋服の柄の絵をほめていただきました。三浦さんにほめていただいたことも、「洋服の柄」で応募しようということにつながったと思います。

この入選を機に、よし、絵本作家になるためにがんばろうと思い、ボローニャ・ブックフェアの会場で行われる授賞式に赴くことにしました。絵本づくりのワークショップでお世話なった板橋区立美術館の方々が、ブックフェアをどう歩くとよいのかを教えてくれました。海外の出版社へ持ち込むための、作品のポートフォリオも用意しました。
▲「ボローニャ国際絵本原画展」ノンフィクション部門でみごと入選した、オオノ・マユミさんの「模様」をモチーフにした色も形もリズミカルな応募作。
写真提供/オオノ・マユミ

ボローニャ・ブックフェア会場で

ところが、入選した年は、海外の出版社のアポが取れず、厳しい状況でした。帰国して取りかかったのは、翌年のための準備です。一枚絵を見せるだけでは反応がいまいちだという実感があったため、ダミー絵本をつくることにしました。

さらには、ブックフェアの出展社リストをたどって、海外の出版社の傾向も研究しました。世界各国の絵本を展示する「世界の絵本展」などにも足を運んでいるうちに、自分は、スペイン、ポルトガル、イタリア、フランス、アルゼンチンの絵本が好きなことに気づきました。

翌2018年は、ブックフェアの前に、お目当ての出版社にアポをとってから、ボローニャへ向かいました。この年のブックフェアではよい出会いがありました。イタリアの出版社で、日本人の絵本を数多く翻訳出版しているkira kira edizioniです。用意していたダミー絵本を見せたところ、とても気に入ってくれて、話が進みました。絵本の出版社が望んでいるのは、「イラストレーション」ではなく「絵本」なのだということに気づいたのでした。
▲2019年、ボローニャ・ブックフェア会場で。
写真提供/オオノ・マユミ
入選した年から3年続けてボローニャ・ブックフェアに参加したことになります。3年目、イタリアのkira kira edizioni、スペインのZahorí Booksから絵本が刊行されることが決まりました。海外出版社から装画や挿絵の依頼もいただきましたが、これもやはり、ブックフェアでの出会いに始まるところが大きかったと思います。

日本で絵本を刊行する前に、海外での出版が先に決まったのでした。
▲2021年にイタリアで刊行された『Il mio posto preferito』(kira kira edizioni)
写真提供/オオノ・マユミ

海外の出版社とのコミュニケーション

海外の出版社と仕事をする場合、英語をつかわなければなりません。メールのやりとりでは翻訳ソフトを使ったり、こみ入った内容の場合は翻訳の方を頼んだりもしました。イタリアの編集者もスペインの編集者も、私といっしょに仕事をしようと思ってくれる人なので、つとめて理解しようとしてくれます。

ちなみにボローニャ・ブックフェア会場では、細かなコミュニケーションも必要になるため、英語・イタリア語ができる通訳の方をお願いしました。ただ絵本の場合、「絵」がありますから、ある程度、意図は伝わります。海外の仕事をして、「絵は言葉の壁をこえる」ということも実感しました。

そうそう、海外の出版社は、作風を気に入ってくれると、作家を信頼し、ほぼ自由に作らせてくれる傾向があります。私が何がしたいのかをそのまま受け入れてくれるような感じです。一方、日本での仕事は、いっしょに作りあげていく感じがあります。
▲2021~2022年にスペインで刊行された『Mi pequeña restaurante』『Mi pequeña jardin』『Mi pequeña pasteleria』『Mi pequeño taller de moda』(Zahori Books)

初の日本での絵本『ぽとん ケーキ ぱくっ』

当初、自分のシンプルな絵でどんな絵本をつくれるだろうかと考えました。自分の得意技はなんだろうと考えたのです。

探し続けていたときに、自分のシンプルな絵と、オノマトペ(擬音語・擬態語)の音が出会うと、楽しさが生まれるように感じました。もともと私は、「音」が好きで「音」に執着があることに気づいたのです。「発語」「発音」が楽しい絵本を作りたいと思いました。

題材は、みんなが好きな「食べ物」。もともと作る工程の絵を描くのが好きだったので、プリンができあがる絵本も考えたりしました。何枚もラフを描いていくうちに、いちばんわくわくすると感じたのが、ケーキの「クリーム」でした。子どもが読んでもらって楽しい絵本、大人が読んでも楽しい絵本を目指しました。
▲2008年に国分寺「つくし文具店」で開催した個展「おいしい文具展」では、ホイップクリームをパターン化したラッピングペーパーを展示していた。絵本『ぽとん ケーキ ぱくっ』の発想の元ともいえる。
写真提供/オオノ・マユミ
「ぽとん」という音でよいのかなど、オノマトペの音選びにはこだわりました。また、読んでいるときにページの滞留時間が長くなるように、絵には、ざらっとしたテクスチャーを出すようにしました。実際にたくさんケーキを観察して、絞り口金などの製菓道具やお菓子づくりの本もたくさん見て研究しました。ぜひ見ていただきたいのは、色です。実際の色はその色ではなかったとしても、ホイップの形状を表す線を黄色やピンクにするなど、楽しさを演出しました。

描いてはそのたびに、担当編集者と読み聞かせをし合い、「読む」「読んでもらう」をくりかえしました。自分が読み、また読んでもらうことで、新たに見えてくるものがあります。この「検証する」ということをくりかえしましたが、ケーキづくりと同様に、本づくりの工程もとても楽しかったです。
▲擬音語・擬態語とともにケーキができていく楽しい絵本『ぽとん ケーキ ぱくっ』より

絵本ができあがって

ケーキの絵本とはいえ、クリームばかりが出てくるめずらしい絵本ですよね。もともと「模様」「文様」の表現が好きだったことから、ケーキのホイップクリームを分解して見る目が生まれたのかもしれません。ありそうでなかった絵本ではないでしょうか。

もしかしたら、読み始めはクリームだとわからないかもしれないけれど、形がおもしろいとか、流れが楽しいとか、いっしょにホイップクリームを楽しんでほしいです。ホイップクリームがもつ形のおもしろさを、ぜひ音とともに楽しんでください。

今は、「ケーキができたー!」というのと同じように、「絵本ができたー!」という気持ちです。最後に、ケーキを食べる子どもが登場しますが、絵本づくりの最中はずっと、この子においしいケーキを食べさせたいと思いながら作っていたんですよ!
▲オオノ・マユミさんの日本発の絵本『ぽとん ケーキ ぱくっ』(講談社)

オオノ・マユミ

東京都生まれ。千葉県習志野市育ち。セツ・モードセミナー卒業。

出版社勤務後、フリーランスのイラストレーターに。2017年、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展ノンフィクション部門」入選。著書に、『誕生花で楽しむ、和の伝統色ブック』(パイ インターナショナル)、共著に、『くいしんぼうのマルチェロ ふしぎなエプロン』(作:大塚ミク 出版ワークス)などがある。

また海外での活躍もめざましく、イタリアで「Il mio posto preferito」(kira kira edizioni)、スペインで「Mi pequeña pastelería」「Mi pequeño taller de moda」(Zahorí Books)などの絵本を刊行している。日本での絵本デビュー作は『ぽとん ケーキ ぱくっ』。

オオノ・マユミ

Mayumi Oono
イラストレーター・絵本作家

東京都生まれ。千葉県習志野市育ち。セツ・モードセミナー卒業。 出版社勤務後、フリーランスのイラストレーターに。2017年、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展ノンフィクション部門」入選。著書に、『誕生花で楽しむ、和の伝統色ブック』(パイ インターナショナル)、共著に、『くいしんぼうのマルチェロ ふしぎなエプロン』(作:大塚ミク 出版ワークス)などがある。 また海外での活躍もめざましく、イタリアで「Il mio posto preferito」(kira kira edizioni)、スペインで「Mi pequeña pastelería」「Mi pequeño taller de moda」(Zahorí Books)などの絵本を刊行している。日本での絵本デビュー作は『ぽとん ケーキ ぱくっ』。

東京都生まれ。千葉県習志野市育ち。セツ・モードセミナー卒業。 出版社勤務後、フリーランスのイラストレーターに。2017年、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展ノンフィクション部門」入選。著書に、『誕生花で楽しむ、和の伝統色ブック』(パイ インターナショナル)、共著に、『くいしんぼうのマルチェロ ふしぎなエプロン』(作:大塚ミク 出版ワークス)などがある。 また海外での活躍もめざましく、イタリアで「Il mio posto preferito」(kira kira edizioni)、スペインで「Mi pequeña pastelería」「Mi pequeño taller de moda」(Zahorí Books)などの絵本を刊行している。日本での絵本デビュー作は『ぽとん ケーキ ぱくっ』。