2021.05.23

TBSが誇る朗読のプロ・堀井美香流「読み聞かせ術」とは

TBSアナウンサー・堀井美香さんインタビュー第2回

寄稿家:堀井美香

現役アナウンサーの堀井美香さんが語る読み聞かせ術とは?
写真:Paylessimages/イメージマート

堀井美香さんは、ナレーターとして活躍する一方で、TBSアナウンサーによる朗読会『A’LOUNGE(エーラウンジ)』のプロデュースを担当するなどして、朗読のプロとしても知られています。そんな人が行う「読み聞かせ」とはどんなものなのでしょう。プロのワザを盗みたい! と思いきや……。

「音読」と「朗読」の違いって何?

大学卒業後、アナウンサーとしてTBSに入社してナレーションを極め、さらに、朗読にも力を注いでいる堀井美香さん。
そんな自分の原点は、小学生の頃の音読経験にあると言いますが、そもそも「朗読」と「音読」は、何がどう違っているのでしょうか。

「音読は文章を声に出して読むことですから、朗読も広い意味では音読の中に含まれます。ただ、厳密には、両者には明らかな違いがあると思います。
例えば、ひとつの物語を読むとして、音読がそのストーリーを声に出して伝えていくことに対し、朗読はもう一歩踏み込んだものというか……。物語の本質を理解して、その精神性を伝えていくものとでも言えばいいでしょうか」

感情を込めて朗々と文章を読むのが朗読。聞いている人の心に響くためには、例えば腹式呼吸でしっかりと声を出すなど、それなりの技術が必要だと言われています。

「確かに、朗読には一定の技術が要ります。ただ、物語と一体化して〝伝えたい〟という思いも大事です。その意味では、朗読は読み手自身を投影するものであり、小手先の技術だけでは埋められないものでもある。それだけ朗読は奥が深いということです」

「〝読み聞かせ〟で何よりも大切なのは、〝同じ空間で一緒に楽しむ〟こと」と堀井さん。上手に読もうなどと気負う必要はないという。
ZOOM取材にて

読み手と聞き手が同じ空間で一緒に楽しむのが「読み聞かせ」

技術だけではカバーできない奥深い朗読の世界。それを極めた堀井さんは、ときに「読み聞かせ」の仕事に携わることもあります。
「そう言うと、読み聞かせに朗読のノウハウを生かしていると思われがちですが、私は、朗読と読み聞かせはまったく違うものだと考えています。
朗読は、〝こっちは考えたことを伝えるから、そっちも何かを想像して世界観をつくりあげてね〟というような、読み手と聞き手との対話みたいなものです。

一方、読み聞かせというのは、双方で何かをつくりあげるとか、そんなことではない。読み手と聞き手が同じ空間で一緒に楽しむ。これに尽きるのではないでしょうか」

同じ空間で一緒に楽しむ−−。その例として、堀井さんは、印象深い出来事を話してくれました。

「以前、TBSのサカス広場というところで、遊びに来てくれた子どもたちを前に絵本を読むということをやっていたんです。いわゆる〝読み聞かせ〟ですが、一度、すごく盛り上がったことがあって。

ひとりの子どもが私の言葉を真似して声に出したんです。すると、ふたり、3人、4人――と真似する子が増えていって、ついには、その場にいた子ども全員が、私が言葉を発するたびにオウム返しするようになって……。

はい、もう大騒ぎで収拾がつかなくなりました(笑)。でも、すごく面白かったです。読み聞かせというものは、それでいいんだと思います」

読み聞かせに〝読む技術〟は不要

堀井さんには、同期入社のご主人との間に、社会人一年目の長女と大学生の長男がいます。その子どもたちが幼いときには、夫婦ともに絵本などの読み聞かせをしていました。

「子どもたちは、夫の読み聞かせがいちばん好きでしたね。多分、夫は恥ずかしかったんだと思いますが、絵本を読もうとしなかったんです。
例えば、『桃太郎』の絵本を開いたら、〝桃、流れてきました〜。下手(しもて)からズドーン〟、〝はい、今度は上手(かみて)に行く〜〟みたいな、そんな読み方というか、勝手な語りというか……。
絵とはまったく違う言葉が出てきたり、いわゆる〝読み聞かせ〟ぽくない読み方だったりが、子どもたちにとっては新鮮で、嬉しくて仕方がなかったようなんです」
 
仕事ならいざ知らず、プライベートのシーンで、ご主人の読み聞かせが子どもたちに大ウケだったことを考えても、「読み聞かせに〝読む技術〟は不要なのでは」と堀井さん。

「上手に読もうなどと思わなくても、まったく構わないのではないでしょうか。大事なのは、一緒に楽しむということなんです」

堀井さんの著書『音読教室』では、名作『ごんぎつね』『蜘蛛の糸』『雨ニモマケズ』の具体的な読み方テクニックが細かく解説されていて、親子はもちろん、ご高齢の方やアナウンサーを目指す方にもおすすめだ。
ZOOM取材にて

ときには志村けんやバービー人形を登場させる工夫

子どもに読み聞かせるときには、「読み手の感情を入れ過ぎないほうがいい」などと言われたりもします。しかし、堀井さんは、「決まりのようなものにとらわれる必要はないと思う」とも。

「実際、私も、読み聞かせの仕事をしたとき、経験豊富な方から、〝子どもの想像力を邪魔しないよう、感情を入れずに平坦に読んであげてください〟とアドバイスを受けたことがあります。仕事のときは、そのことを心がけて読むようにしてきましたが、家ではぜんぜん……(笑)」

堀井さんは、自分の子どもたちには、感情をたっぷり入れ込み、さまざまな演出をして、「一緒に楽しむ」読み聞かせをしていたと言います。

「同じ絵本を何回読んでも、同じところで笑うし、同じところで泣くんです。こうやって子どもは、本の中から、笑いとか悲しみとか、怒りなどの感情を覚えていくものだと思う。だから私は、思い切り感情過多で、ものすごい演技もしていました。笑わせたいときには、こっちが〝ギャハハ〟と大袈裟に笑ってみたり……。読み聞かせの時間は、そりゃあもう大騒ぎでしたよ(笑)」

あるときは志村けんさん風に、あるときは女子高生風に――というように、声色を変えて、子どもたちをグッと引き寄せるなどの工夫もしていました。

「バービー人形を持ってきて、人形が女子高生風に喋っているような演出をするわけです。もうね、女子高生風にしても、志村けんさん風にしても、〝作品を読む〟ということに関しては、まったくなっていない読み方で、〝読むプロ〟としては失格です(笑)。
でも、それでいいのかなって。
子どもは、耳から入る言葉の意味はもちろんとらえていますが、それだけではない。読むリズムとか、言葉尻とか、そんなところにも引っ掛かりを覚えて、読み聞かせの時間を楽しんでいたんじゃないんですかねぇ」

ご主人の読み聞かせにしてもそうですが、堀井さん自身のそれも、構えず、力まず、肩の力を抜いて、自分なりの方法で子どもたちと向き合っていたようです。そんな親の姿勢が伝わり、子どもたちも、のびのびと読み聞かせの時間を楽しんでいたよう。
〝プロのワザ〟というよりも、〝お母さんの工夫〟。参考になりそうですね。


取材・文/佐藤美由紀

堀井美香さんインタビューは全4回。3回目は21年5月26日8:00〜公開です
【第3回】堀井美香さんインタビュー「親子で盛り上がる読み聞かせアイデア」とは

【第1回】堀井美香さんインタビュー「母に鍛えられた〝声に出して読む〟」絶大効果とは

寄稿家紹介

堀井美香 ほりいみか

ほりいみか
TBS アナウンサー●1972年3月22日生まれ、秋田県出身。法政大学法学部を卒業後、1995年にTBSに入社して以来、局アナとして第一線で活躍。これまでには多くのナレーションを担当し、ナレーションの名手としての存在感を放つ。TBSアナウンサーによる朗読会『A’LOUNG(エーラウンジ)』のプロデュースを担当するなど、朗読にも注力している。私生活では一男一女の母。子どもたちが幼い頃には、自分なりに工夫した絵本の読み聞かせを実践していた。TBSラジオ『ジェーン・スー生活は踊る』にレギュラー出演するほか、週1回のPodcast番組『Over the sun』を配信中。近著『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(カンゼン)が好評発売中。