加藤晶子の絵本『てがみぼうやのゆくところ』制作日記

第35回 講談社絵本新人賞受賞からデビューまで 第3回「届くことの奇跡」

※この記事は、講談社絵本通信(2014年)掲載の記事を再構成したものです。
秋も深まる11月。今回の打ち合わせは、私の地元、茅ヶ崎にて行われました。

前回の打ち合わせから絵コンテを何度も描き直し、全体がだいぶスムーズに流れるようになりました。しかし担当編者(N)さんのひとこと。

「てがみが届くことの奇跡感をもっと出したいですね。」

確かに後半、やや、てがみがさっくり届けられてしまう感じがありました。

このさっくり感を解消するには、まずひとつに、時間の経過を感じさせること。

ふたつめに、てがみが届くということは、あたりまえのことかもしれないけれど、じつはすごく奇跡的なことで、いろいろな人の手を介し、ワクワクしたり、ドキドキしたり、届けられるまでの「てがみぼうや」の心の動きが感じられること。

その想いが「届く」という結末につながる。そんな絵本にしたいところ。

美しい絵がお話全体を引き寄せるということはありますし、なんといっても、絵の力によって心が動かされるというのは、絵本の魅力のひとつです。

これは、やはり、実際の現場を見に行かなければ! 山に詳しい友人が、「海と町並みと小高い山が一度に見られる風景」を教えてくれました。

というわけで、行ってきました。

しかもこのシーンは朝日のシーンなので……、朝4時起きで寒かった……(実際に行ったのは2014年の1月でした)。

朝日が昇る少し前に到着し、徐々に明るさを増して黄色や赤からすっきりとした青に変化していく空、朝日に白く光る、海と山と町並み。そこは、まさに私の求めていた場所だったのです。

これをどう絵で表現するか(描けるかどうかは別問題なのですよね……)。美しかっただけに、ちょっとハードルがあがってしまいました……。
イメージで描いた下絵
実際の風景を見て、描いた下絵
微妙なちがいですが、こうしてくらべてみると臨場感がちがうでしょ?

ただスケッチはできるだけ忠実に描きますが、目的はうまく描くことではないので、実際に絵本の絵に落としこむ時は、そのものの特徴をとらえ、それらしく見えているかということを意識して、自分らしいタッチを探して描きます。

実際にできあがった絵もお見せしたいところですが、それは、またまた絵本でぜひ!(引っ張ってすみません。)


■おまけのはなし
昨年11月、地元、茅ヶ崎で個展『ありがとうの展覧会』を開催しました。

「てがみぼうや」の制作に集中すべきかなとも思いましたが、今まで応援してくださった方々にいち早く、直接お礼を言いたい。そんな気持ちもあり、思いきって開催することにしたのです。
今までの絵本のキャラクターを集合させたDM。てがみぼうやもいますよ。
今回は新作を描くかわりに7年間に描きため、手作り製本した9冊の絵本と、その絵本の原画の一部を少しずつ展示。そして、初公開! 小学生の頃に初めて作った絵本も展示しました。

そう、小学生の頃から本に携わる仕事がしたいと思っていた私は、その頃、20年後の自分に向けて夢を書いたタイムカプセルにも、「絵本作家」と書いていました。

さて、展示会場は、同級生が経営する小さなカフェ。いつも、展示に合わせたスイーツを作ってくれます。
「てがみぼうや」をかたどった、りんごのパイ。見た目だけでなく、味も保証付きです。
今回、(N)さんとの打ち合わせ場所が茅ヶ崎だったのも、この展示を見に来てくださったからでした。(N)さんもてがみぼうやのスイーツを召しあがってくださり、すべての絵本に目を通してくださいました。

帰り際、(N)さんがお土産にとくださったのが、偶然にもなんと「アップルパイ」(笑)。こちらも、とっても美味でした!

お礼展示のはずが、多くの方から私がすっかりエネルギーをいただいて、ますます制作意欲がわいたのでした。展示の準備は毎回大変ですが、いざ展示が始まると、楽しい! やっぱりまたやりたい! と思うので不思議です。

今後、『てがみぼうやのゆくところ』の原画展も予定しておりますので、どうぞお楽しみに♪

★次回は「師走の強化トレーニング?!」をお届けします。

こちらができあがった絵本です。

『てがみぼうやのゆくところ』
作:加藤晶子 講談社

加藤晶子さんの2作目となる絵本!

クルツの写真館は、どんなどうぶつも、みんな、ごきげんにしてしまう写真館です。気弱なライオン、あまえんぼうのカンガルー、写真を撮りたがらないふたごのくま。ここにくれば、どんな悩みや問題も、クルツがたちまち解決して、ごきげんな写真を、さあ、パチリ!

『クルツのごきげんしゃしんかん』
作:加藤晶子 講談社