2022.08.03

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こども家庭庁が23年発足 ホントに全ての子どもに役立つ? 保護者との関係は?

東京大学教授・山口慎太郎先生に聞く「こども家庭庁」#1 ~「こども家庭庁」の役割と私たちの生活の変化~

東京大学教授:山口 慎太郎

東京大学教授・山口慎太郎さん。ご自身も小学生のパパとして子育て中。  撮影:森﨑一寿美

子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」の設置関連法が、2022年6月15日参院本会議で可決、成立され、23年の4月に発足します。

少子化対策、子どもの貧困、虐待、いじめ、そして、ひとり親支援や保育サポートなど、日本の子どもとその保護者を取り巻く問題の対策を担うということで、日本の子育ての環境が前進するのでは、という期待を抱いている人もいるのではないでしょうか。

とはいえ、まだ「こども家庭庁」が私たちの生活にどう影響するのか具体的なことが見えてこないのも事実です。

そこで、経済学の視点で、結婚・出産・子育てを分析した著書『「家族の幸せ」の経済学』が、第41回サントリー学芸賞を受賞した、東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎先生に「こども家庭庁」の役割などについてお話を伺いました。

(全3回の1回目)

「こども家庭庁」はどんな子どもも取りこぼさない、子どもが真ん中にいる社会を目指す

――まずは、「こども家庭庁」とは、どのような機関なのかを教えてください。

山口慎太郎先生(以下、山口先生)「こども家庭庁」は、内閣府の外局として発足します。ここには子ども政策担当の内閣府特命担当大臣を置き、内閣府の子ども・子育て本部や、厚生労働省の子ども家庭局などが移管されることになっています。

庁内は、子ども政策に関連する大綱を作成する「企画立案・総合調整」、子どもの成長や安全、就学前の子どもの教育・保育を担う「成育」、そして困難を抱える子どもや家庭をサポートしていく「支援」の3部門が設けられる予定です。

また、各省庁などに対して子どもに関する政策の改善を求めることができる「勧告権」を持たせることで、進展しない事案を改善させるように強く勧告することもできるようになりました。

もちろん、これまでも子どもに関する行政は厚生労働省や文部科学省、少子化対策は内閣府、児童に対する性犯罪対策は警察庁が、それぞれ担当をしていました。ただ、同じ就学前の子どもの受け入れ先の担当でも、保育所は厚労省、幼稚園は文科省、認定こども園は内閣府が所管するなど、複数の行政組織にまたがっているのが現状です。

今回の「こども家庭庁」は、これまでのような組織の縦割りを解消することで、組織の間で支援から取りこぼされていた子どもを生じさせないようにすることを大きな目的としています。

「こども家庭庁」がどうして今、必要なのか?

――このタイミングで「こども家庭庁」が発足する理由はなんでしょうか?

山口先生:これまで何十年と対策を打ってきた少子化が止まる気配がないこと、そして、社会の子どもに対する眼差しが優しくなってきたという、このふたつがつながって、“子どもは大事な存在だ”、という認識がこれまで以上に広がったことが発足につながったのではないでしょうか。

子どもに対する社会の変化という点では、例えば児童虐待の相談対応件数が多くなっていることからもわかります。数字を見ると児童虐待が大幅に増えたというよりは、困っている子どもを助けてあげようとする周囲の人の意識が変わり、報告が増えたとも読むことができます。

――社会の変化に加え、行政として子どもを第一に考えるとしている「こども家庭庁」の発足は、実際に私たちの生活では具体的にどんな変化、メリットがあるのでしょうか?

山口先生:日本の制度は“平等”や“底上げ”ということが重視されてきました。今回、誰ひとり残さずにサポートすると基本方針で書いていることは大きな前進であり、メリットだと思います。

これはアメリカの「No Child Left Behind Act」という、学力格差是正のために行われた法からきているのではないかと推測しますが、より助けを多く必要としている人に、より多くの助けを差し伸べるという考えです。誰しもが同じ土俵で生活をし、学べるようにしようという方向に動いたのは素晴らしいことです。

これまで市民が行政サービスを利用する前提として、自主的な申請を必要とする申請主義が大きな課題となっていました。申請主義とは困っている人が、自ら困りごとに対する制度を見つけ、申請をしに行くのが前提になっていることをいいます。

しかし、時間や環境の拘束で申請ができない、もしくは実際には制度の存在すら知らないという人もいて、制度があっても助けが必要な人を取りこぼしてしまい、本来の目的を達成できないという問題がありました。

現在は、行政や自治体が対象者に能動的にサポートをするプッシュ型の支援が必要ということが言われていて、地方自治体などでもこれが徐々に広がりつつあります。

平均的な家庭から見たら、子どもの貧困や虐待は縁がないように見えるかもしれません。でも、そういった必要性が高いところへ支援を届けられるようになるのはとても大事なことなのです。今回の「こども家庭庁」の発足はこれを後押しする形になるでしょう。

山口先生の専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」。  撮影:森﨑一寿美

まだ見えない実効性のある政策 乏しい財源

――人々が制度にリーチしやすくなることで、子育て支援はより厚くなると期待できますね。

山口先生:福祉という面ではそうだと思います。私は子育て支援は次世代への投資だと考えています。どんな環境にいる子どもも、もれなく医療や保育、そして教育を等しく受けることができることは、社会全体に大きな利益をもたらします。

有名な幼児教育研究に『ペリー就学前プロジェクト』というのがあるのですが、この研究によると幼児期に教育を受けた子どもは“認知能力(学力テスト)”が大きく向上しただけでなく、忍耐力や協調性などの“非認知能力”も高くなったという結果が出ています。

実は、認知能力(学力)に対する影響は数年するとほぼ消えてしまうのですが、忍耐力や協調性など、感情をコントロールする非認知能力は、高校進学率を高め、40歳時点でも就業率や所得を上昇させ、さらに犯罪率も下げるという結果が出ています。

子育て支援による幼児期の保育や教育で心身の健全な発育を促すことは、彼らの青年期の伸びにつながり、彼らが大人になったときに、税金や保険料を納めて、引退世代を支えるようになるというメリットがあるのです。

とはいえ、「こども家庭庁」からは現時点で具体的な実効性のある政策はまだ見えていません。仮に政策が打ち出せたとしても、それを裏付ける財源が見えないのが事実です。

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