2021.05.31

日本と比べた「カナダの子育て」 州により学費免除 給付金&子育て資金もゲット

世界de子育て日和 〜カナダ・ケベック州編〜

寄稿家:江藤亜由美

同じ「子育て」でも、日本と海外でこんなに違った! ここではカナダ・ケベック州での日本人の子育てを報告。カナダでの想定外の出来事や恵まれたサポート体制を知ると、日本の子育てのあり方を考えさせられますーー。

北アメリカ大陸の北部に隣接し、世界で2番目に広い国カナダ。この広大なカナダの東部に位置するケベック州で2人の息子を育てる日本人の晃子さんにお話を伺いました。カナダの公用語は英語とフランス語です。カナダは10州と3準州から成りますが、そのうちフランス語圏はわずか2~3州で、ケベック州はその代表格とも言えます。ケベック州ならではの文化的背景に支えられた子育て・教育には、日本での子育てのヒントも見つかりました。

幼稚園から呼び出し……「足りないから今すぐ追加のお弁当を持ってきて!」ってマジですか?

留学中のカナダで夫となるステファンさんと出会い、結婚を機にステファンさんの地元のケベック州に居を構えた晃子さん。2人の息子、ジュリアンくんとセバスチャンくんは現地の幼稚園に通う年子の兄弟です。

ケベック州では自宅から幼稚園まで1マイル(約1.6キロ)以上離れている場合、スクールバスの送迎を利用できます。2人の兄弟も毎朝8時10分にスクールバスに乗って幼稚園に行き、午後3時半の終了と同時にまたスクールバスで帰宅するという生活を送っています。

カナダでは4歳、5歳にあたる子どもたちは幼稚園に通っています。新学期が9月始まりのため、9月時点で6歳の子どもたちはみな一斉に小学校へ進学します。パジャマデーやハロウィンなど楽しいイベントも多い幼稚園ですが、もちろんアルファベットを習うといった勉強タイムもあります。

「幼稚園の先生から『アルファベットの、この部分が苦手みたいなので、おうちでサポートしてあげてくださいね』など、わりと連絡がきますよ」(晃子さん)

この晃子さんの言葉からもわかるように、ここケベック州はアメリカをはじめ、欧米に見られるような『他人には干渉せず、基本的には個人主義』的な気質ではなく、どちらかといえば『困っているときはお互いさま。みんなで意見交換しながら、助け合っていきましょう』といった、集団の中において互いに声を掛け合う親切心が感じられます。

「なんと息子たちに持たせたランチにダメ出しの電話がかかってきたんですよ。『これじゃ全然足りませんから、今すぐ追加でランチを持ってきてください』と。あれにはびっくりしましたね。

あとデザートのゼリーを入れておいたときにも『甘いものは幼稚園では一切食べさせませんし、そもそもゼリーはランチじゃないですから』と注意を受けました。帰宅した息子たちのお弁当箱を開けたらゼリーだけ残っていました。食べようとしたら、先生から『食べちゃダメ』と止められたそうで……」
(晃子さん)

イラスト:Ayumi Eto

この幼稚園の対応、晃子さんでなくとも驚きですよね。ちょっとお節介な親戚のおばちゃんを連想させるような……。もちろん、これは嫌味などではなく、子どもたちの健康を気遣う善意の表れです。特に肥満体型の多い欧米ではシュガーハイ(糖分による興奮状態)への関心が高く、『子どものうちから気をつけましょう』といった親心とも呼べる気持ちの表れと言えるのではないでしょうか。

ここケベック州の地元民は自分たちのことをケベコア(ケベック人)と呼び、カナダの一部でありながらも英語圏のカナダ人たちとは一線を画している、と考えている傾向があります。つまり自分たちは『独自の民族性を持ったケベック人である』という強い誇りを持っているようにも感じられます。

ケベック州内はほぼフランス語がメインですが、実は本国フランスのそれとは少し違い、彼らに言わせるとフランス語ではなく『ケベック語』。このケベック人のオリジナル語とも言えるケベック語は言わば彼らのアイデンティティでもあります。

広いカナダの中で、その大切なアイデンティティを共有し合う少数派でもあるため、仲間意識が強くなるのも当然といえば当然なのかもしれませんね。

そういった文化的背景から改めて考えてみると、今回の電話の件も、保守的な土地柄が育んだ思いやりのような気もします。トロントやモントリオール、オタワといった英語メインで移民の多い大都市に比べると、ケベック州はケベック語という高い壁に阻まれた、外国人にはちょっと敷居の高いエリアと言えそうです。

ちなみにランチの件でダメ出し電話をかけてきたのは幼稚園の先生ではなく、正確にいえば学童の先生です。カナダでは学童のことをセルビス・ド・ガルド(Services de garde)と呼び、幼稚園の時間外での子どもたちのお世話を担当します。

「カナダでは幼稚園のランチタイムは幼稚園外の時間という認識なんです。ですからランチを食べさせるのは幼稚園の先生たちの仕事じゃないんですよ。幼稚園の先生は授業を受け持つだけ。代わりにセルビス・ド・ガルドが子どもたちにランチを食べさせてくれるんです」(晃子さん)

その他にも共働きの家庭では幼稚園が終わる午後3時半頃から5時半頃までの間はセルビス・ド・ガルドを利用するのが一般的です。保護者の中にはランチタイムに子どもを一旦自宅に連れて帰り、家でランチを食べさせた後、また幼稚園に連れてくるケースもあります。

長〜い夏休みの「キャンプ・ド・ジュール」 子どもたちは楽しいキャンプ 親は育児休憩!

イラスト:Ayumi Eto

2人のわんぱく坊やたちを育てるかたわら、なんとフランス語学校にも通っている晃子さん、その日常は毎日大忙しです。そんな晃子さんを含め、子どもを持つ親にとってカナダの長い夏休みを乗り切るためには『子どもをサマーキャンプに参加させる』という手があります。キャンプ・ド・ジュール(Camp de Jules)と呼ばれる、このサマーキャンプは子どもの得意分野を伸ばす絶好のチャンスでもあります。

ちなみに日本でキャンプと聞くと山や川に行き、テントを張ってバーベキューをして……という光景をイメージしがちですが、毎年恒例のカナダのサマーキャンプはちょっと違います。

「このキャンプ・ド・ジュールは夏休み期間中、様々なアクティビティクラスを通じて、子どもたちに色々なことを学ばせるのが目的なんです。クラスや期間によって値段はまちまちですが、子どもは誰でも自由に参加することができます。もちろん、うちの息子たちも早速参加させてみましたよ。とっても楽しそうでしたね」(晃子さん)

カナダの夏休みは約3ヵ月と長く、宿題もありません。共働きの家庭はもちろんのこと、1日中子どもが家にいてゴロゴロされて困るのは、どこの家庭もみな一緒。そういった長期の休みを利用して楽しく学べるキャンプ・ド・ジュールは、もはやカナダの夏の定番イベントのひとつです。その間、親も育児から解放されて自由な時間を満喫できますから、親子共に人気なのも分かる気がしますね。

このキャンプ・ド・ジュールでは豊富な種類の中から自由にクラスを選べます。たとえば水泳やサッカー、バレエなどのスポーツ系アクティビティに参加したり、みんなでクッキングを体験したりアートを楽しく学ぶなど、様々なジャンルに特化したクラスが用意されています。

手厚い移民サポートは嬉しいかぎり! 子どものキャンプ・ド・ジュール代も州が負担

イラスト:Ayumi Eto

さて、晃子さんが普段フルタイムでフランス語学校に通っていることもあり、子どもたちは長期のキャンプ・ド・ジュールに参加しました。そこで気になるのは、そのキャンプ代ですよね。長期なので当然費用も高くなります。

「1人あたり2000ドル(カナダドル、以下同)、約20万円弱だったでしょうか。高いですが、わたしがフランス語学校に通っているのでサポート対象となり、最初の1年間は全額無料でした」(晃子さん)

なんと! このほかにも子ども手当として、1人あたり年間約7000ドル(約70万円弱)が支給されるので保育園や幼稚園の費用に充てることができます。

さらには晃子さんが通っているフランス語学校の受講料も1年間(通算で約44週分。ケースによって期間の長さは異なります)は全額免除、しかも学校ではフランス語を習っているため、ケベック州から助成金として毎月800ドル(約8万円)が支給されていました(こちらも通算で44週分。ケースによってサポート期間は異なります)。

これには晃子さんも「最初の1年間は給料を貰いながらフランス語を学ばせてもらっている気分でしたよ」と、予想以上の手厚いサポートにびっくり! これはケベック州が積極的に移民や難民を受け入れ、サポートするシステムが整っているからです。この州ではフランス語を勉強する気さえあれば国籍問わず、誰もがサポート対象となります。

ひとくちに移民と言っても晃子さんのようにカナダ人と結婚し、特に不自由のない暮らしをしている外国人もいれば、発展途上国から来た人たちもいます。中には国境を超えて着の身着のまま逃げてきた難民も含まれます。

そういった人たちには無償で家を提供し、フランス語学校の受講料は免除、もちろん助成金もサポートされます(晃子さんの場合は800ドルですが、一家の収入によって助成金額やサポート期間は異なります)。

それでも足りないときにはフードバンクから格安で食料を購入することもできます。通っているフランス語学校がフードバンクと提携している場合、食料の申請をすることで家族全員分の食料が1週間分、学校に届けられます。

「支給される食品の種類は季節によって違いますが、例えば大きなブロック肉やフランス産チーズ、大量の野菜など家族分の食料がドンと学校に送られてきます。負担額は2人家族までで5ドル(約500円)、5人家族までで7ドル(約700円)、それ以上だと10ドル(約1000円)とリーズナブルです」(晃子さん)

こういったフードバンクは政情不安定な国から逃げてきた人たちにとって、まさに命綱。ですから家族の収入源がない場合は食費が全額免除されるケースもあります(以前は家族の数に関わらず、一律5ドルに設定されていましたから、今後も負担額は変動することが予想されます)。

英語圏のカナダと違い、フランス語圏の代表格ともいえるケベック州では特にフランス語を習得しなければ職探しも難しい。そのため移民や難民がフランス語を習得するのは死活問題であり、彼らがフランス語学校で勉強する姿は、もはやあたり前の光景です。

「ケベック州だったら移民が家族全員で来ても、まず飢えることはないんじゃないでしょうか」(晃子さん)。

サポート期間は約1年間とはいえ、こうした手厚い生活援助を求める外国人の姿は街のあちこちで見かけます。ここでは職を得るために親がフランス語を身に付けるのと同じくらい、移民の子どもたちにとってもフランス語の習得は必要不可欠です。

ですから、ここケベック州にはフランス語クラスを併設している学校と、そうでない学校があります。移民の中にはフランス語を話す子もいますが、基本的に話せない子どもたちは、まずはじめにフランス語クラスのある学校へ通うことになります。

子どもの日本語教育には手軽で便利なアニメ作戦!

ジュリアンくんとセバスチャンくんは日常的にパパとフランス語を話していることもあり、フランス語は堪能です。ですからフランス語クラスのない幼稚園に入園しました。以前、通っていた私立保育園もフランス語オンリーでした。

「うちの息子たち以外は全員白人ですが、子どもはいちいちそんなことは気にしませんからね。お友達もできて毎日楽しそうですよ」(晃子さん)

2人の子どもたちを通じて晃子さんにもママ友ができ、少しずつ現地の輪の中に溶け込んでいます。そんな中、最近気になっているのは子どもたちの日本語力です。「3歳ぐらいまでは日本語を話していたのに、ここ最近はさっぱりで……。ちょっと心配ですよね」(晃子さん)

日本語学校に通うためにはモントリオールまで行かなければならず、ちょっと痛いところでもあります。そこで試しに日本の公文式ドリルなどを渡したところ「2人とも楽しそうに解きはじめまして、あっという間に1冊終えちゃったんですよ」(晃子さん)

母もびっくりの集中力を発揮した2人に「これはいける!」と、あれこれ教材を買い集め、日本語対策を始めることに……。「あとはアニメ作戦でしょうか。殺戮シーンなどの少ないものがいいですね」(晃子さん)

なるほど、難解な図解や歴史上の人物なども、本を読むよりマンガで覚えた方が速いのは大人も同じです。「夫が以前、日本でマンガ版の歴史本を見つけて『超クール!』と大はしゃぎしてましたし。そのうち購入するんじゃないかな」(晃子さん)

公文式ドリルを楽しくこなせる2人なら、きっとアニメやマンガから日本語を学び始める日も近いのではないでしょうか。

ケベック州に初めて来た結婚当初、その独特な文化や考え方に驚きっぱなしだった晃子さんですが、今は子どもたちの将来を考え、どっしりと根を下ろす覚悟を決めました。

工作が得意な長男のジュリアンくんと動物好きな次男セバスチャンくんには「自分のためだけではなく、人のためにも力を使える人になってほしい」と願っています。

また「社会的な成功だけを追い求めるよりも、人と比べたりせずに自分の中でどんどん成長していってくれたらいいですね。多角的な物の見方を養ってくれたら嬉しいですし、いくつになっても心の成長を忘れないでいてほしい」と、小さな1歩を踏み出した、かわいい我が子たちの成長を温かな目で見守っています。

さて、ちょっとディープなカナディアンライフ、いかがだったでしょうか。カナダでは、移民や難民など多様な人間関係の中でバランスを取りながら生活するのはごく当たりまえです。日本人には馴染みのないこうした子育てや生活が、日本でも日常になる日が来るのかもしれません。

寄稿家紹介

江藤亜由美 えとうあゆみ

愛知県生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーター、エッセイスト。アメリカ、カリフォルニア州にあるアカデミー・オブ・アート・ユニバーシティのグラフィックデザイン科を卒業後、シリコンバレーにて就職。約8年半のアメリカ生活後、日本へ帰国。広告、雑誌、書籍などのデザイン業や編集業務およびイラストレーターを経て、現在に至る。近著『母乳を捨てるフランス人 ヘソの緒に無関心なアメリカ人』(雷鳥社)は世界10ヵ国、総勢16名の日本人女性に取材した1冊。日本人目線による、目からウロコの“ココが変だよ! 世界の海外出産話”がてんこ盛り。トイプードルの「もふ」をこよなく愛する。東京都在住。
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主な著作
『母乳を捨てるフランス人 ヘソの緒に無関心なアメリカ人』
『波乱爆笑 留学&就職物語―そんなこんなで仕事してました イン サンフランシスコ』
『CRAZY HALLOWEEN NIGHT in SAN FRANCISCO』(七草一月 名義)