巷にあふれる育児書から、3児の母ライターが厳選レビュー。
今回手に取ったのは『100万人が信頼した脳科学者の絶対に賢い子になる子育てバイブル』。
強気なタイトルに圧倒されつつも、本当に「賢い子」ってどんな子?に迫ります。
手探りの育児に終止符?
絶対に賢い子になる……? 正直タイトルからして苦手です(笑)。
以前の記事にもボヤいていますが、子どもの数だけ性格、個性があるわけで、子育ての正解はこれだ!と一つに断言されると信用できないタイプなんですよね、私。
帯にはこうありました。
“これが「頭のいい子」を育てる世界基準だ!”
やたら強気!
その訳は、有名な脳科学者の方が書いた本だから。脳科学の観点から、あらゆる研究結果をもとに導き出したお話なんです。
なるほど、手探りの育児にガツンと根拠ある答えを出してくれているというのは、ある意味興味深い。
でも同時に、こうじゃなきゃいけない、とプレッシャーを感じる可能性もありえるわけで。
育児書に翻弄されるタイプの方には、この本は少々窮屈な思いをする部分もあるかもしれません。
多くのママを苦しめる“母乳神話”を推すような内容もあり。あくまで一つの答えに過ぎないことを肝に銘じて、興味本意で読めそうな方は、是非!
脳の発達に合わせて妊娠中から我が子のためにできること
本書は、妊娠期のお話から始まります。
母親のお腹の中で、胎児の脳はどう発達し、外部からの刺激をいつどのくらい受け取るのか。それを根拠に親はお腹の子にこうするべきと説いてくれています。
読んだ後、ズボラな自身の妊娠期を振り返り、結局飲みきれず終わったあの葉酸サプリ、もっときちんと飲めばよかったなぁと思ったり……。
思わず目を留めたのは、「母親のストレスは、胎児の発達に深刻な影響を与えるおそれがある」という話。
赤ちゃんが癇癪を起しやすくなり……? まさか、今我が子たちが癇癪持ちなのは妊娠期のストレスのせい(笑)?
こんなことも載っていました。
つわりがない妊婦から生まれた子にくらべて、つわりがひどい妊婦から生まれた子のほうが、学童期になってIQが高いという結果が出るんだそうです。
私、幸いなことに妊娠3回ともつわりはとても軽い、いや、ほぼ無いに等しかったんですよねぇ(笑)。
とまあ、私の場合は、当時を思い返してあれこれ答えあわせをしながら、案外面白く読めました。
妊娠前半はできるだけ胎児をそっとしておくのが一番、そんな時期にモーツァルトなんか聞かせて効果が立証された実験はない、とか。
逆に妊娠後期で繰り返し聞いていた曲は幼児期に覚えている、とか。
妊娠6ヵ月以降に胎内でかいだにおいを好む傾向にある、妊娠後期の赤ちゃんは母親の食事を一緒に味わっているなど、各月齢でお腹の赤ちゃんが感じることができることを書いてくれています。
これを事前に読んでいたら、もっと妊婦ライフを楽しめたかも、と思ったりしましたね。
はなからモーツァルトを聞かせようという考えは私にはありませんでしたけど(笑)。
「賢い」ってどういうこと? 頭のできはIQだけでは判断できない
脳科学というだけあって、繰り返しIQの話が出てくるんですけど、こうするとIQが高い子になる傾向にあるなどのいくつもの研究結果は紹介しつつも、その数値だけで“賢さ”は決まらないということも書いてあります。
そんなに知能は単純ではないという主張なんですね、著者は。
IQは永久に不変のものではなく、環境で変動しやすい、あくまでも知能を測定するひとつの手法にすぎないと。
ああよかった、つわりが無かった自分も救われます(笑)。
では一体本当の意味での“賢い”とは何なのか。
それは、遺伝子レベルで新生児期から実は備わっているといわれる知能が大きく関わってくるんです。
それは一般的なIQでは測定されない、子どもが持って生まれたその知能を最大限に発揮できるかどうか、がキーになるということ。家族が違えば、才能の組み合わせも違います。
一体わが子はどんな知能に恵まれているのか、親が子に関わっていく中で子どもの才能を見きわめ、いかに伸ばしてあげられるかが重要だと言っています。
本書では「賢さ」につながりうる知能の要素のいくつかを詳しく解説してくれています。
例えば「なんで、なんで?」としつこく聞いてくる好奇心旺盛な子の探究心もそのひとつ。
子どもの行動の中にある小さな才能の芽に気づいてあげられる親はそう多くないと思うので、ここはぜひ読んでみてほしいです!
子どもの脳の発達には親子のコミュニケーションが必要不可欠!
幼児の脳の発達に一番大事で、一番影響力があるのは、何より親と顔を合わせて関わることなのです、と。
出ました、親子のコミュニケーション最強説! 脳科学をもってしても。
私なんかと遊ぶより、テレビを見てるほうがタメになる知恵がたくさん身につくだろうに……。
しかしIQに大きな差が生まれるほど、親が子にたくさん話しかけることは最も重要なことなのです。これは親子関係に限らず、人間が幸せな人生を歩むために大切な唯一のことは他者との人間関係だと、別ページでも熱弁されているほど。
生身の人との関わりがいかに大事かということですよね。
そんなこんなで2歳まではテレビを見せるべきではないそうです……。テレビは敵意を持たせ、集中力もそぐのだとか。
長男が幼児のころからテレビにはそれはもう、お世話になりっぱなしのわが家としては、少々反発心さえ生まれる事実。
同じくギクリときた子育て奮闘中のママさんたち、もしも、もしもですよ!
少し余裕ができた日はテレビを消してみて、一緒におままごとでもしてみるのもいいかもしれません。
幼児の心を育てる上で「ごっこ遊び」は脳科学的にとてもいいそうですよ。
まあそうは言っても現実問題、テレビを一切見せず過ごせる家庭なんてほぼいないのでは……?
5歳以降のテレビ鑑賞ははっきりとした結論が出ていないし、むしろいい影響があるという説もあるらしいので、まあ何事もほどほどにということで、と解釈して私はさらりと流します(笑)。
ちなみに、小1の息子に最近ついにゲームを解禁しました。ゲームとの関わり方はどのご家庭でも気になるところですよね。
ゲームもまたテレビ同様、結論がはっきりしないそうで、しかしながら運動が脳に非常にいい影響があるという結果から、テレビにしろゲームにしろ運動不足に陥ることが今わかる最大の脳への悪影響だということです。参考までに!
その他にも、子どもの気持ちに共感してあげることの大切さや、子どもがうまく処理できない感情を大人がきちんと言葉であらわしてあげることで落ち着きある子に育つなど、育児に役立つお話が多くありました。
夫婦関係が子どもに与える影響なんかも!かなりボリュームのある本なので、ここでは紹介しきれませんが、なかなか読み応えのある一冊であることは間違いないです。
実は最新脳科学は時代の流れとは真逆を行く?
読み終えて思うのは、不思議なことに最新科学で証明された内容なのに、その答えは意外や意外、昔からの手法というか、アナログというか、血の通った人間味あるものでした、って脳科学に失礼ですね(笑)。
本書に「どれもシンプルな手法で、どこにも凝ったところはない。なにしろインターネットが出現する前どころか、氷河時代の前から、脳はこうした手法で知能を発達させ、着実に前進を続けてきたのだから」とあります。
便利な世の中に頼りすぎている育児を、子育ての大先輩おばあちゃんではなく、まさかの最新科学に尻を叩かれるという、なんとも奇妙な体験。
時代がいくら変わっても、子育てにおいて大切な根幹は変わらないということですよね。
脳科学ってもっとお堅い難しいイメージがあったんですよ。IQだけが物を言う世界かとばかり思っていましたから。しかし“IQではなく、子どもの努力を褒めるべき”という一文を読み、なんだかホッとしました。
証拠を突きつけられ幾度となくバッサリ切られつつも、的確に、時に厳しく、最良の子育てに導いてくれる子育ての指南書といった感じ。
きちんと脳科学的な根拠があることで、どこかの育児評論家が経験と感覚で言っていることとは一味違う説得力、いや破壊力がありました(笑)。
全体を通して、今注目されている「非認知能力」を培うお話ともとれ、今回でより興味が湧いたので、このテーマに関して今後別の本も読んでいきたいと思います。
子どもの脳に着目する新しい子育て
情報過多な時代の中で、子育てのひとつの指針を証明してくれたという意味で、この本は存在感のある一冊だと思います。
細かいところまで全て鵜呑みにしてしまうと息苦しさを感じますが、子育てのあり方としては、個人的に好感が持てる内容でした。
“「正しい子育て」とは「正しく脳を発達させること」です”
これは本の最初に書かれている言葉。読み終えてこの言葉に戻ると、全て、なるほどねぇと思えます。
日々答えの出ない育児も、その子の脳にとって一番良いこととは? という基準で考えてみると、また違った子どもへの関わり方ができて良いかもしれません。
筒井 裕子
ViVi、FRaUなどの女性誌出身ライター。小二、年中、2歳の3児の子育てに奮闘中。
ViVi、FRaUなどの女性誌出身ライター。小二、年中、2歳の3児の子育てに奮闘中。