2022.02.12

ブックマーク

リズム教育 自己肯定感 トモエ学園とモンテッソーリ驚きの共通点

『窓ぎわのトットちゃん』をモンテッソーリ教育の視点で考える #03

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子

「きみは、本当はいい子なんだよ」というのは、小林宗作校長先生の有名なセリフですが、なんとマリア・モンテッソーリも、同じ言葉を大切なものとして書きとめていました。自然重視、リトミックによるリズム教育、そして、子どもの自己肯定感を高めること。
最終回となる連載3回目は、トモエ学園とモンテッソーリ教育に共通する、「子どもを育むもの」についてです。
(全3回の最終回。#1#2を読む)

子どもは自然とふれあうことで成長していきます。写真/photoAC

子どもをのばす愛の形

トモエ学園の小林校長先生の教育方針について、『窓ぎわのトットちゃん』のあとがきには、このように書かれています。


“「どんな子も、生まれたときには、いい性質を持っている。それが大きくなる間に、いろいろな、まわりの環境とか、大人たちの影響で、スポイルされてしまう。だから、早く、この『いい性質』を見つけて、それをのばしていき、個性のある人間にしていこう」というのでした。”

(『窓ぎわのトットちゃん』あとがきより)

大人は、子どもに良かれと思って、いろいろなことをしてしまいますが、大人が愛情だと信じて疑わないことが、実は子どもに悪影響を及ぼしていることはたくさんあります。

マリア・モンテッソーリはこのように述べています。

“子どもは成長する身体と展開する精神をそなえています。身体と精神という二重の形をとる永遠の泉つまり生命を持っています。私たちは謎につつまれた子どもの潜在能力を骨抜きにしたり、押さえつけたりしてはなりません。ただ、その能力が次々に現れ出るのを待たなければなりません。”
(『子どもの発見』〈マリア・モンテッソーリ著 日本モンテッソーリ教育綜合研究所 中村勇訳〉p79より)

子どもには、自己教育力があり、大人はそれを信じ、援助者としての立場を忘れないようにする、ということが、モンテッソーリ教育においてはとても大切なのです。それによって子どもは自分自身の人格を形成していくことができます。

子どもを発育させるのは「自然」

あとがきには続けてこのようなことも書かれています。


“また、先生は、自然が好きでした。子供たちの性格も、できるだけ自然であること、と考えてらしたようです。”

(『窓ぎわのトットちゃん』あとがきより)

「自然」というのもモンテッソーリ教育におけるキーワードのひとつです。

“子どもの自然の発育を無理に進めようとしても害を与えるばかりです。発育をさせるのは自然だけです。何でも自然にかかっていて、その正確な命令に従わねばなりません。”
(『子どもの心ー吸収する心ー』〈マリア・モンテッソーリ著 鼓常良訳 国土社〉 p98より)

子どもは自然のなかで育つ。写真提供/田中昌子

こうして書き進めてみますと、小林宗作先生は、ヨーロッパに二度留学され、リトミックをエミール・ジャック=ダルクローズから学ばれたとのことでしたが、いろいろな学校を見学された中に、モンテッソーリの学校もあったのではないかと感じてしまいます。

トモエ学園を作られる前に関わっていらっしゃった成城幼稚園の見取り図に、モンテッソーリの教具の部屋、というのがあったということは、『小林宗作抄伝―トットちゃんの先生 金子巴氏の話を中心に』(著:佐野和彦 話の特集)という本に掲載されているそうですが、それ以上の情報はまだ得られていません。

この記事を読まれた方の中に、小林宗作先生とモンテッソーリの繋がりを示す手がかりをお持ちの方がいらしたら、ぜひ教えていただきたいと願っております。

ちなみに、エミール・ジャック=ダルクローズ(1865年 - 1950年)とマリア・モンテッソーリ(1870年 - 1952年)は、ほぼ同時代にパリとローマという地理的にも近い場所で生きた人でした。

モンテッソーリ教育でも、その初期から、音楽に合わせて歩いたり、全身を動かしたりする「リズム運動(リズム活動)」と呼ばれる、リトミックによく似た内容が実践されていたことは、著書に残っています。

古くて新しい教育の形

小林宗作先生もマリア・モンテッソーリも、子どもへの深い愛を持ち、一人一人の子どもに対して最適な教育というものを追求した人でした。その教育法は、当時は独特のもので、時には周りから誤解を受けることもあったというのも共通しています。でも、実はその教育法が今、「新しい教育」として見直されています。

第一回の記事で、現役の小学校教師でいらっしゃる熱海康太先生が、モンテッソーリ教育と似ている、と書かれたことを引用しましたが、その続きにはこうあります。

どちらも、子どもの個性を尊重し、主体性を育み、自己肯定感や自己有用感を育てるものとされており、幸せの形が多様化してきた現代において、注目されている教育理論です。”

特に今回の新型コロナウイルスでは、広い視野を持って自分で考え、使命感を持って行動できる人を育てる教育が求められていることが明確になりました。

*参照:「コロナ禍でのモンテッソーリ育ちの子どもたち」子育て相談 モンテッソーリで考えよう! (コロナ特別回)
小林宗作先生やマリア・モンテッソーリが目指した教育が、決して特殊なものではなく、ごく当たり前のものとして、広く行われてほしいのです。

なぜなら、コロナ禍で、

”昨年度、自殺した児童や生徒は初めて400人を超え、小中学生の不登校は19万人以上と、いずれも過去最多となったことが分かりました”(2021年10月13日 20時17分 NHKWEBニュースより)

という現実があるからです。


“そして、もし、今でもトモエがあったら、「登校拒否する子なんて、一人もいないだろうな」、と考えます。だって、トモエでは、みんな学校が終わっても、放課後、家に帰りたくないぐらいだったんです。そして、また次の朝は、早く学校に行きたくて、待ち切れないくらいだったんです。トモエというのは、そういう学校でした。”

(『窓ぎわのトットちゃん』あとがきより)

黒柳徹子さんはこんなふうに書いていらっしゃいますが、モンテッソーリ園やモンテッソーリ小学校では同じような報告がたくさんあります。普通の幼稚園や保育園では、登園渋りがよく問題になりますが、長期の休みでも行きたい、卒園・卒業してからも行きたい、という子どもたちがいっぱいで、コロナ禍では、行けないことを残念がる子どもが続出しました。​​

子どもたちが、行きたくてしかたがないという学校を、ぜひ、日本にもたくさん作っていただきたいと願っています。

最後に、『窓ぎわのトットちゃん』でもっとも有名な、小林宗作先生の「きみは、本当はいい子なんだよ」というフレーズについてですが、実はこれも、マリア・​モンテッソーリが著書の中に少し違った形で記録しています。

“時々、子どもが教師に近づき、まるで秘密を明かすように、彼女の耳に囁くのを見たことがあります。
『先生、私、良い子なの。』
この観察は、他の人も高く評価しましたが、私にとって、これは格別、役に立ちました。”

(『子どもから始まる新しい教育 ―モンテッソーリ・メソッド確立の原点―』〈マリア・モンテッソーリ著 AMI友の会NIPPON訳・監修 風鳴舎〉p57より)

家庭でも園でも小中学校でも、トットちゃんのママや小林宗作先生のように、子どもを一人の人間として大切にする、子どもが元々持っている素晴らしい素質をつぶさずに援助できたら、どんなに子どもたちが幸せになれるでしょうか。

そのヒントは、トモエ学園、そして、モンテッソーリ教育の中にたくさん散りばめられているということを、お伝えしました。

長年大切にしてきた『窓ぎわのトットちゃん』を手に。写真提供/田中昌子

『窓ぎわのトットちゃん』(文:黒柳徹子 絵:いわさきちひろ)
黒柳徹子さんの小学校時代を描いた自伝的小説。いまでも発売当時のままの形で売られている、戦後最大のベストセラー。

『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A 68』(著:田中 昌子 講談社)
身近な悩みを通して、モンテッソーリ教育の考え方を知り、自分で悩みを解決できるようになる!と評判の1冊。

たなか まさこ

田中 昌子

Masako Tanaka
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京...

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