なんだ、この生きものは‼︎ 巨大エビ、巨大チョウ…西表島は巨大な生きものの島!

サイエンスライター・柴田佳秀の「生きもの好きの聖地・西表島紀行」その2

サイエンスライター:柴田 佳秀

2022年夏に実施した、MOVE ラボ企画「子どもの夢をかなえる“図鑑旅”」。今回は、研究員家族の西表島旅行に同行してくれたサイエンスライター、柴田佳秀さんの西表島・生きもの紀行第二弾をお届けします。
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いよいよ本格的な生きもの探しに出発

西表島 2 日目は、いよいよ本格的な生きもの探しに出発ですが、この島は、森、川、海のすべてが魅力あふれる場所ばかり。どこへ行けばいいのか迷ってしまいます。

そんなときは、現地の自然を詳しく知っている人の力を借りるのがベスト。今回は西表島の自然に精通しているネイチャーガイドの赤塚義之さんに案内をお願いしました。また、世界自然遺産に登録されている西表島は、ガイドさんの同行が必要な場所もあり、注意が必要です。
森、川、海とわず西表の自然に詳しいガイドの赤塚義之さん。

コンジンテナガエビを探せ!

今回の図鑑旅では、研究員のユウトくんの夢をかなえることが重要なミッション。その夢のひとつがコンジンテナガエビを捕らえることです。そこでガイドの赤塚さんに相談したところ、エビがたくさんいるとっておきの場所へ案内してくれることになりました。

コンジンテナガエビは、東アフリカから東南アジア、日本にかけて広く分布する川にすむエビのなかま。日本では南西諸島の島々で多く見られます。川にすむエビはたいていはそれほど大きくならないのですが、コンジンテナガエビは尻尾からハサミの先まで入れると 30cm を超えることもある巨大なエビなのです。
はさみが長いコンジンテナガエビのオス。日本最大のテナガエビ類。
西表島の川には、上流から下流までコンジンテナガエビが生息していますが、より多くの個体がいるのは、ある条件を満たした場所だと赤塚さんは言います。

それは大きな滝のその上流。滝によってエビを捕食する大きな魚が遡上できないため、たくさんのエビがいるのだそうです。
こんな巨石がごろごろある川にコンジンテナガエビがすんでいる。
赤塚さんの案内でジャングルの山道を進むこと 1 時間。途中、日本最大級のチョウであるオオゴマダラなどを観察しながら、ようやく目的の川に到着です。さっそく川を覗いてみると、岩の隙間にいる独特の長いハサミを持つコンジンテナガエビの姿をすぐに発見。

静かにしていると、あちこちからエビが姿を現します。さすがとっておきの場所です。さっそく研究員のユウトくんは、エビを捕まえる特別な網を使って捕獲に挑戦。すぐに巨大なコンジンテナガエビをゲットし、夢をかなえることができたのでした。
山道の途中で出会った日本最大級のチョウ・オオゴマダラ。
夢がかなって満足げなユウト研究員。

超珍品の無尾型クロアゲハを発見!

1 年中暖かい西表島は、チョウの楽園としても有名。台湾に近いため、日本ではあまり見ることができない珍しいチョウが飛んでくることもあります。

川は水を求めてチョウが集まる場所なので観察にはもってこいのポイント。この日もヤエヤマカラスアゲハやミカドアゲハ、イシガケチョウなどが吸水にやってきました。
しばらく水を飲むチョウたちを見ていると、1 匹の見慣れないチョウに気がつきました。色や形はクロアゲハなのですが、後翅に尾状突起と呼ばれる細長く飛び出した部分がないのです。

後に調べたら、これは無尾型と呼ばれる尾状突起がないクロアゲハで、台湾に多くいるタイプ。日本で見るのはかなり珍しいことです。

わずか数時間の滞在でこんな珍しいチョウに出会えるなんて、西表島のポテンシャルの高さには本当に驚きます。
無尾型のクロアゲハ(右)これを狙って来島する蝶マニアもいるという。

ビックリ仰天昆虫のヤエヤマツダナナフシ

コンジンテナガエビのミッションをクリアした私たちは、山を下りて海岸にやってきました。そして、この場所で前回のレポートの冒頭でも紹介した驚愕の昆虫、ヤエヤマツダナナフシに出会ったのです。

この昆虫は、昼間は食草のアダンの葉と葉の隙間に隠れているのですが、見つけるのが極めて難しく、専門家でもなかなか出会えないと聞きます。

見つけるコツは、ヤエヤマツダナナフシが食べた跡のあるアダンを見つけ、葉の隙間を丹念に探し続けること。そう言いながらガイドの赤塚さんが探すこと 10 分、「いた!」と声を上げました。
葉のところどころがちぎれたようなのが食痕。このようなアダンでひたすら探す。
赤塚さんが指さす葉の隙間を見ますが、はじめはどこにいるのかよくわかりません。

でも、よーく見ると葉の隙間に身を伏せるように隠れているヤエヤマツダナナフシの姿を確認することができました。なるほど、これではなかなか見つからないわけです。こんなに隠れ上手なので、1989 年までその存在が知られていなかったのでしょう。
葉の隙間に伏せて身を隠すヤエヤマツダナナフシ。
さらに驚いたのがその巨大さ。隠れているときはあまり実感しませんでしたが、手に乗せてみると私の手とほぼ同じ。12cm もありました。

さすがは日本最大のナナフシです。

また、この虫は危険が迫るとミントのような臭いがする液体を噴出する事で有名なのですが、このときも液体を噴射。しっかり、ミント臭を確認することができました。
ヤエヤマツダナナフシを手に乗せる筆者。ユウト研究員は臭いを確かめている。
ヤエヤマツダナナフシの不思議は、これだけではありません。オスがほとんどおらず、メスだけで卵を産んで増える変わった習性があり、その卵は海流に乗って運ばれて分布を広げるのだそうです。

西表島では、この虫がいるのは島の北部だけに限られていて、これは海流の影響ではないかと考えられているとのこと。それにしても日本にこんなヘンテコな昆虫がいるとは......。また改めて西表島の生物多様性の豊かさを実感したのでありました。(第3回へつづく)

写真提供/柴田佳秀

「子どもの夢をかなえる“図鑑旅”プロジェクト」とは?

コロナ禍での行動制限や活動自粛に伴い、子どもの自然体験や旅の機会が減っていることに憂いや不安を抱いている保護者が増えている昨今。MOVE編集チームでは、図鑑編集に携わる私たちならではの「好奇心を刺激し、夢をかなえるような旅を子どもたちにしてほしい」、「濃い思い出として記憶に残る数日を親子で過ごしてほしい」—そんな思いを込めて家族で楽しめる旅を企画しました。

図鑑がきっかけで興味をもったり、好きになったものを自分の五感で見たり、触れたり、感じることができる旅。実物に触れることで、図鑑からスタートした好奇心を、さらに刺激してあげることができる旅。これを編集部では、“図鑑旅”と名付けて、これからも様々な目的地を探っていこうと思っています。

また、今回の旅の実現に向けて、全日本空輸株式会社様、株式会社星野リゾート様には、企画のスタートの段階より、目的地やそこでの過ごし方について相談し、多くのご協力をいただきました。

MOVEラボ研究員・ゆうとのレポートもチェック!

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しばた よしひで

柴田 佳秀

Shibata Yoshihide
サイエンスライター

元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。

元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。