妖怪「小豆洗い」の正体は「まっくろくろすけ」のような見た目のチャタテムシだった!?

[ちょっとマニアな季節の生きもの]昆虫研究家・伊藤弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ

昆虫研究家:伊藤 弥寿彦

「まっくろくろすけ」みたいな変な虫

すべての画像を見る(全4枚)
まっくろくろすけ? 木の幹に貼り付いたチャタテムシ(恐らくスジチャタテ)の幼虫。
2022年5月初旬のある晴れた日、横浜市の自然公園で昆虫や植物の観察をしていたときのことです。白っぽい木の幹に、直径5センチほどのかたまりがくっついていることに気づきました。よく見ると2ミリほどの小さな昆虫が何百匹も寄り集まっています。

久しぶりに見た「チャタテムシの幼虫(恐らくスジチャタテ)の大集団」でした。
春先に森を歩く機会があったら注意深く探してみてください。このチャタテムシの集団が見つかるかもしれません。見つけたら、軽くつついてみてください。びっくりすると思いますよ(笑)

「チャタテムシ」って、何だか変な名前ですね。この仲間は日本だけでも数百種類(世界には5000種類以上?)もいて、種類によって暮らしぶりもさまざまです。実は、家の中にもすみつくことがある種類もいます。それが集団で障子に止まって音を出すと、その音が障子紙に共鳴して、まっ茶をたてるときのような「チャッチャッチャッ」という音がするので、こんな名前がついたのです(どうやって音を出しているのかは、よくわかっていないのだそうです!)。

「小豆洗い」という妖怪を知っていますか?  夜、かすかな小豆をとぐような音がするのに、見に行くと誰もいない……。そんな謎の現象を、昔の人は妖怪に見立てました。実はそれ、スカシチャタテというチャタテムシの仕業なのだ、と今ではいわれています。

まだわからないことだらけの「チャタテムシ」

カラスザンショウの枯れ枝から突如発生したチャタテムシの一種(成虫)
 もうひとつの写真は、また別の種類のチャタテムシの成虫です。これも大きさ、わずか2ミリほど。成虫には立派なはねがあって、一見セミのような姿です。このチャタテムシ、私の専門のカミキリムシ(タイワンメダカカミキリ)の幼虫が入った木(カラスザンショウ)の枯れ枝を飼育箱に入れておいたら、ある日突然、大発生しました。

幼虫がどこにいたのかまったくわからず、びっくりしました(今でも謎です)。実はチャタテムシの研究者は日本にはほとんどいないので、種類も生態もわからないことだらけ。まだ名前の付いていない新種もたくさんいることは間違いありません。
カラスザンショウの枯れ枝から突如発生したチャタテムシの一種(成虫)のアップ
謎だらけのチャタテムシ。「小豆あらい」も「まっくろくろすけ」も妖怪ですから、チャタテムシは、「昆虫界の妖怪」? といっても良いかもしれませんね(笑)

写真提供/伊藤弥寿彦

この記事の画像をもっと見る(4枚)
いとう やすひこ

伊藤 弥寿彦

Ito Yasuhiko
自然番組ディレクター・昆虫研究家

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。