特別天然記念物のカンムリワシに会いたい! 西表島では「道路でバードウォッチング」が鉄則!
サイエンスライター・柴田佳秀の「生きもの好きの聖地・西表島紀行」その5
2023.02.07
科学ジャーナリスト:柴田 佳秀
鳥を見なくちゃ終われない!
西表島は、特別天然記念物のカンムリワシをはじめ、八重山諸島に来なければ出会えない鳥がたくさんいて、バードウォッチャーにとってはパラダイスみたいなところなんです。ということで、早起きして鳥を見に出かけることにしました。
鳥は道路で探せ!
うっそうと葉が茂るジャングルでは鳥の姿が見えませんし、例えいたとしても鳥の方が先に人に気がつき、逃げてしまいます。その点、道路は見通しがよいので鳥が見つけやすく、道路沿いの電線は鳥がよく止まる場所なのでバードウォッチングをするにはよいポイントなのです。
また、自動車の中から観察するとあまり鳥を警戒させないで済むなどのメリットもあります。
西表島にきて、ぜったいに見なければならない鳥はカンムリワシですね。なにしろ国の特別天然記念物ですし、日本では石垣島と西表島でしか見られない鳥なんです。早朝は電柱にとまっていることが多いので、車をゆっくりと走らせながら姿を探します。
ホテルを出発して約5分。やっぱりカンムリワシは電柱にいました。ワシというと深山幽谷の鳥でなかなか出会えないと思われがちですが、この鳥はむしろ道路沿いでよく見られます。草が茂っていない道路は、獲物となるトカゲやカニが見つけやすいので、電柱にとまって狙っているのです。
早朝の道路では、カンムリワシをはじめ、天然記念物のキンバトやシロハラクイナなどの鳥の他、リュウキュウイノシシなど、1時間半ほどの短い観察時間にもかかわらず、いろいろな生きものに出会えました。
これらの生きものはなぜ、道路に出てくるのでしょう。
それは食べものがあるから。街路樹の木の実が落ちていたり、実が車にひかれて砕かれ食べやすくなっているなど、生きものにとって魅力的な食べものがたくさん落ちているからです。
道路は生きものを観察するポイントとして良いのですが、その一方で悪影響もあります。それは動物の交通事故です。道路に出てきたために車にひかれてしまう生きものがたくさんいるのです。
特に深刻なのがイリオモテヤマネコ。全個体数が100頭といわれるイリオモテヤマネコですが、ここ数年、最悪のペースで事故が起こっており、私たちが島を訪れた数週間前にも子猫が2頭犠牲になったそうです。島の道路のあちこちに、ヤマネコ注意の看板が設置されていて、問題の深刻さがうかがえました。
ただでさえ数が少ないヤマネコが交通事故で死んでしまうと、絶滅の恐れが高くなってしまいます。事故を起こさないためには、とにかくゆっくり走ること。
生きもの観察で動物たちをひいてしまったら元も子もないので特に注意したいと思います。
西表島の図鑑旅も終わり、島を去るときがきました。でも、港までのバスが来るまで少し時間があったのでチョウの観察をすることに。西表島ホテルの庭は花が咲く植物がたくさんあるのでチョウが多いのです。
観察をはじめてからすぐ、枝になっている果実にたくさんのチョウが群がっているのを見つけました。そのとき写したのが下の写真です。
ここにはリュウキュウアサギマラダ、ツマムラサキマダラ、マルバネルリマダラ、ヒメアサギマダラの 4 種が写っています。30 年前に私が西表を訪ねたときには、リュウキュウアサギマダラ以外のチョウは、ごく稀に見られるにすぎない迷蝶でした。
話では西表島に定着しつつあるとは聞いていましたが、まさかこんなにいるとは驚くばかり。ましてや 1 枚の写真に同時に収まるとは信じられない光景なのです。
これらのチョウが見られるようになったことは、喜んで良いことなのかわかりません。ただ、一つ言えることは、西表島の生態系が変化しているのは間違いありません。
西表島の自然がいつまでも
この小さな島で、イリオモテヤマネコのような肉食ほ乳類が絶えることなく暮らしていけるのは奇跡といわれています。その奇跡を可能にしたのは、食べものとなる数多くの生きものがいるからです。
今回の旅ではそれを実感することの連続。世界自然遺産に登録されるにふさわしい生物多様性の豊かな島であることを身をもって知ることができました。ただ、私が訪れた 30 年前に比べて、リュウキュウコノハズクの数が少なかったり、海中のサンゴが白化し、魚が極端に少ない印象を覚えたのも事実です。
私が次にこの島に来るのが何年後かわかりませんが、また来たときにも、たくさんの生きものに出会える、そんな西表島であって欲しい。それには何をするべきなのだろうと考えながら遠くに離れていく島影を見つめました。(おわり)
「子どもの夢をかなえる“図鑑旅”プロジェクト」とは?
コロナ禍での行動制限や活動自粛に伴い、子どもの自然体験や旅の機会が減っていることに憂いや不安を抱いている保護者が増えている昨今。MOVE編集チームでは、図鑑編集に携わる私たちならではの「好奇心を刺激し、夢をかなえるような旅を子どもたちにしてほしい」、「濃い思い出として記憶に残る数日を親子で過ごしてほしい」—そんな思いを込めて家族で楽しめる旅を企画しました。
図鑑がきっかけで興味をもったり、好きになったものを自分の五感で見たり、触れたり、感じることができる旅。実物に触れることで、図鑑からスタートした好奇心を、さらに刺激してあげることができる旅。これを編集部では、“図鑑旅”と名付けて、これからも様々な目的地を探っていこうと思っています。
また、今回の旅の実現に向けて、全日本空輸株式会社様、株式会社星野リゾート様には、企画のスタートの段階より、目的地やそこでの過ごし方について相談し、多くのご協力をいただきました。
柴田 佳秀
元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。
元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。