日本一のマングローブがある島
西表島のマングローブを構成する主な樹木は、オヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギなど7種。日本で見られるすべてがあります。それぞれ塩分濃度や土の質、満水時の深さなど、種によって好みがあり、それにあった場所に生育しているのです。
けっしてデタラメにはえているわけではありません。
根っこが面白いマングローブ
それは、この植物がはえているのが砂地の不安定な場所だから。また、水に浸かる時間は波があるので体を支えるのはかなりたいへん。そこでたくさんの根をタコの足のようにはやして倒れないように体を支えているのです。
ですからこの根は、支柱根と呼ばれています。また、この根には、塩分をろ過する仕組みがあり、海水でも枯れないのだそうです。ヤエヤマヒルギだけでなく、マングローブの木々には、塩分を除去する何らかの仕組みが必ずあり、海水に浸る場所でも生きていけるのです。
ヤエヤマヒルギの隣にあったこのヒルギダマシの周りには、鉛筆のような棒状のものが地面からたくさん出ていました。じつはこれはヒルギダマシの根っこで、呼吸根という空気を吸うための根です。
普通、植物は水に浸かってしまうと地中の根から呼吸できなくなり枯れてしまいますが、このヒルギダマシは、呼吸根を地中から空中へ出して呼吸できるため、枯れないで生きていけるのです。ヒルギダマシ以外のマングローブ植物でも、根の形はさまざまですが、同じように呼吸するための根があります。
マングローブの根を観察していると、ニンジンみたいな形をした貝がたくさんいることに気がつきました。
ネイチャーガイドの赤塚さんに尋ねると、キバウミニナという巻き貝だと言います。それにしても無数にキバウミニナがいて、ちょっと気持ち悪いくらいです。
この貝はこんなところで何をしているかと思いきや、なんとマングローブの葉を食べるために落ちてくるのを待っているんだそうです。おそらくあっという間に食べてしまうのでしょう。見た限りでは落ち葉は全く見当たりません。ものすごい処理能力です。
キバウミニナが落ち葉を食べることは、とても重要なことなのです。それは糞が小さな生きものの食べものになるから。
キバウミニナが葉を食べると細かく裁断されて糞となって排出されます。それを今度はシオマネキやカニなどの生きものが食べるのです。そして、また糞として排出され、それを別の生きものが食べ、やがて栄養となって再びマングローブの木々に吸収される。
マングローブを中心とした循環がここにはあり、まさに持続可能な仕組みがずっと続けられてきたのです。
じつはマングローブに来た理由は、(MOVEラボ研究員の)ユウトくんの、もう一つの夢をかなえることでもありました。それは幸せの青いシオマネキと呼ばれるルリマダラシオマネキを見つけること。しかし、このシオマネキは、かなりレアだというのではたして発見できるかどうか。
目をこらして遠くのマングローブの根元を見ていると、小さな白い動くものが見えました。気がつくと、あっちにもこっちにも。双眼鏡で確認すると、それは小さなカニ。オキナワハクセンシオマネキのオスが、片方だけ大きくなった白いハサミを手招きするように大きく振り上げ動かしている姿でした。
これはシオマネキ類特有の求愛行動で、水が引いて地面があらわれると穴から出てきて、一斉にこの行動を始めるのです。その姿はなんともユーモラス。ずっと見ていても全く飽きません。
ルリマダラシオマネキは見つけられませんでしたが、それでもたくさんのオキナワハクセンシオマネキやミナミヒメシオマネキ、ヤエヤマシオマネキを観察することができました。西表島のマングローブで見られるシオマネキ類は 8 種もいて、一つの島でこれほど多くの種を観察できるところはそうそうありません。
たくさんの種類のシオマネキは、西表島のマングローブがいかに生物多様性が豊かな場所であるかということを物語っているーここでもまた、この島の生物多様性の豊かさを実感することになりました。
写真提供/柴田佳秀、赤塚義之
「子どもの夢をかなえる“図鑑旅”プロジェクト」とは?
コロナ禍での行動制限や活動自粛に伴い、子どもの自然体験や旅の機会が減っていることに憂いや不安を抱いている保護者が増えている昨今。MOVE編集チームでは、図鑑編集に携わる私たちならではの「好奇心を刺激し、夢をかなえるような旅を子どもたちにしてほしい」、「濃い思い出として記憶に残る数日を親子で過ごしてほしい」—そんな思いを込めて家族で楽しめる旅を企画しました。
図鑑がきっかけで興味をもったり、好きになったものを自分の五感で見たり、触れたり、感じることができる旅。実物に触れることで、図鑑からスタートした好奇心を、さらに刺激してあげることができる旅。これを編集部では、“図鑑旅”と名付けて、これからも様々な目的地を探っていこうと思っています。
また、今回の旅の実現に向けて、全日本空輸株式会社様、株式会社星野リゾート様には、企画のスタートの段階より、目的地やそこでの過ごし方について相談し、多くのご協力をいただきました。
柴田 佳秀
元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。
元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。